オメガ殿下と大罪人

ジャム

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欲しかったもの ロト編

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「ん・・・?ここは・・・?」

目を覚ますと知らない所だった

「小屋・・・か?」

周りを見渡すとどうやら小屋のようだ

「一体・・・なにが・・・」

ロトが自分の置かれている状況を考えようとしたとき

???「あ!やっと起きた!」

部屋の扉を開けて入ってきたのは・・・

「トト・・・か?」

そこにはトトが居た
だが、騎兵団団長のトトではなく、平民のようなトトだった

トト「兄さん!早く起きないと置いて行くよ?」

「お、置いて行くって?」

トト「寝ぼけてるの?父さんと母さんと魚釣りに行くって昨日話したじゃん!」

「え???父さん・・・?母さん・・・?」

トト「もう・・・いい加減目を覚ましなよ・・・。父さん!母さん!兄さんが寝ぼけてる!」

トトはそう言うと部屋を出て行った
少しすると・・・

母さん「ロッくん?まだ眠いの?」

「か、母さん・・・?」

父さん「ロト?いい加減目を覚ませ。釣りに行くのにそんなんじゃ川に落ちるぞ?」

「と、父さん・・・?」

そこにはロトの母親と父親が居た

「生き・・・てる?」

母さん「ん?生きてる?」

父さん「はぁ・・・いい加減にしろ。置いて行くぞ」

そういい父親は部屋を出る

母さん「早く支度をしなさい。今日は大物を釣って恋人に自慢するって言ってたじゃない!」

トト「そうだよ!早く行こう!あの人も待ってると思うし!」

「あ、ああ」

ロトはトトに促され支度をする

「これ・・・俺の服・・・か?」

トト「まだ寝ぼけてるの!?どんだけ眠いんだよ・・・」

父さん「夜遅くまで恋人と夜の散歩なんてしてるから悪いんだぞ?少しは反省しろ」

母さん「あら~?いいじゃない!恋人と夜の散歩!お父さんも昔はよく連れ出してくれたじゃない?」

父さん「そうだったか?俺はそんな悪い奴じゃなかったけどな?」

母さん「ウフフ!ほら!行くわよ!」

そして家族四人で家を出た

「ここは・・・?」

家を出て視界に入ってきたのは村だった
大きくも小さくもない村
とても穏やかで静かな村だった

トト「兄さん?置いて行かれるよ?」

「あ、ああ」

ロトは三人に着いて行く

父さん「ほら。お前の想い人だぞ?」

進行方向を見ると

???「お~い!ロ~ト~!」

「!!ハ、ハル、ト・・・?」

そこには王族とは思えない・・・平民の服を着たハルトが居た

「なんでそんな服を!?また変装してるのか!?」

ハルト「へ、変装?なんのこと?」

「お前は王族だろうが!なんでここにいるんだよ!」

ハルト「お、王族!?いやいやいや!そんな大層な存在に僕がなれるわけないでしょう!?」

「で、でも・・・」

トト「ハル兄さん!ごめんね~。今日の兄さんはちょっと変なんだよね。寝ぼけてると言うかなんというか・・・」

父さん「まったく・・・ハルト君が不憫だよ・・・こんなバカに惚れられるなんて・・・」

ハルト「そ、そんなことないですよ!ロトはかっこいいし可愛い所もあります!僕の自慢の彼です!」

母さん「あらあら~。相変わらず、ハルくんはいい子ね~。ロッくん?こんないい子を困らせないの!」

「え・・・?え・・・?」

ロトは何がなんだかわからなかった

ハルト「ロト?」

「・・・」

ロトは俯いていた
それを不思議そうにのぞき込むハルト

ハルト「大丈夫?具合悪いの?」

「・・・いや、大丈夫。何でもない」

ハルト「?」

不思議そうに見つめるハルトの頭を撫でるロト

トト「いちゃついてないで行くよ!」

トトに急かされ川へと向かった

ハルト「うわ~!綺麗な川~!」

ついた川はとても透き通っていて輝いていた

トト「ハル兄さんって川に来るの初めてだっけ?」

ハルト「ううん。いつ来ても同じ事言ってるだけ!」

父さん「ガハハ!ハルトくんはとても素直だからな!」

母さん「そうね~。感情表現がうまいのよね~」

「・・・」

ロトは相変わらず考えていた
自分の状況が全く分からないからだ

ハルト「ロト?なにがあったの?」

「・・・」

ハルト「そんな顔するなんてよほどの事があったんでしょう?聞かせて?」

「・・・ああ」

ロトは離した
ハルトがレムリック王国の殿下として生きていた事
自分が大罪人でハルトにより助けられた事
レムリック王国がイシュリット国王に乗っ取られた事
すべて、包み隠さず・・・

