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英華女学院の七不思議 21
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よく見れば見るほど疑心がなくなっていく。
これは、私が見ている幻覚ではない。
不気味なほど白くて生々しい球体に穴が二つ開いている。
そして、これが悪戯で置かれた作り物ではないと本能で分かる。この生々しさ、そして、作り物とは思えない歪さ。
それでも理性がこれは幻覚だと訴えてくる。当然、触れれば分かるのだが、そんな勇気はない。
骸骨を前にして、なにかをすることもできず、私はただただ骸骨を眺めていた。
白くて丸い頭蓋骨。その奥には、汚れた服。よく見ると、英華女学院の制服のようにも見える。
まさか、ここに落ちて、私とは違い打ち所が悪くて亡くなってしまったのだろうか。だとしたら、もしかすると、この頭蓋骨が雛ノ森さんが話してくれた探偵部の先輩なのかもしれない。ここに住み着く少女の霊が招き入れたのか。私たちも知らず知らずのうちに招き入れられていたのか。
そんなどうしようもない考えが巡ると、恐怖が背中を這い上がってくる。
そんな不安でいっぱいな心の中で潰れてしまいそうな気持ちになっていると、外が騒がしくなってきた。
「あそこです! あそこの建物の中です!」
この声が耳に入ってくるだけで安心する。雛ノ森さんが帰ってきてくれた。
「本当にいるのか……? おーい、橋本先生、いるかね?」
この太くて渋い声は体育教師の青木先生。この学校の数少ない男性教師。テニス部の顧問もしているので普段、放課後は職員室にいないのだが、今日はタイミングが良かったようだ。これは心強い助っ人だ。
「はい! います! ここにある穴の中です」
「穴? おぉ、本当に大きな穴が……。この中かね」
「そうです! 気をつけてくださいね。板が痛んでいるみたいなんで」
「板が痛んでいるって……。ダジャレ言えるようなら大丈夫そうだな」
正直、青木先生が考えているほど余裕はない。目の前に死体があるのだから。そのことをまずは伝えなければならない。
「あの、青木先生……」
大声で知らせようと思ったが、すぐにやめた。学生寮の外には雛ノ森さんがいるだろう。大声で死体の話をすれば、雛ノ森さんが混乱してしまうかもしれない。
「雛ノ森さんが近くにいますよね?」
「いるが、それがどうした?」
「彼女を少し遠ざけてもらえませんか? あと、他の生徒がいるならその生徒も」
「他に生徒はいないが……分かった。理由があるんだろ。梅本先生、そこのお嬢さんと少し離れていてくれ」
梅本先生も来てくれていたのか。人望はないと思っていたのだが、私のことを心配してくれる先生方がいたことに感激してしまう。
「もういいだろう。そこからでる前に話しておきたいことって言うのはなんだね」
「ここに死体が、骸骨があるんです。ですから、警察に連絡してほしいんです」
「それはどういうことですか、橋本先生」
この鋭くて重層感がある声は平川先生。こんな状況だと、まずいと感じるよりも心強いという方が勝る。
「言葉そのままの意味です。ここに骸骨が、人の骨があるんです。それに、服もこの学校の制服みたいで……」
「分かりました。詳しい話は後で聞きます。まずはそこから出た方がいいでしょう。青木先生、よろしくお願いしますね」
「はいよ。橋本先生、そこに梯子を降ろすんで上に気をつけてくださいね」
「はい」
返事をすると、すぐに上から銀色の梯子が降りてきた。大きめの脚立を開いて使っているのだろう。これなら難なく上がれる。
「上で支えるから、気をつけて上がってくるんだぞ」
「ありがとうございます」
ゆっくりと、足場を確認しながら上がっていき、最後には青木先生が力強く手を引っ張ってくれて、やっと穴から出ることができた。
「ここで話すのも邪魔になるでしょうから、一度職員室に戻りましょう。話はそれからです」
「分かりました。警察には、もう連絡を?」
「いいえ。まだ本物か断定はできませんので。青木先生、後は頼みました」
「薄気味悪いですけど、分かりました」
