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英華女学院の七不思議 19
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お化け屋敷のような外観を裏切らないような内観。まるで昭和時代にタイムスリップしたのかと思わせるような装飾。
恐る恐る中へと入ってみると、埃っぽく古い空気が肺を擽ってくる。
歩く度に床がギシギシと音を立て、私の体重が重いと訴えてくるようだ。
夏の夕暮れはまだ明るい。だが、電力もなく蝋燭の明かりもない室内はとても薄暗い。虫除けスプレーは持ってこなかったが、懐中電灯を持ってきたのは正解だった。辛うじて見えていた足下も、これでよく見える。
「さて、どこを探したものか……」
使われなくなった学生寮へと来たはいいものの、どこを探せばいいのか分からない。
入ってすぐの目の前には階段がある。ここを上がって各部屋を見て回るか。
それとも、この一階を探索するか。
「地道に見て回るか……」
自分の気分次第に見て回り、そのせいで見落としがあっては雛ノ森さんが納得しないかもしれない。地道に一部屋ずつ丁寧に調べていく必要があるだろう。
つまり、まずは一階から。
「一階に学生の部屋はないのか……」
一階には、おそらく寮長先生の部屋、そして、その奥にある大部屋はおそらく食堂だろう。
「まずはあそこから調べていきますか……」
ギシギシと軋む板張りの廊下を進み、もう少しで食堂に入れるというところで障害物が……いや、障害物と言うのは間違いだろう。そこにはなにもないのだから。もちろん、食堂へと進む廊下もない。
「これはまいった……」
まさか廊下に落とし穴ができるほど老朽化が進んでいたとは思わなかった。と言うより、建物の下に穴があいているなんて、とんだ欠陥住宅だ。お嬢様学校といっても昔の建築物なら仕方ないか。
それにしても、大きな穴だ。横も通れないほどの大穴。さらに穴は深い。懐中電灯で照らし屈んで覗くと、下は見える。4メートルほどだろうか。穴の大きさ的には飛び越えることもできるが、流石にそこまでの勇気はない。迂回するしかないだろう。食堂ということは裏口もあるだろう。一度、外に出て裏口を探した方がいいか。
「……先生」
不意に聞こえた私を呼ぶ声。背筋に氷の虫が這いずったようだ。
だが、私は幽霊を信じていない。冷静になれば、この声の正体も分かる。
「先生。大丈夫ですか? 先生! やっぱり、私も入った方が……」
私を呼ぶ声は幽霊などではなく、雛ノ森さんの声。今にもこの学生寮に入ってきそうな様子だ。だが、ここは危険だ。こんな穴が開いているのだから、いつ足下が崩れてもおかしくない。そんな場所に生徒を向かわせてはいけない。
「私は大丈夫です。今から外に回って裏口を……」
立ち上がり、外に向かおうとしたが、視界が急に傾いた。それだけではない。傾いたのは視界だけでなく、足場も同じ。私は自信に対して楽観的すぎた。「こんな穴が開いているのだから、いつ足下が崩れてもおかしくない。そんな場所に生徒を向かわせてはいけない」そんな危険、生徒だけではなく教師だって同じなのに。
恐る恐る中へと入ってみると、埃っぽく古い空気が肺を擽ってくる。
歩く度に床がギシギシと音を立て、私の体重が重いと訴えてくるようだ。
夏の夕暮れはまだ明るい。だが、電力もなく蝋燭の明かりもない室内はとても薄暗い。虫除けスプレーは持ってこなかったが、懐中電灯を持ってきたのは正解だった。辛うじて見えていた足下も、これでよく見える。
「さて、どこを探したものか……」
使われなくなった学生寮へと来たはいいものの、どこを探せばいいのか分からない。
入ってすぐの目の前には階段がある。ここを上がって各部屋を見て回るか。
それとも、この一階を探索するか。
「地道に見て回るか……」
自分の気分次第に見て回り、そのせいで見落としがあっては雛ノ森さんが納得しないかもしれない。地道に一部屋ずつ丁寧に調べていく必要があるだろう。
つまり、まずは一階から。
「一階に学生の部屋はないのか……」
一階には、おそらく寮長先生の部屋、そして、その奥にある大部屋はおそらく食堂だろう。
「まずはあそこから調べていきますか……」
ギシギシと軋む板張りの廊下を進み、もう少しで食堂に入れるというところで障害物が……いや、障害物と言うのは間違いだろう。そこにはなにもないのだから。もちろん、食堂へと進む廊下もない。
「これはまいった……」
まさか廊下に落とし穴ができるほど老朽化が進んでいたとは思わなかった。と言うより、建物の下に穴があいているなんて、とんだ欠陥住宅だ。お嬢様学校といっても昔の建築物なら仕方ないか。
それにしても、大きな穴だ。横も通れないほどの大穴。さらに穴は深い。懐中電灯で照らし屈んで覗くと、下は見える。4メートルほどだろうか。穴の大きさ的には飛び越えることもできるが、流石にそこまでの勇気はない。迂回するしかないだろう。食堂ということは裏口もあるだろう。一度、外に出て裏口を探した方がいいか。
「……先生」
不意に聞こえた私を呼ぶ声。背筋に氷の虫が這いずったようだ。
だが、私は幽霊を信じていない。冷静になれば、この声の正体も分かる。
「先生。大丈夫ですか? 先生! やっぱり、私も入った方が……」
私を呼ぶ声は幽霊などではなく、雛ノ森さんの声。今にもこの学生寮に入ってきそうな様子だ。だが、ここは危険だ。こんな穴が開いているのだから、いつ足下が崩れてもおかしくない。そんな場所に生徒を向かわせてはいけない。
「私は大丈夫です。今から外に回って裏口を……」
立ち上がり、外に向かおうとしたが、視界が急に傾いた。それだけではない。傾いたのは視界だけでなく、足場も同じ。私は自信に対して楽観的すぎた。「こんな穴が開いているのだから、いつ足下が崩れてもおかしくない。そんな場所に生徒を向かわせてはいけない」そんな危険、生徒だけではなく教師だって同じなのに。
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