私が忘れたラブゲーム

小森 輝

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私が忘れたラブゲーム 2

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 起きてからは、とにかく検査。医者が変わっては、また検査。
 そして、徐々に私の体から様々な装置が外されていき、二日後には体の痛みもなくなり、普通に歩けるようになった。
 病院のご飯はあんまりおいしくないし、寝るか歩くだけのリハビリで退屈だし、正直、もう退院したいけれど、病院はまだ退院させてくれない。
 そんな退屈な日々だけれど、目新しいこともあった。
「こんにちは、葉山さん」
 私の病室に入ってきたのは、医者ではなかった。黒いスーツを着て無精髭を生やしたおじさん。もちろん、私の父親でもないし、学校の先生でもない。初めて会った見知らぬ他人だ。
「あの……どちら様ですか?」
 警戒と嫌悪の目で見ると、慌てて胸ポケットから何かを取り出した。
「あぁ、すいません。私、こういうものでして……」
 それは、警察手帳。まるで、ドラマで見る警察と同じような仕草で見せてきた。
「警察がどうして……?」
「あっ、起きあがらなくても。まだ体の調子も悪いだろうし」
「それじゃあ……遠慮なく……」
 別に体には問題ないけれど、起きあがらなくてもいいと言われた以上、無理に起きあがるつもりはない。
「君に聞きたいことがあってね。お医者さんには許可とってあるから心配しないで。あと、答えたくないことは答えなくてもいいから。まあ、できるだけ答えては欲しいんだけど」
「……分かりました」
 そう言われても、警察に隠し事なんてできそうにはない。
「それじゃあ、君が学校の屋上から落ちたときのことを教えてくれるかな?」
「それは……」
 隠し事をする気はないけれど、覚えていないことは答えられない。
「いや、無理に言わなくていいんだ。自殺にしろ事故にしろ、辛い記憶に変わりはないんだから」
「そうじゃなくて……その……落ちた時のこと、覚えてなくて……」
「覚えて、ない? ってことは、記憶喪失ってことか。そんなこと聞いてないんだけどな……」
「……すいません。覚えてないのは、落ちたときのことだけみたいなんで……」
「いや、いいんだよ。辛い記憶というのは誰だって覚えておきたくないものだから。しかも、それが死にそうなときのものならなおさら」
「……すいません」
「そんな気に病まないでくれ。無理に思い出すようなものでもないだろうし。ゆっくり、時間をかけて思い出すといい」
 そう言って、刑事さんは一枚の紙を置いた。
「何か思い出したら教えてくれ。これ、俺の名刺。連絡先も書いてあるから」
 あんまり力になれた気はしないのだが、刑事さんは名刺だけを置いて帰って行った。
 入院中の変わったことはそれぐらいで、私は記憶が戻らないまま退院する事になった。
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