英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 2

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「マイナスも二乗するとプラスになるので、必ず±をつけること。この辺は、中学生のおさらいですね。ここまでで……」
 「分からないことはありませんか?」と言おうとしたのだが、チャイムに阻まれてしまった。
 授業の終わりを告げる鐘の音。すなわち、私の持ち時間が終わったということだ。
「分からないことがあれば、職員室にいますんで、気軽に聞きに来てください。それでは、今日の授業はここまでです。号令、お願いします」
 私の言葉で、クラスの一人が号令を出し、学校特有の「起立」「礼」「着席」の一連の動作が行われた。その所作は、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言ったところで、私の目の前には、男っ気が一切ない混じりっけなしの100%女子高生たちが教室を埋め尽くしていた。
 もちろん、他のクラスにも男子生徒はいない。私が雇われたのは英華女学院高等学校。女学院という名の通り、この学校は女子校だから女子生徒しかいない。待遇に目が眩んで女学院という文字が見えていなかった私は、着任した日、女子生徒しかいないことに驚いたものだ。
 それでも、一学期を終え二学期を迎えれば、もう慣れたものだ。といっても、それは私だけで、生徒の方はまだ慣れていない、というよりも、私が馴染めていないような気がする。授業終わりに「分からないことがあれば聞きに来てください」と言っているが、未だに聞きに来てくれる生徒は一人もいない。私は1、2、3組の数学を担当していて、さらに、今授業を終えた3組は私が副担任に抜擢までされたのだが、他のクラスと変化はなし。教育者として、実に不甲斐ない教員生活を送っていた。
「はぁ……何か打ち解ける方法はないでしょうか……」
 職員室にある自分の席に戻ってきた私は、小さな弱音を吐きながら椅子に座った。
 悩ましい問題なのだが、一緒に悩んでくれる同僚はいないし、親しく話せるような気心の知れた先輩もいない。着任一年目は人間関係が築けていないので大変だ。
 そんなどうしようもないことを職員室の自分の席でウジウジと悩みたいのだが、そう長く休憩時間は与えてくれない。
「橋本先生、清掃時間は始まっていますよ」
「……はい。すいません」
 私に注意をしてくれたのは、二年生の学年主任。平川先生。風紀指導も担当していて、この学校で一番厳しい女性の先生だ。
「教師が見本となる行動をしなければ、生徒に示しがつきませんよ」
「はい。シャキッとします」
 俯き気味だった姿勢を正し、悩みを振り払って立ち上がった。
「その心がけを忘れずに、清掃に取り組んでください」
「分かりました」
 同じ教師にまで、叱り、正しい道を教えてくれる。平川先生は教師の鑑だ。私の目指す教師像は平川先生のような凛々しい教師なのだが、その域に達するには、まだまだ経験を重ねなければならない。
 自分の進む道が、まだまだ長く続くことに思いを馳せるのだが、今は言われた通り、清掃をするべきなので、自分が指定されている清掃場所へと向かった。
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