英華女学院の七不思議

小森 輝

文字の大きさ
上 下
49 / 53

英華女学院の七不思議 49

しおりを挟む
 昼食を終え、午後の授業も終わり、いつものトイレ掃除をして、放課後を迎えていた。
 今日は課題のチェックもないし、小テストの採点もない。仕事は残っていないので、このまま帰ることもできるのだが、その前に野暮用を済ませておいても働きすぎとは言われないだろう。
 雛ノ森さんから言われていた野暮用。冬美さんのクラス、3年5組の担任の先生から最近グレたという話を聞かなければならない。ならないのだが、まずは3年5組の担任の先生から探さなければならない。
 職員室の3年生教師の区画へ行き、それとなく確認しながら歩いていく。
「はあぁ…………」
 いかにも、どうかしたのかと誰かに聞いてほしそうなため息を吐きながら机にうなだれている先生がいる。正直、絡まれると面倒なので、知らないふりをしたかったのだが、残念ながら私の数少ない知り合いの梅本先生だった。3年5組の担任の先生を探すのも重要だが、卒業アルバムに使う集合写真の撮影現場を見せて貰ったお礼もある。できるだけ手早くお願いしますと祈りながら声をかけることにした。
「あの……梅本先生、どうされたんですか?」
「ん? あぁ、今話題の橋本先生じゃないですか」
 やっと声をかけられたと嬉しそうにしながら机から起きあがった。
「いやね、私のクラスの問題なんだけど、これが複雑でさ……あぁ、橋本先生もこのままこの学校で働いていくんなら気をつけておいた方がいいよ。結構、生徒の親のごたごたって世間一般とはズレてるからさ」
「そうなんですね。気をつけます」
 早々に話が終わってよかったと思っていたが、残念ながらここで終わるほど簡潔な話ではなかった。
「私が担任をしているクラスでも、ちょっと問題があってね。ほら、橋本先生が見つけた……その……亡くなった生徒。その妹が私のクラスにいて、1学期までは目立った違反もない生徒だったのに、2学期になって急にグレちゃってね。まあ、事情を知れば、分からないでもないけどね」
 まさか、梅本先生が3年5組の担任だったとは思わなかった。知らないふりをしなくてよかった。
「その事情って言うのを詳しく聞かせて貰ってもいいですか?」
「面白い話じゃないんだけどね。お姉さんの方、婚約が決まっていたみたいなの。政略結婚っていうやつだったみたいなんだけど、失踪しちゃってね……。それで、妹の佐々木さんがお姉さんの代役にさせられたって感じ。親の都合とはいえ、ここまで子供にさせるかね……」
 そう言いながら梅本先生から渡された写真には姉の涼子さんが写っていた。と思いこんでいた。
「それ、少し前までの佐々木冬美さん。びっくりだよね。私もお姉さんが発見されて写真を見るまでは、ここまで似ているとは思わなかったもの」
 綺麗な黒い長髪も、清楚な顔立ちも、似ているというか、もうほとんど同一人物と言っていいほどだ。
「グレちゃうのも時間の問題だったのかもね」
 政略結婚させるはずだった姉の代役として冬美さんは姉と同じような振る舞いを要求された。そんなの、いつ崩壊してもおかしくなかった。あんな清楚とかけ離れた見た目になるのも時間の問題だった。
 いいや、このタイミングを狙っていた。姉が失踪して、ちょうど2年になるこのタイミングを。だとすると……。
 よく本で見るたとえのように、パズルのピースがぴったりとハマるような感覚になった。
 このことを今すぐ雛ノ森さんに伝え、そして、冬美さんに事実確認をしなければならない。
「すいません。急用を思い出しまして」
 梅本先生の返事を待つ前に職員室を飛び出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...