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英華女学院の七不思議 8
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「それは……困りましたね……」
私はこの学校に今年からの着任して、さらに1年生を担当しているので、三年生のことはほとんど分からない。顔も分からない。名前も分からない。分かっていることは探偵部という生徒同士だけの呼び名だけ。
「他にその先輩を知っている人は居ないんですか?」
その先輩を知っている生徒が他にいるはずなので聞いてみるが、雛ノ森さんは首を横に振った。
「探偵部は私と先輩の二人だけで……それに、放課後以外で先輩と会ったことがなくて……」
「そう、でしたか……」
全校集会でも会わなかったとするなら、雛ノ森さんが言った通り、3年生の可能性が高いだろう。1年生から一番遠いのは3年生なので、会うことがなかったのだろう。
でも、そうなると、雛ノ森さんが授業を抜けて確認したのに見つけられなかったことと矛盾してしまう。
この問題を解消するためには名前を確認すればいいのだが、それも出来ない。
なんだか、完全に道が塞がっている気がしてならない。だが、雛ノ森さんは道を見つけていた。
「それで、先生に一つお願いがありまして……」
「なんですか?」
「先輩の名前もクラスも知らないんですけど、顔なら分かります。なので、3年生の写真をみたいんです」
「写真ですか? 例えば、集合写真みたいな」
「いえ、もっと確実なものがあります」
「確実なもの、とは?」
「生徒手帳の写真です。これは私の推測なのですが、生徒手帳の写真は学校側でも管理していると思うんです。それを見れば、誰が先輩だったのか分かると思うんです」
「それは……」
非常に難しい問題だ。
「もしかして、そういうものはないんですか?」
「いいえ、あるにはあるんですが……」
「そうなんですね。よかった……」
自分の考えが正しかったことに安堵した様子の雛ノ森さんだが、私は安堵出来ていない。
生徒手帳の写真は学校のパソコンにデータとして保存してある。だが、それは好き勝手に観覧出来るようなものではない。もちろん、許可を貰えば観覧できるのだが、新任教師の私が自分の担当ではない3年生の写真を観覧したいだなんて、間違いなく問題視される。それだけならまだいい。この学校はお嬢様学校なので、うっかりクビされるかもしれない。そんなことになれば、再就職先が見つかるかどうかも分からない。
雛ノ森さんの先輩が行方不明かもしれないのは問題だ。だからといって、私の首が飛ぶような危険は犯したくない。
「すいません。私は1年生の担当なので、3年生の写真は難しいかと……。写真だけなら3年生の先生に頼んでみてはどうでしょうか?」
「それが……昨日、頼んでみたのですが、ダメでした。理由もなく見せられないと」
「理由は話さなかったんですか?」
「…………」
私の言葉で雛ノ森さんは黙ってしまった。
これは、私が意地悪だったかもしれない。理由を話すと言うことは、授業を抜け出したことも話さなければならない。だからこそ、チョロそうな私に相談してきたのだから。まあ、教師の中では私が一番若いので頼ってきた部分も少なからずあるだろう。
「分かりました。写真は無理でしょうけど、協力はします。相談してくれてありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます」
安請け合いしてしまったのかもしれないが、新任とは言え私も教師の一員。生徒の不安を解消するのは、私の役目だ。
私はこの学校に今年からの着任して、さらに1年生を担当しているので、三年生のことはほとんど分からない。顔も分からない。名前も分からない。分かっていることは探偵部という生徒同士だけの呼び名だけ。
「他にその先輩を知っている人は居ないんですか?」
その先輩を知っている生徒が他にいるはずなので聞いてみるが、雛ノ森さんは首を横に振った。
「探偵部は私と先輩の二人だけで……それに、放課後以外で先輩と会ったことがなくて……」
「そう、でしたか……」
全校集会でも会わなかったとするなら、雛ノ森さんが言った通り、3年生の可能性が高いだろう。1年生から一番遠いのは3年生なので、会うことがなかったのだろう。
でも、そうなると、雛ノ森さんが授業を抜けて確認したのに見つけられなかったことと矛盾してしまう。
この問題を解消するためには名前を確認すればいいのだが、それも出来ない。
なんだか、完全に道が塞がっている気がしてならない。だが、雛ノ森さんは道を見つけていた。
「それで、先生に一つお願いがありまして……」
「なんですか?」
「先輩の名前もクラスも知らないんですけど、顔なら分かります。なので、3年生の写真をみたいんです」
「写真ですか? 例えば、集合写真みたいな」
「いえ、もっと確実なものがあります」
「確実なもの、とは?」
「生徒手帳の写真です。これは私の推測なのですが、生徒手帳の写真は学校側でも管理していると思うんです。それを見れば、誰が先輩だったのか分かると思うんです」
「それは……」
非常に難しい問題だ。
「もしかして、そういうものはないんですか?」
「いいえ、あるにはあるんですが……」
「そうなんですね。よかった……」
自分の考えが正しかったことに安堵した様子の雛ノ森さんだが、私は安堵出来ていない。
生徒手帳の写真は学校のパソコンにデータとして保存してある。だが、それは好き勝手に観覧出来るようなものではない。もちろん、許可を貰えば観覧できるのだが、新任教師の私が自分の担当ではない3年生の写真を観覧したいだなんて、間違いなく問題視される。それだけならまだいい。この学校はお嬢様学校なので、うっかりクビされるかもしれない。そんなことになれば、再就職先が見つかるかどうかも分からない。
雛ノ森さんの先輩が行方不明かもしれないのは問題だ。だからといって、私の首が飛ぶような危険は犯したくない。
「すいません。私は1年生の担当なので、3年生の写真は難しいかと……。写真だけなら3年生の先生に頼んでみてはどうでしょうか?」
「それが……昨日、頼んでみたのですが、ダメでした。理由もなく見せられないと」
「理由は話さなかったんですか?」
「…………」
私の言葉で雛ノ森さんは黙ってしまった。
これは、私が意地悪だったかもしれない。理由を話すと言うことは、授業を抜け出したことも話さなければならない。だからこそ、チョロそうな私に相談してきたのだから。まあ、教師の中では私が一番若いので頼ってきた部分も少なからずあるだろう。
「分かりました。写真は無理でしょうけど、協力はします。相談してくれてありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます」
安請け合いしてしまったのかもしれないが、新任とは言え私も教師の一員。生徒の不安を解消するのは、私の役目だ。
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