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英華女学院の七不思議 20
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意識は失っていない。記憶も失っていない。ただ、足場を失っただけ。私は落ちたのだ。穴の中に……。
「痛い……」
これだけ落ちたのに痛いだけで済んだのはよかった。打ち所がよかったのだろう。頭も痛くないし、激痛もしない。骨折のような大けがはなく、打撲程度で済んだのだろう。
「先生! 先生どうしたんですか! 返事をしてください! 今の音は……今の大きな音は、なんですか! 先生!」
雛ノ森さんの声。私を心配しているのだろうが、酷く混乱しているようだ。早く安心させなければ、この穴に飛び込んで来るかもしれない。
「私は大丈夫です。穴に落ちただけで……」
「穴に落ちた!? ど、どういうことですか!? い、今いきますね」
しまった。安心させるつもりが逆に心配を加速させてしまった。
「大丈夫です。大丈夫ですから、絶対に来てはいけませんよ」
「ですが……」
とりあえず、突発的な行動は思い止めてくれたようだ。だが、油断はできない。またすぐにでも、思い直して私の安否を確認しに来るかもしれない。その前に、どうにかして雛ノ森さんを遠ざけなければ。ただ、離れろといって素直にそうするような生徒ではない。
「そうだ……」
いい言葉を思いついてしまった。実に合理的で納得のいく言葉を。
「雛ノ森さん、誰でもいいので先生を呼んできてくれませんか? できれば、梯子かロープといった上れそうな何かを持ってきてほしいんです。自力で上がれそうにないので」
「分かりました! すぐに呼んで来ますんで!」
雛ノ森さんの気配が遠くへいくような気がする。どうにか、雛ノ森さんへの危険は遠ざかってくれたようだ。
「とりあえず、一難去ってくれたか……」
雛ノ森さんが先生を呼んできてくれるまで、おとなしく座っておく気はない。とりあえず、体の状態を確かめるために立ち上がってみると、難なく立ち上がれた。捻挫もしていないようだ。本当に打ち所がよかったのだろう。痛いのは右肘ぐらい。でも、それも転んで打ち付けた程度だ。
「不幸中の幸いってところかな」
さながら、ここが地獄の底といったところか。上れそうな場所はないし、上を見ると、自分の2倍ほどの高さがある。それほど高くはないが、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
そう考えると寒気がしてきた。こんな薄暗くて寂しい場所で自分の死について考えるなんて御法度だったか。
「それにしても、ここは何だろう。なんか臭いし」
人が通れないほどの小さな隙間もあるし、もしかしたら下水道なのかもしれない。この下水道も使われなくなり、老朽化で天井が崩れてしまったのかもしれない。そのせいで、廊下の板張りが腐った可能性もある。
可能性ばかり考えていても仕方ない。それほど広くはないが、周りを見回してみよう。
暗くて狭い場所では人は不安になるとよく聞くが、懐中電灯があるだけで安心する。
懐中電灯で照らしながら壁を見るが、やはり上れそうな場所はない。地面は煉瓦だろうか。少し土を被っていてよく分からない。あたりには植物も生えていないが、骸骨だけは転がっている。
「はっ……」
思わず、腰が抜けて尻餅をついてしまった。
今、骸骨が見えた気がする。だが、人は恐怖に支配されると脳が幻覚を見せる。それに違いないと、再び、床を照らしてみると、やはり、骸骨が、人の頭蓋骨が転がっていた。
「痛い……」
これだけ落ちたのに痛いだけで済んだのはよかった。打ち所がよかったのだろう。頭も痛くないし、激痛もしない。骨折のような大けがはなく、打撲程度で済んだのだろう。
「先生! 先生どうしたんですか! 返事をしてください! 今の音は……今の大きな音は、なんですか! 先生!」
雛ノ森さんの声。私を心配しているのだろうが、酷く混乱しているようだ。早く安心させなければ、この穴に飛び込んで来るかもしれない。
「私は大丈夫です。穴に落ちただけで……」
「穴に落ちた!? ど、どういうことですか!? い、今いきますね」
しまった。安心させるつもりが逆に心配を加速させてしまった。
「大丈夫です。大丈夫ですから、絶対に来てはいけませんよ」
「ですが……」
とりあえず、突発的な行動は思い止めてくれたようだ。だが、油断はできない。またすぐにでも、思い直して私の安否を確認しに来るかもしれない。その前に、どうにかして雛ノ森さんを遠ざけなければ。ただ、離れろといって素直にそうするような生徒ではない。
「そうだ……」
いい言葉を思いついてしまった。実に合理的で納得のいく言葉を。
「雛ノ森さん、誰でもいいので先生を呼んできてくれませんか? できれば、梯子かロープといった上れそうな何かを持ってきてほしいんです。自力で上がれそうにないので」
「分かりました! すぐに呼んで来ますんで!」
雛ノ森さんの気配が遠くへいくような気がする。どうにか、雛ノ森さんへの危険は遠ざかってくれたようだ。
「とりあえず、一難去ってくれたか……」
雛ノ森さんが先生を呼んできてくれるまで、おとなしく座っておく気はない。とりあえず、体の状態を確かめるために立ち上がってみると、難なく立ち上がれた。捻挫もしていないようだ。本当に打ち所がよかったのだろう。痛いのは右肘ぐらい。でも、それも転んで打ち付けた程度だ。
「不幸中の幸いってところかな」
さながら、ここが地獄の底といったところか。上れそうな場所はないし、上を見ると、自分の2倍ほどの高さがある。それほど高くはないが、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
そう考えると寒気がしてきた。こんな薄暗くて寂しい場所で自分の死について考えるなんて御法度だったか。
「それにしても、ここは何だろう。なんか臭いし」
人が通れないほどの小さな隙間もあるし、もしかしたら下水道なのかもしれない。この下水道も使われなくなり、老朽化で天井が崩れてしまったのかもしれない。そのせいで、廊下の板張りが腐った可能性もある。
可能性ばかり考えていても仕方ない。それほど広くはないが、周りを見回してみよう。
暗くて狭い場所では人は不安になるとよく聞くが、懐中電灯があるだけで安心する。
懐中電灯で照らしながら壁を見るが、やはり上れそうな場所はない。地面は煉瓦だろうか。少し土を被っていてよく分からない。あたりには植物も生えていないが、骸骨だけは転がっている。
「はっ……」
思わず、腰が抜けて尻餅をついてしまった。
今、骸骨が見えた気がする。だが、人は恐怖に支配されると脳が幻覚を見せる。それに違いないと、再び、床を照らしてみると、やはり、骸骨が、人の頭蓋骨が転がっていた。
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