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英華女学院の七不思議 31
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「平川先生との話は気になりますけど、今はとりあえずいいです。それよりも、ご飯を食べなければ……」
日替わり定食を前に、雛ノ森さんは難しい顔をしている。
日替わり定食と言っても、それほど量はない。男子高校生には、物足りない量なのだが、そもそもこの学校には男子高校生がいないので関係はない。お嬢様学校ということで、量より質を重視した品々で、量は少ないが品数は多い。栄養バランスのいい食事には品数が大事だと聞いたことがあるので、平川先生が言っていた通り、栄養バランスについてはよく考えられているのだろう。
だが、少ないとはいっても、雛ノ森さんはいつもサンドウィッチ程度の軽食を昼食として食べている。この定食が普段の昼食よりも多いのは間違いない。
「多いのでしたら、私が代わりに貰いましょうか?」
食べ残してしまうと、作った人にも失礼だ。教師として甘いかもしれないが、平川先生同様、これぐらいは目を瞑ってもいいだろう。だが、雛ノ森さんはそれぐらいの覚悟をしているようだ。
「だ、大丈夫です。これぐらい、どうにかして見せます」
雛ノ森さんがやる気なようでよかった。正直に言うと、私はこの定食に慣れてしまっているので、これ以上の量となると、少し心配な部分もあった。
「それでは食べましょう。あまり時間がなくなってしまうと食べ終われるかどうか分からないので」
「そうですね」
雛ノ森さんが苦労するのは目に見えている。すでに、周りにいる数名の生徒たちは初めての日替わり定食に苦戦している。雛ノ森さんは私を待っていて他の生徒より昼食を始めるのが遅かった。私と違って昼休みの後も授業がある。無駄話はあまりしないでおこう。
「「いただきます」」
二人手を合わせ、感謝の気持ちを込めてから食事を始めた。
今日は中華ということもあって、少しばかり脂っこい気もする。和食ならもっとあっさりしていて食べやすいのだが、この中華料理は、普段は小食の生徒たちにはきついかもしれない。それでも、雛ノ森さんはもちろん、他の生徒たちも残さないように頑張って食べている。こういう所も、教師の方たちの教育が行き届いている証拠だろう。
「そう言えば、先生。あれからなにか分かりましたか?」
「何かとは?」
「その……先輩の……いえ、やっぱりいいです。お食事中の話題ではないですもんね」
先輩の話となれば、私が見た白骨死体にも繋がる。確かに、死体の話は食事中の話題には適していない。
「そうですね。その話は放課後にしましょう。今は食事に集中しないと間に合いませんよ」
「それもそうですね。ご忠告、ありがとうございます」
私の忠告を聞き入れてくれた雛ノ森さんは、食事へと向かった。しかし、少し様子がおかしい。すべての品を同じ配分で食べ進めているのにも関わらず、漬け物には手を付けていない。気のせいかと思いながら観察してみるが、やはり、漬け物には手を付けない。
「お漬け物は食べないんですか?」
そう聞くと、雛ノ森さんの表情はまずいというような顔になった。
「なんで、中華料理なのにお漬け物があるんですかね?」
「私に聞かないでくださいよ」
日替わり定食には、一品だけ変わらない品がある。それが漬け物。和食はもちろん、中華、洋食、イタリアンなど、例え主食が米でなくても漬け物は必ず存在している。これから日替わり定食を食べていくつもりなら克服は必須だろう。だが、今日は時間もないので仕方がない。
「私が貰いますよ」
「いいんですか?」
「えぇ。女子高生といってもまだ子供。こういった大人の味はまだ分かりませんからね」
「……ありがとうございます」
今日は特別。でも、これだけ煽れば、次も私に甘えるようなことはないだろう。雛ノ森さんの悔しそうな表情を見れば、それぐらいは分かる。
日替わり定食を前に、雛ノ森さんは難しい顔をしている。
日替わり定食と言っても、それほど量はない。男子高校生には、物足りない量なのだが、そもそもこの学校には男子高校生がいないので関係はない。お嬢様学校ということで、量より質を重視した品々で、量は少ないが品数は多い。栄養バランスのいい食事には品数が大事だと聞いたことがあるので、平川先生が言っていた通り、栄養バランスについてはよく考えられているのだろう。
だが、少ないとはいっても、雛ノ森さんはいつもサンドウィッチ程度の軽食を昼食として食べている。この定食が普段の昼食よりも多いのは間違いない。
「多いのでしたら、私が代わりに貰いましょうか?」
食べ残してしまうと、作った人にも失礼だ。教師として甘いかもしれないが、平川先生同様、これぐらいは目を瞑ってもいいだろう。だが、雛ノ森さんはそれぐらいの覚悟をしているようだ。
「だ、大丈夫です。これぐらい、どうにかして見せます」
雛ノ森さんがやる気なようでよかった。正直に言うと、私はこの定食に慣れてしまっているので、これ以上の量となると、少し心配な部分もあった。
「それでは食べましょう。あまり時間がなくなってしまうと食べ終われるかどうか分からないので」
「そうですね」
雛ノ森さんが苦労するのは目に見えている。すでに、周りにいる数名の生徒たちは初めての日替わり定食に苦戦している。雛ノ森さんは私を待っていて他の生徒より昼食を始めるのが遅かった。私と違って昼休みの後も授業がある。無駄話はあまりしないでおこう。
「「いただきます」」
二人手を合わせ、感謝の気持ちを込めてから食事を始めた。
今日は中華ということもあって、少しばかり脂っこい気もする。和食ならもっとあっさりしていて食べやすいのだが、この中華料理は、普段は小食の生徒たちにはきついかもしれない。それでも、雛ノ森さんはもちろん、他の生徒たちも残さないように頑張って食べている。こういう所も、教師の方たちの教育が行き届いている証拠だろう。
「そう言えば、先生。あれからなにか分かりましたか?」
「何かとは?」
「その……先輩の……いえ、やっぱりいいです。お食事中の話題ではないですもんね」
先輩の話となれば、私が見た白骨死体にも繋がる。確かに、死体の話は食事中の話題には適していない。
「そうですね。その話は放課後にしましょう。今は食事に集中しないと間に合いませんよ」
「それもそうですね。ご忠告、ありがとうございます」
私の忠告を聞き入れてくれた雛ノ森さんは、食事へと向かった。しかし、少し様子がおかしい。すべての品を同じ配分で食べ進めているのにも関わらず、漬け物には手を付けていない。気のせいかと思いながら観察してみるが、やはり、漬け物には手を付けない。
「お漬け物は食べないんですか?」
そう聞くと、雛ノ森さんの表情はまずいというような顔になった。
「なんで、中華料理なのにお漬け物があるんですかね?」
「私に聞かないでくださいよ」
日替わり定食には、一品だけ変わらない品がある。それが漬け物。和食はもちろん、中華、洋食、イタリアンなど、例え主食が米でなくても漬け物は必ず存在している。これから日替わり定食を食べていくつもりなら克服は必須だろう。だが、今日は時間もないので仕方がない。
「私が貰いますよ」
「いいんですか?」
「えぇ。女子高生といってもまだ子供。こういった大人の味はまだ分かりませんからね」
「……ありがとうございます」
今日は特別。でも、これだけ煽れば、次も私に甘えるようなことはないだろう。雛ノ森さんの悔しそうな表情を見れば、それぐらいは分かる。
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