ハルト「・・・」

「で、真っ黒な霧とお前の光魔法がぶつかって・・・気が付いたらここに居たんだ」

ハルト「・・・」

ハルトはなにも言わずにロトの話を聞いていた

「なにが・・・起きてるんだ?俺・・・どうしちまったんだよ・・・」

頭を抱えるロト
それをハルトは優しく抱きしめる

ハルト「大丈夫だよ。それは夢でしょう?」

「夢・・・だったのか?」

ハルト「そうだよ?だって、僕が殿下な訳ないじゃん?ロトが大罪人のわけないじゃん!」

「で、でも・・・」

ハルト「本物みたいな夢って僕も時々見るよ?だから、ロトのその感覚もわかる。でも、現実はここなんだよ?夢は夢!それにそんな戦争ここ何十年も起こってないってお父さんが言ってたよ?」

「お父さん・・・?アカトシ陛下・・・?」

ハルト「”アカトシ陛下”って・・・フフフ!まだ寝ぼけるんだね!」

そういいハルトはロトの鼻を優しく撫でる

ハルト「僕のお父さんは普通の平民だよ?お母さんもね!」

「・・・そう・・・だよな」

トト「兄さん!釣りの準備できたよ?」

「・・・」

ハルト「行こう!夢の事なんて忘れて釣りをしよう!」

そういわれ手を引かれてみんなの元へと向かう

・・・夕方・・・
トト「結構大きい魚が釣れたね!」

父さん「ああ!これで三日間くらいは生きていけるな!」

母さん「魚だけじゃ無理じゃないかな~?」

「・・・」

ハルト「ロト?」

「・・・」

ロトはみんなの輪に入れなかった
夢・・・
そう思うことにしてもなぜか考えてしまう
現実なのに現実じゃない感覚
とても不快なのに気持ちいい感覚

ハルト「・・・ロト?」

「ん?」

ハルト「帰りに僕の家寄ってく?」

「え?」

ハルト「解決するとは思ってないけど、もう少し一緒に居たいな~って!」

ハルトは眩しい笑顔を向ける

「・・・そうだな。そうするかな」

トト「あ!兄さんがまたハル兄さんの家に行くって!」

父さん「仲がいいのはいいが、あまり迷惑をかけるなよ?」

トト「止めないの!?」

母さん「まだ夕方だし・・・夜までに返ってくるならいいわよ?」

「わかった」

そして帰りにハルトの家によることにしたロト
ハルトの家に着き

「お邪魔します」

アカトシ「ん?やぁ!いらっしゃい!」

「陛下・・・」

アカトシ「ん?」

ハルト「今日のロト、少し疲れてるみたいなんだ」

アカトシ「そうなのか?」

ハルナール「あらあら。疲れてるのにハルトのわがままで来てくれたの?ありがとね!」

「え、いえ」

ハルト「我儘なんて言ってないよ!」

アカトシ「まぁまぁ。さぁ、疲れただろう?座りなさい」

「あ、ありがとうございます」

椅子に腰かけ一息つくことにした
ハルトとハルナールは仲良く料理をしていた

「・・・」

ロトはそれをただ見ていた

アカトシ「・・・ロト」

「はい?」

アカトシ「お前はハルトを命がけで守ると誓った。覚えているか?」

「え・・・?」

アカトシ「あの時、私の前で。覚えているか?」

「覚えて・・・います」

アカトシ「・・・では、どのようなときに私に言ったかな?」

「それは・・・」

陛下の前で・・・レムリック王国の謁見の間で・・・

アカトシ「おぬしは私の前で誓ったであろう。謁見の間で」

「!?」

どういう状況かわからなかった
陛下は・・・知っている?

