英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 4

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 ゴミ袋を右手に二つ左手に一つ持って職員室を出ると、ちょうど入ろうとしていた人とぶつかりそうになった。
「おっと……すいません」
「いえ、大丈夫です」
 職員室を出てすぐに、人とぶつかってゴミ巻き散らさなくてよかった。
 よそ見をしていた訳ではない。だが、彼女を視認するには私の目線が高すぎたのだ。
 私より身長が低く学校指定の制服を着ていることからも分かる通り、彼女は教師ではなく生徒だ。
 職員室に用事があって来たのだろうが、ちょうどよく私が邪魔をしてしまった。せめてものお詫びに、用がある先生がいるかどうかぐらい確認してあげよう。
「よかったら、先生を……」
 用のある先生の名前を聞こうとして、途中でやめてしまった。なぜなら、彼女の顔には見覚えがある。
「君は確か……雛ノ森さん」
 比較的小さな体躯。長く艶のいい黒髪。二重のぱっちりとした瞳。私が副担任をしている1年3組の生徒、雛ノ森彩乃さんで間違いない。
 1年3組の生徒が来ているのだから、1年3組の担任教師に用事がある訳ではない。授業の質問をしにきただけかもしれない。
 とりあえず、誰に用事があるのか、再び聞こうとしたが、口を開くのが早かったのは雛ノ森さんの方だった。
「あの……橋本先生」
「どうされましたか?」
 私が聞くと、意を決した表情で、話してきた。
「ご相談があるのですが!」
 まさかの私に用があるようだ。厄介ごとなのだが、生徒が私を頼ってくれたことはとてもうれしい。倫理に反しない要望なら何でも聞き届ける所存だ。
「もちろん、相談にならいつでも聞きますよ。立ち話では話しづらいでしょうし、生徒指導室でも借りて……」
 早速、行動に移そうとしたのだが、そこで忘れそうになっていた両手の荷物を思い出してしまった。
 生徒の相談はゴミ捨てよりも優先度が高いと言うことぐらいは分かるのだが、両手にゴミ袋を持った教師に立ち話で相談をしたいとは思わないだろう。
「急ぎの話でないのであれば、先にゴミを捨てに行ってもいいでしょうか?」
「もちろんです。私の話は急いで話すようなことではないので……。そうだ。ゴミ捨てに行かれるのでしたら、私もご一緒します。お一人で3つは大変でしょうから」
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。私はこれでも力持ちですから」
 とは言っても、私の腕は力こぶなどできない細い腕だ。だからなのか、雛ノ森さんには私の言葉が強がりに見えたようだ。
「大変なことには変わりないですし。それに、これは相談に乗って貰うお礼です」
「あっ……」
 雛ノ森さんは、そう言って、私の右手から一つのゴミ袋を奪い取ってしまった。
「分かりました。それでは、雛ノ森さんのご厚意に甘えさせて貰います」
 人の厚意は素直に受け取る。これも教育として大事なことだ。そして、感謝の言葉も……。
「ありがとうございます、雛ノ森さん」
「誰かが困っていたら手を伸ばす。当然のことをしたまでです」
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