英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 44

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 冬美さんはいなくなり、生徒指導室に残された私と雛ノ森さんは冬美さんが最後に残した新たな事実を信じられずにいた。
 写真に写っていたあの清楚で明るくクラスの中心になっていそうな生徒が教師との恋愛なんて考えもしなかった。人は外見では判断できないとはこのことだろうか。とりあえず、本当に事実なのか確認する為にも平川先生に聞きにいかなければならない。
 その前に、気になることがあるので、そちらを先に聞いておくべきだ。
「雛ノ森さん、どうかしたんですか?」
「え? なんですか? 私はいつもと変わりませんが……」
「そうですか? ここにきてから口数が少ないので具合でも悪いのかと思いましたよ」
 口数が少ないどころではない。ここに来てから、いいや、冬美さんと会ってから一度も話していない。雛ノ森さんの先輩と一番関わりが深い生徒なので、誰よりも話を聞きたいはずなのに。先輩だから緊張していたのかとも思ったが、それも違うだろう。先輩だから緊張していたら、3年生の教室で冬美さんを呼び出すために大きな声を出すことはできなかっただろう。そうすると、緊張ではない他の要因。真っ先に思い浮かぶのは体調不良だ。
「大丈夫です。見ての通り、私は健康体ですよ」
「なら、なぜ……」
「その……他意はないんですけど、冬美さんと先輩が似ていて……やっぱり、姉妹だからなんですかね?」
「そう、ですかね……。似ていましたか……?」
 あんなギャルな見た目の冬美さんと清楚でしたたかな涼子さんが似ているとは思えない。むしろ、私には正反対に見えた。
「いいえ、見た目ではなく……。なんと言いますか、雰囲気というか、そういったところが似ていたんです」
「なるほど、雰囲気ですか」
 それは姉の涼子さんと生きているうちに会ったことがない私には分からないことだ。
「私には分からなかったのですが、姉妹ですから、似ているところが一つぐらいないと不自然ですからね」
 それも寮で一緒の部屋になるほどの仲ならば、似ているところがあって当たり前だ。ただ、化粧は受け継がれず、似ることもなかったのだろう。
「姉妹っていいですよね。私は一人っ子なので……。姉妹じゃなくても兄か弟でもいれば楽なんですけど……」
「楽? そこは楽しいの間違いでは?」
「あぁ、その……家の問題でして……。一人っ子だと、何かと期待されるというか……」
 後継者争いもなくて一人っ子の方が楽だろうと思うのだが、それは大人の事情だ。一人っ子だと、たった一人しかいない後継者という重圧を背負うことになる。それはそれで辛い人生だろう。お金持ちにはお金持ちの悩みがあるということだ。
「すいません。配慮のない言葉でした」
「いえ、全然、気にしてはいませんから。それより、教師との恋仲だったことについて調べましょう」
「そうですね」
 そういう生徒ではないと分かっていても、気にしていないと言われて安心した。
「教師が関係していたとなると、やはり、平川先生に聞くのが一番でしょうか」
「えぇ……また平川先生ですか……」
 やはり、苦手であることに変わりはないようだ。立派な先生だと思うのだが、やはり生徒が理解するのは厳しいか。
「私が呼んできますから、雛ノ森さんはここで待っていてもいいですよ」
「いいえ、一緒に行きます。突然、平川先生が現れる方がよっぽど怖いですから」
 寮の部屋で悪さをしていたときに平川先生が突然訪問してきたりしたのだろうか。雛ノ森さんのような生徒には平川先生のような教師の方が抑止力になってくれているのだろう。旧学生寮に一人で行かなかったのも平川先生のおかげなのかもしれない。ただ、感謝する日はまだまだ遠いだろう。
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