この場は青木先生に任せ、私は平川先生に連れられて使われなくなった学生寮から立ち去った。
これは、私が見ている幻覚ではない。
不気味なほど白くて生々しい球体に穴が二つ開いている。
そして、これが悪戯で置かれた作り物ではないと本能で分かる。この生々しさ、そして、作り物とは思えない歪さ。
それでも理性がこれは幻覚だと訴えてくる。当然、触れれば分かるのだが、そんな勇気はない。
骸骨を前にして、なにかをすることもできず、私はただただ骸骨を眺めていた。
白くて丸い頭蓋骨。その奥には、汚れた服。よく見ると、英華女学院の制服のようにも見える。
まさか、ここに落ちて、私とは違い打ち所が悪くて亡くなってしまったのだろうか。だとしたら、もしかすると、この頭蓋骨が雛ノ森さんが話してくれた探偵部の先輩なのかもしれない。ここに住み着く少女の霊が招き入れたのか。私たちも知らず知らずのうちに招き入れられていたのか。
そんなどうしようもない考えが巡ると、恐怖が背中を這い上がってくる。
そんな不安でいっぱいな心の中で潰れてしまいそうな気持ちになっていると、外が騒がしくなってきた。
「あそこです! あそこの建物の中です!」
この声が耳に入ってくるだけで安心する。雛ノ森さんが帰ってきてくれた。
「本当にいるのか……? おーい、橋本先生、いるかね?」
この太くて渋い声は体育教師の青木先生。この学校の数少ない男性教師。テニス部の顧問もしているので普段、放課後は職員室にいないのだが、今日はタイミングが良かったようだ。これは心強い助っ人だ。
「はい! います! ここにある穴の中です」
「穴? おぉ、本当に大きな穴が……。この中かね」
「そうです! 気をつけてくださいね。板が痛んでいるみたいなんで」
「板が痛んでいるって……。ダジャレ言えるようなら大丈夫そうだな」
正直、青木先生が考えているほど余裕はない。目の前に死体があるのだから。そのことをまずは伝えなければならない。
「あの、青木先生……」
大声で知らせようと思ったが、すぐにやめた。学生寮の外には雛ノ森さんがいるだろう。大声で死体の話をすれば、雛ノ森さんが混乱してしまうかもしれない。
「雛ノ森さんが近くにいますよね?」
「いるが、それがどうした?」
「彼女を少し遠ざけてもらえませんか? あと、他の生徒がいるならその生徒も」
「他に生徒はいないが……分かった。理由があるんだろ。梅本先生、そこのお嬢さんと少し離れていてくれ」
梅本先生も来てくれていたのか。人望はないと思っていたのだが、私のことを心配してくれる先生方がいたことに感激してしまう。
「もういいだろう。そこからでる前に話しておきたいことって言うのはなんだね」
「ここに死体が、骸骨があるんです。ですから、警察に連絡してほしいんです」
「それはどういうことですか、橋本先生」
この鋭くて重層感がある声は平川先生。こんな状況だと、まずいと感じるよりも心強いという方が勝る。
「言葉そのままの意味です。ここに骸骨が、人の骨があるんです。それに、服もこの学校の制服みたいで……」
「分かりました。詳しい話は後で聞きます。まずはそこから出た方がいいでしょう。青木先生、よろしくお願いしますね」
「はいよ。橋本先生、そこに梯子を降ろすんで上に気をつけてくださいね」
「はい」
返事をすると、すぐに上から銀色の梯子が降りてきた。大きめの脚立を開いて使っているのだろう。これなら難なく上がれる。
「上で支えるから、気をつけて上がってくるんだぞ」
「ありがとうございます」
ゆっくりと、足場を確認しながら上がっていき、最後には青木先生が力強く手を引っ張ってくれて、やっと穴から出ることができた。
「ここで話すのも邪魔になるでしょうから、一度職員室に戻りましょう。話はそれからです」
「分かりました。警察には、もう連絡を?」
「いいえ。まだ本物か断定はできませんので。青木先生、後は頼みました」
「薄気味悪いですけど、分かりました」
この場は青木先生に任せ、私は平川先生に連れられて使われなくなった学生寮から立ち去った。
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