英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 29

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「私はいつも通り日替わり定食なのですが……この前と一緒で、後から私が迎えに行きましょう」
 この前は、私が日替わり定食で、雛ノ森さんはサンドウィッチなどの軽食だった。準備の時間は圧倒的に私の日替わり定食の方が長かったのだが、雛ノ森さんが並んだ軽食コーナーは長蛇の列で私の日替わり定食を圧倒した。
 今日もそれと同じで、私の方が早く席に着くのだろうと思っていた。
「いいえ、先生。その必要はありません」
「もしかして、昼食を食べない気でいるんですか? ダイエットを気にするお年頃なのは分かりますが、食べないと健康にも良くないですよ」
 サンドウィッチだけでも少ないと思っていたのに、食べないなんて成長期の女子高生には死活問題だ。そう考えていたのだが、私の予想はことごとく外れるようだ。
「違いますよ。その逆です。私も先生と同じ日替わり定食にしようかと思っているんです」
「それは嬉しいですが、なんでまた急に……」
 日替わり定食は基本的に教師の方しか頼まないので、なんだか仲間が増えた気分で嬉しい。嬉しいのだが、なぜという疑問は消えない。
「先生が休み時間に話してくれたことですよ。先生と同じ食生活をしたら、あるいは、と考えたわけです。その中でも、食事は重要でしょうから」
「それは、嬉しいこと……なんですが……」
 私のことを見習って、食生活を省みてくれることは嬉しいし、自分の行いが生徒の見本になっているというのは教師冥利に尽きるというものだ。ただ、その恩恵は決していいものだけではない。
 私と雛ノ森さんが向かった先、いつもの日替わり定食を受け取る場所には長蛇の列ができていた。
「な、なんで……」
 見間違いかと思ったが、そんなこともないし、場所が変わったというわけでもない。現実に日替わり定食の場所に列ができていた。
「今日の定食はそんなに珍しいものじゃなかったはずなのに……」
 今日は中華定食。珍しいものと言えば、フカヒレが小鉢でついてくることぐらいだ。それも、一般市民である私からしたら珍しいというだけで、お嬢様ばかりのこの学校の生徒では、それほど珍しい料理でもないはずだ。それなのに、この列は異常な光景だ。
「まさか、すでにここまで広まっているとは……」
 なにやら、雛ノ森さんはある程度の事情を知っているようだ。
「何か知っているんですか?」
「先生のせい……いえ、私たち生徒のせいですね。まさか、ここまで広まるのが早いなんて……」
「広まるって、何が?」
「先生のことですよ。休み時間に話していたあれです」
「あぁ、確かに昼食は学食の日替わり定食と答えましたが、でも、3時間目の終わりですよ? 広まるのが早すぎませんか?」
「先生、女子高生の情報網をなめてはいけませんよ」
「……すいません」
 現役女子高生に言われると、少し傷つく心がある。だが、女子高生の情報網、特に、この学校の情報網を甘く見てはいけない。全寮制のこの学校は、3年生、2年生、1年生が一人ずつの一部屋なので、学年を越えて情報が伝わることがある。つまりクラスという横の情報網に加え、学年という縦の情報網もしっかりと張り巡らされているのだ。どこで誰の目に映っているのかも分からないので、常に日頃の行動に責任感を持たなければならない。
「それより、早く並びましょう。日替わり定食が売り切れになってしまっては困りますから」
「それもそうですね」
 この列に並ぶのかと思うと嫌気がさすのだが、背に腹は代えられない。おとなしく、雛ノ森さんと一緒に最後尾に立った。
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