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英華女学院の七不思議 52
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生徒指導室に着く頃には、雛ノ森さんの涙も止まり、落ち着いた心で会話できる状態になっていた。
「もう知っているようだから、全部話すわ」
私が促すまでもなく、冬美さんが自分から話を切り出してくれた。
「2年前、姉が失踪した日。私は姉に嘘をついたの。吉田先生が東の林を進んだところにある旧学生寮で待っているって」
その嘘を信じた涼子さんは旧学生寮へと行き、運悪く穴に落ち、頭を打って亡くなってしまったということらしい。自分のせいで姉を殺してしまったと思えば、警察に本当のことなんて言えなかったのだろう。だけど……。
「冬美さんはなんでそんな嘘を?」
「何でって……それは……」
過去を思い出して、辛そうな表情をしている。それも無理ないだろう。自分の嘘で姉を殺してしまったのだから。
それでも、どんなに辛くても、話してもらわなければ、分からない。
急かすことなく、気持ちの整理がつくまで待っていると、口を開いてくれた。
「姉には婚約者がいたのに。父にも期待されて。それなのに……。私だって、吉田先生のことが好きだったのに」
それは心からの叫びだった。
将来も約束され、親からも期待され、愛するものまで姉のものになったのなら、嫉妬してもおかしくはない。
「でも、それなら黙っていたらよかったんじゃないですか? 雛ノ森さんを旧学生寮へ行かせて涼子さんの死体を見つけさせる必要はなかったんじゃないですか?」
「もう耐えられなかったの! 知ってる、先生。私、家では涼子って呼ばれているの。婚約も破綻になって、姉が死んでいるって現実を父も母も分かっていないの。だから、死体を誰かに見つけさせて、そしたら、私は姉から解放される。もう、姉の姿に縛られる必要はなくなる」
ずっと悩んでいたのだろう。姉の姿をして、父と母には姉の名前で呼ばれ、自分というものが無くなっていく感覚に襲われていたのだろう。
「でも、もう少し、周りを頼ってくれてもいいんですよ。頼ってくれさえしたら、ここの先生は誰だって力になりますから」
担任の梅本先生も冬美さんのことで悩んでいた。あとは相談待ちだったのだろう。おそらく、梅本先生なら私よりもうまく相談に乗ってくれるだろう。
「私にだって、相談してください。また、二人で探偵部、やりましょう。放課後に一緒に話しましょう」
「雛ノ森さん……ごめんね。心配させちゃって」
「いいえ。先輩が生きていてくれているだけで、それだけで、私は十分ですから」
この悩みを解決した清々しい笑顔を見れば、今までの苦難、主に穴に落ちてしまったことなんて、どうでもいいことだと思えてくる。これが教師としての喜びという奴なのだろう。
「もう知っているようだから、全部話すわ」
私が促すまでもなく、冬美さんが自分から話を切り出してくれた。
「2年前、姉が失踪した日。私は姉に嘘をついたの。吉田先生が東の林を進んだところにある旧学生寮で待っているって」
その嘘を信じた涼子さんは旧学生寮へと行き、運悪く穴に落ち、頭を打って亡くなってしまったということらしい。自分のせいで姉を殺してしまったと思えば、警察に本当のことなんて言えなかったのだろう。だけど……。
「冬美さんはなんでそんな嘘を?」
「何でって……それは……」
過去を思い出して、辛そうな表情をしている。それも無理ないだろう。自分の嘘で姉を殺してしまったのだから。
それでも、どんなに辛くても、話してもらわなければ、分からない。
急かすことなく、気持ちの整理がつくまで待っていると、口を開いてくれた。
「姉には婚約者がいたのに。父にも期待されて。それなのに……。私だって、吉田先生のことが好きだったのに」
それは心からの叫びだった。
将来も約束され、親からも期待され、愛するものまで姉のものになったのなら、嫉妬してもおかしくはない。
「でも、それなら黙っていたらよかったんじゃないですか? 雛ノ森さんを旧学生寮へ行かせて涼子さんの死体を見つけさせる必要はなかったんじゃないですか?」
「もう耐えられなかったの! 知ってる、先生。私、家では涼子って呼ばれているの。婚約も破綻になって、姉が死んでいるって現実を父も母も分かっていないの。だから、死体を誰かに見つけさせて、そしたら、私は姉から解放される。もう、姉の姿に縛られる必要はなくなる」
ずっと悩んでいたのだろう。姉の姿をして、父と母には姉の名前で呼ばれ、自分というものが無くなっていく感覚に襲われていたのだろう。
「でも、もう少し、周りを頼ってくれてもいいんですよ。頼ってくれさえしたら、ここの先生は誰だって力になりますから」
担任の梅本先生も冬美さんのことで悩んでいた。あとは相談待ちだったのだろう。おそらく、梅本先生なら私よりもうまく相談に乗ってくれるだろう。
「私にだって、相談してください。また、二人で探偵部、やりましょう。放課後に一緒に話しましょう」
「雛ノ森さん……ごめんね。心配させちゃって」
「いいえ。先輩が生きていてくれているだけで、それだけで、私は十分ですから」
この悩みを解決した清々しい笑顔を見れば、今までの苦難、主に穴に落ちてしまったことなんて、どうでもいいことだと思えてくる。これが教師としての喜びという奴なのだろう。
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