アカトシ「おぬし。ここがどこかわかるか?」

「ここは・・・村です。小さい村・・・」

アカトシ「この村はあやつ・・・イシュルの作り出した場所だ」

「イシュリット国王が・・・?」

アカトシ「正確には、”ロトの欲しいものが詰まった意識の世界”だがな」

「俺の欲しい物が詰まった意識の世界・・・ですか?」

アカトシ「ああ。おぬしはこんな生活に憧れていたのかもしれないな。戦争も争いもなくただハルトと幸せに暮らす夢・・・」

「・・・そうかもしれないですね」

ロトはポツリポツリと話した

「俺は大罪を犯しハルトに処刑されることを望んだ。でも、本当はハルトと身分も何もかも一緒で楽しく笑って暮らしたかった。ハルトと付き合っていつかは結婚する。そこまで行ったのはいいんだ。でも・・・」

アカトシ「争いのせいでハルトを失うかも・・・と?」

「はい。俺はきっと心のどこかでは納得してなかったんだと思います。ハルトが殿下で俺は兵士・・・身分なんて関係ないとハルトは言う。だけど、俺にとってはその差は大きいんです。あいつは王になります。そしたらいつ命を狙われるかわかりません。そんな中、生きて行くなんて・・・怖いんです・・・」

アカトシ「・・・」

「俺・・・怖いんです・・・あいつを失うのが・・・あの時だって・・・イシュリット国王に捕まった時だって・・・」

ロトの目から大粒の涙がこぼれる

アカトシ「だが、それが現実だ。その現実から逃れることはできない」

「わかってます。わかってるんです。ですが・・・俺は・・・」

アカトシ「・・・」

「うぅ・・・」

ロトは手で顔を覆い泣いた

アカトシ「ロト・・・」

「陛下は死に、ハルトまで死んだら・・・俺は何のために生きればいいんだ・・・」

アカトシ「そう思うなら尚更、目を覚まさないとならない」

「・・・」

アカトシ「現実ではきっとハルトがお前を待ってるだろう」

「ハルトが・・・?」

アカトシ「ああ。今もきっとイシュルと戦い続けているだろうな。お前が助けに来るのを待って・・・」

「・・・」

アカトシ「私はもう何もしてやれない。だが、よく考えてみよ」

「なにを・・・?」

アカトシ「この夢の世界がおぬしが望む通りの世界ならなぜ私だけが他と違うのだ?」

「・・・」

アカトシ「それはおぬしがこの世界をよしとしないからではないかな?」

「・・・」

アカトシ「この世界はおぬしにとって居心地がいいだろう。でも、何かが違う。そうではないか?」

「・・・はい。何かが違うんです。なにかが・・・」

アカトシ「その”なにか”とはなんだ?」

「それは・・・」

ロトにもわからない”なにか”
それを知った時・・・どうなるのか・・・

アカトシ「思い出してみよ。おぬしにとっての一番を」

「俺にとって・・・」

ロトにとっての一番
それは・・・

「・・・ハルト」

ロトにとっての一番・・・
一番大切な物・・・それはハルトの存在だ
ハルトがいるから生きていける
ハルトがいるから生きられる
ロトのすべてはハルトを中心としている

「・・・俺・・・本物のハルトに会いたい・・・」

アカトシ「ここにいるのも本物であろう?」

アカトシはハルトを指さす

「違います。このハルトは俺の理想で作り上げられた幻想です。こんな幻・・・俺はいりません」

アカトシ「・・・そうか。では帰るがいい。元居た場所へ」

「ですが・・・どうやって・・・」

アカトシ「おぬしは帰る方法をすでに知っているであろう?」

「え・・・?」

アカトシ「なぜ、王家は家来に魔法を分け与えると思う?」

「それは・・・戦えるようにするため?」

アカトシ「否。それは、繋がりを結ぶためだ」

「繋がり・・・ですか?」

アカトシ「ああ。魔力の継承。それは主との繋がりだ。お互いの想いが強ければ強いほど強力な力になるのだ。時空や時間ですらをも飛び越えるほどにな」

「・・・」

アカトシ「だから、目を瞑ってみなさい。きっとハルトのいる”場所”に導かれるだろう」

ロトは目を瞑った

(ハルト・・・ごめん・・・。俺の理想とする場所に逃げて・・・。でも、俺はお前の傍に居たい。だから、導いてくれ。お前の隣に・・・お前のいる場所に・・・)

ロトが念じた時
時空が歪み、ロトはその時空に飲み込まれた
そして・・・
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