季節ストーリー集

月見団子

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2024年【バレンタイン】

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 「これ、受け取ってくれませんか?」「え」きっと、いやほぼ確実に。学校での第一声は“え”と言う素っ頓狂な一言である。そんな間抜けな言葉で1日の学校生活を始めた僕の名前は如月  天芽きらさぎ あまめだ。話を戻そう。僕はここまで思考が追いつかないことが合っただろうか?いやだって、殆ど話したことの無い女子からだよ?失礼だと自覚しながらも気になったので一応聞いとく。「え、義理?」「本命です」え?「なるほど、友か」「いえ、本命です」え?「本命…?」「はい、本命です」なるほど、僕の思考回路がバグっただけではなかった。さて、今朝家を出るときそんな事を考えていただろうか?ニュースで季節外れにも程のある流れ星が観測されたとニュースで放送され、それを背に家族に言ってきますと言い、家を出た。登校中、あの流れ星は夢ではなかったのかと考えながら登校して来て、この子…花朝 咲かちょう さきに呼び出され、疑問も束の間今に至る。「なんて僕に本命を…?あまり話したこと無かったよね?」「初めて見た時から好きです、どうしても想いをお伝えしたくて、伝えるにはバレンタインしかないと思いまして...」「それを伝えて、自分に利益が無いとしてもか?」「利益なんて関係ないですよ、この気持ちが伝わればよかったんです」どこかで聞いたことがあった気がする。行動をするに当たって、その原動力に気持ち以外は必要ない。利益だとか不利益だとか、そんなものは邪魔でしかないと。だからこそ僕も勇気を振り絞り、その言葉を紡ぐ。「僕も、君が好きだよ、友達としてじゃなくて…。い、言わなくても分かるよな…?」「!?ごめんなさい私、こういうの初めてで、、こういう時ってどうしたらいいんですかね?」「うーん、どうしたもんか…。僕も初めてなんだよね。」うん、わからん…非常に分からない。そんな時、咲が頬を赤らめながら「えっと、私と付き合ってください」と言うので思わずと言うかほぼ必然的に
「うん、喜んで!」と返事をしてしまった。あれ?立場逆なんじゃ…?普通男のセリフなのでは?“付き合ってください”って…。まぁ、この際どうでもいいか「よろしくお願いします、、なんか色々夢のようでよく分からないです。これって現実ですね!?」「現実だぞ?なんなら頬をつねり合ってみるか?……やっぱ止めよう、恥ずいわ」思わず言った言葉だが、言った自分が恥ずかしいので自分の発言を取り消す発言をすぐさましてしまう。…もったいない事をしただろうか?「そうですね、恥ずかしいです…。やめましょう!」「……なんかさ、こういう時に限って中々チャイムってならないよね。」「そうですね、短いようで長い不思議な時間ですね」「いつかこの時間がいくらあっても足りない様になるのかもな」「これから2人で色んなことをすることを考えたら楽しみです。変な日本語でごめんなさい」「そんなこと無いよ…そこを含めて好きになったんだからな。」「…っと、そんな事を話してる間にそろそろみんなが来る時間か」「次いつ会えますか?」「そうだな…確か今日2時間目が移動教室だっただろ?同じ履修科目を取ってるはずだから一緒に行こう」「分かりました!じゃあまた1時間目が終わった休み時間に!」そう言って咲は自分の席に戻った。
さて、今日の授業内容に関して、6割ほど頭に入っていないわけだが放課後になってしまった。帰り支度をしていると咲が歩いてきて「ね、一緒に帰らない?」と声をかけてきた。特に予定もないので「良いぞ、暇だしな」と簡単な返事をした。咲は仲の良い人には敬語を外すらしく、恋人同士である僕には敬語は外してくれた。…一緒に帰るって言っても、どうすればいいのやら。そうして、いつの間にか家に着き、何をしたらいいのか分からない恋人初日は幕を下ろしたのだった。

 あの告白から何年が経過しただろうか?あの日以来、バレンタインは私達の忘れられない日になった。私は毎年天芽君にバレンタインの手作りチョコをあげるのが楽しみで、仕事が遅い日にも作っていた。そうそう、周りからはよく仲の良い恋人だって言われてるけど、喧嘩だってする。でも、この前、仲直りした時の天芽君の言葉は忘れられない。
――『僕達は今でも喧嘩はする。そりゃ毎日じゃないけど。でも、今はまだ分かり合えてない気がするんだ。』『嫌だよ…私は天芽君と別れたくない。好きだから“こそ”別れるとかそんな事を前に言ってたでしょ?それだけは…嫌だよ』『いや、僕も別れたくないよ。分かり合えるのは更に五年先かも知れない。それでもダメなら十年、いや五十年…ううん、もういっそ死ぬまで一緒にいないか?』『それって、プロポーズ?』『言わせるなよ…恥ずかしい。てか、ずっと思ってたんだけど、僕、ずっと押されてない?』『押されるのは嫌?やっぱり、男の子だからリードしたいのかな』『いや、もちろん嬉しいんだけどさ、なんか情けなく思われてないかなって思って』『んー?そんなこと無いよ。ほら、今の天芽君の顔、凄く真っ赤だよ?』――
そう。あのときの言葉は忘れるもんか。でも、私も言ったほうがいいかな…。でも、“愛してる”なんて恥ずかしいし…。そんなことを考えている間にカップケーキが出来上がっていたらしい。いや、自分で作ったんだけど…。それにしても珍しいな。まだ天芽君が起きてこないなんて。もう、お昼過ぎだと言うのに。少し様子を見に行こうかな。朝だぞー、いやもう昼か…と独り言を呟きながら天芽くんの部屋に行く。「おーいお昼ご飯は食べないのー?」「もう朝ですよー」「あぁ違う、お昼だ…、お昼だよー?」何も返事がない、少し揺すってみるか…「おーい、さぁみしぃよぉー?早く起きてよぉぉぉ!」「将来のお嫁さんが寂しがってるぞー!?」「寝てないでお昼食べようよぉ!!」だんだんムカついてきたのでお布団を剥がす!「おりゃあぁぁぁっ!!!」「いい加減起きろぉ!!」ここで私は異変に気づく。「え?、なんかお布団冷たくない?…」なんでだろうか、ずっと天芽くんが中に入ってたとは思えないくらい冷たい。嫌な予感がしたので、試しに体を触ってみる。「冷たい…」「やだなぁ、天芽くんあっためずに寝たのー?」「えっ、ねっ、ねねね!!どうしたの!?、昨日そんなに夜更かししたの!?」「え、冗談じゃないよね??」怖くなったので、天芽くんの胸に耳を近づける。「いやいやいや、ダメだよォ?、ダメだからね?」「私許さないよ?、そんなっ、えっ?」よく見たら顔色も悪い…。「ねねねね!!返事してよ!起きてよ!」「あぁ、こういうときどうすればいいんだっけ?えっと...、あぁ救急車!!救急車に電話!」リビングにスマホを置いてきたので、スマホを取りに廊下を走る。ダメだよ、そんなこと、いいはずがない…「あぁ、あったスマホ」焦りのせいか考えている事が全て口に出てる気がするが、そんなこと今はどうでもいい。スマホの緊急連絡から119に電話した。
この後のことはあんまり憶えていない。気づいたら医者が家の中にいて、気づいたら死亡確認を行っていた。結局、私は言えなかった。たった五文字の“愛してる”を。なんでだろうね?恥ずかしいとか、そんなの関係なくあの頃は告白できたのに…。数ヶ月前、二人で眺めた流れ星に…あの星降る夜に1人練習してたのに…「愛してる…」この一言を言えなかった。最後まで言えなくてごめんね?私は…君を幸せに出来なかったのかなぁ…。そんな時、天芽君の口元が動いた気がした。『幸せだったよ、“愛してる”』… 気がしただけかもしれない。いや、確実に思い込みだ。けど、それを最後に…最期の最後に伝えに来てくれたと、何故か腑に落ちた。ねぇ、今じゃ遅いかな…。この気持ち、今はもう、届かない、のかな?「愛してる…ずっと、いつまでも」

 「よく寝たなぁ」1人、ベッドの上で伸びをしながら呟く。勿論相手が居ないので返事も無く、行く宛のないその言葉は一人では大きすぎるこの家に伝わり、いつの間にか消えていく。部屋の襖を開け、仏壇の前に正座をする。線香に火を付け、鈴を鳴らす。「ね、天芽君。」私はその遺影に向かい話しかける。「やっぱり、この家、私一人には大きすぎるよ」勿論、返事はない。「でも、誰かに譲る気もないんだ」返事など、無い。「この前、会社の先輩に合コンに誘われてさ、行ったんだけど、告白とか、全部断ってきた」返事はない。「変だよね…私さ、一人でも寂しくないんだ。私、今でも幸せだよ?」涙が頬を伝う。「この家、近くのコンビニ、スーパー…この街や最寄り駅。その全てに君が思い出として存在するんだ。だから、私は独りにならない。」涙は畳を濡らす。「でも、時間が経つにつれてさ」「君の声が遠くに行くんだ。」「君の顔は鮮明に憶えているのに…笑顔は思い出せるのに」「いつか、君の顔も思い出せなくなるのかな…?」「今日がなんの日か憶えてる?2月14日」私は涙を拭う。「そう。私達がお互いを好きだと知って、両思いになった日。…今は私の一方的な愛だけどね!」「私、チョコレート作ったよ。今年はあの日と同じ…カップケーキ。君が食べてくれないからさ…自分で作った奴を自分で食べなきゃいけないんだよ。ま、あとで持ってきて見せつけてあげるよ!」ため息か、はたまた微笑か。息が漏れていく。「料理も、作り過ぎちゃうんだ。君が沢山食べてくれるからさ、沢山作っちゃうんだ。今じゃ残っちゃってさ。翌日の朝ごはんとか、お弁当とかになっちゃってるよ」「カレーとかシチューとかさ…。3日連続とか当たり前だよ」「君は、早くに死んじゃってさ…私に寂しい思いをさせる最低な人だけど…」「私、君を好きになった事、君に告白した事、君の恋人になった事、一緒に住んだ事。……君に出会えた事、後悔してない。本当に、良かったと思ってるよ」だから…だからさ…。その言葉が喉元を過ぎる前に空気になってしまった。もう一度、今度ははっきりと、口にする。「ごめんね、少し遅くなっちゃったね…けど、君に言いたかった。ううん、言わなきゃいけないよね。天芽君。…やっぱりまた後で!カップケーキ持ってくるね!」そう言って私は台所に向かう。確か冷蔵庫に昨日作ったカップケーキが入っているはずだ。「あった」これを先程の部屋に持っていく。「少し形が崩れちゃった!でも。文句言えないよね?君が居ないのが悪いんだよ?これは、ただ見せつけるためだけに持ってきただけだから。いや、ごめん、もう一つ理由ある。寧ろ、それが本題と言っても過言じゃない」私はその遺影に向かい、あの時と同じ様に言葉を紡ぐ。 「これ、受け取ってくれませんか?」と。そして「天芽君。」
「愛してるよ!」
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