オメガ殿下と大罪人

ジャム

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手となり足となれ!

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次の日

「正午までまだ時間がある・・・」

僕はベッドに腰を掛けていた
しばらくすると

コンコン

扉を叩く音が鳴った
そして

父上「入るぞ?」

父上が入ってきた

「なにかあったの?」

父上「お前が心配でな・・・大丈夫か?」

「うん・・・大丈夫・・・」

父上「処刑は城下町広場で行われる。執行人は・・・お前だ」

「なんで城下町広場なの?わざわざ民に見せなくても・・・」

父上「本来なら処刑はそんなところではやらない。でも、今回みたいな大罪人の処刑は城下町広場で行うんだ」

「・・・そうなんだ」

父上「・・・もし嫌なら、今やらなくても・・・」

「もう決めたから・・・」

父上「・・・そうか・・・剣は使えるな?」

「多少は・・・稽古で何度も使ったし」

父上「そう、だな・・・」

「まぁ、魔法以外はあまり得意じゃないんだけどね!」

と無理に笑った
父上はそれを察してくれたのか僕の頭を撫でてくれた

父上「民や兵士の前では気丈夫であれ、と教えたな?」

「はい・・・」

父上「でも、今は私とお前しかいない。気丈夫に振る舞う必要はない」

「・・・」

父上「お前はまだ子供なんだ。父親に甘えて泣いてもいいんだぞ?」

「う・・・うぅ・・・」

僕は父上にしがみ付いて泣いた
これから行われる処刑への恐怖
人を殺める恐怖
昨日からずっと怖かったのだ
でも、それを言える人はいなかった
そしてしばらく泣いてから

「すみません・・・」

父上「いいんだよ。少しは楽になったか?」

「はい・・・」

父上「そうか・・・」

「あの・・・」

父上「ん?」

「僕のわがまま聞いてもらえない?」

父上「なんだい?」

「ロト・ブルルクに会わせてほしい」

父上「・・・わかった。今は兵士に監視されながら兵舎にいるはずだ」

僕と父上は兵舎に向かった
兵舎ではあの時の隊長が入り口に立っていた

隊長「陛下!殿下!」

父上「頭を上げなさい。この子を大罪人に会わせてやってくれ」

隊長「!?いいのですか!?」

父上「ああ。この子が決めたことだ」

そういうと兵舎に入った
父上は外で待っていると言っていた
僕は隊長に案内されてロトがいる部屋の前にきた

隊長「ここに居ます」

そういい扉を開ける
そこには地下牢でみた熊獣人がいた
熊獣人は僕をみてきた
その目は何もかもを諦めた目だった

「・・・二人で話を」

隊長「ですが!」

「お願い・・・」

隊長「・・・かしこまりました」

そういうと隊長と兵士は部屋を出て行った

「・・・」

ロト「やっぱり・・・そうだったか」

「気づいていたの?」

ロト「ああ。人間を見たのは三度目だったからな。一度目はお前が赤ん坊の時だ」

「・・・」

ロト「歳的にたぶんそうなんだろうと思った」

「・・・」

ロト「なぁ、聞いてもいいか?」

「・・・なに?」

ロト「なんであの時あそこに来たんだ?」

「・・・」

ロト「俺に会いに来た・・・わけではないだろう?」

「偶然・・・だよ」

ロト「偶然?」

「僕は時々城を抜け出して城下町に遊びに行ってたんだよ。それで入り口を見つけて、入ったらあなたに会った」

ロト「フッ。困った殿下だな」

「・・・」

ロト「まぁ、もう殿下とお話できる機会はないだろう」

そういうとロトは僕の前で土下座をした

「!?」

ロト「この『ロト・ブルルク』。王族殺しの大罪を犯しました。その処罰を殿下にお頼み申し上げます。」

「・・・」

ロト「あなたの手で殺されるときをずっとお待ちしておりました。何卒、処罰を・・・」

「・・・言われなくてもします」

ロト「感謝いたします!」

そして僕は部屋をでた

隊長「殿下・・・大丈夫ですか?」

「・・・うん。大丈夫。ありがとう。」

そういい僕は外に出た
外では父上が待っていてくれた

父上「大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

父上「もうすぐ始まる・・・心の準備をしておけ」

「はい・・・」

そして正午・・・
僕は礼装に着替え城下町広場に向かった
護衛の何人かに周りを囲まれて移動していた
そして城下町広場には何十人・・・いや、何百人もの民が集まっていた
みんな今回の処刑は唐突だったことと殿下である僕がやるということでたくさん集まってきたらしい
民が口々に僕の噂をしているのが聞こえる
そして一人の少女が僕に向かって走ってきた
兵士たちが少女を抑えようとしたが僕がそれを止めた

「どうしたの?」

少女「殿下、顔色悪いです・・・大丈夫?」

そう言いながら白い綺麗なお花をくれた

「これは?」

少女「これ私が頑張って育てたの!本当は売るための物なんだけど、殿下にあげたくて!」

「そうなんだ!・・・いい匂い!ありがとう!大切にするね!」

そういい僕は少女の頭を撫でた
そして次々と民が声をかけてきた

民「殿下!大丈夫ですか?」

民「殿下、どうか、無理はなさらないでください!」

みんな僕を心配する声だ

父上「これもお前の人徳だな。私は誇りに思う!」

「・・・これからこの人たちの前で・・・人を・・・」

父上「みんなそれを覚悟の上でここに集まった。その覚悟、無にするな」

「・・・はい」

そしてロトが連れてこられた
ロトは僕と父上に頭を深く下げた
民はロトに

民「王族殺し!」

民「王妃さまをよくも!!」

と叫んでいた
ロトは広場の中央に膝をつかされた
そして

家臣「これより、『ロト・ブルルク』の処刑を行う!罪状は王族殺し!」

周りからは声がたくさん上がっている
民の怒りが僕にも伝わってくる

家臣「では、執行人・・・ハルト殿下・・・お願いいたします」

そう言われ僕は剣を受け取った
剣はすごくきれいに磨かれていた

「・・・最後に聞きたいことがある」

ロト「・・・なんでしょう」

「なぜ、殺しを請け負ったの?断ることもできたはずだよ」

ロト「・・・俺はやつに拾われた身。だから逆らえなかった・・・」

「拾われた・・・?」

ロト「はい・・・俺は、あの家臣に拾われました。そして育てていただきました。なので逆らえなかった・・・」

「・・・そうなんだ・・・」

ロト「今でも後悔しています。王妃様を殺したこと。あなたを殺めようとしたこと・・・」

「・・・」

ロト「でも、あなたが生きていてよかったと思っています」

「・・・」

ロト「あなたが生きていればこの国に未来があります・・・」

「・・・そうか」

ロト「どうか、この罪人に罰を・・・」

そういうとロトは首を下げた
僕は剣をロトの首に当てた
少し当てただけで首を少し切り血が地面に落ちる
そして僕は剣を振り上げ・・・

ザンッ!!

剣を振り下ろした

「・・・」

父上「・・・」

ロト「・・・!?」

剣はロトの伸びた毛を短く切っただけだった

ロト「で、殿下!なぜ!」

「・・・処刑は執行されました」

ロト「何を言っているのですか!俺はまだ・・・」

「お前は今、死んだ。これからは新しいお前として生きろ」

ロト「なにを・・・」

僕はロトの胸倉を掴んだ

「死ぬ覚悟があるなら、僕の手となり足となれ!剣となり盾となれ!その命、僕のために使え!僕以外の誰にも使うな!僕だけに従え!!」

ロト「!!」

「僕が許すまで死ぬことは許さない!!」

そういい僕はロトを放した
ロトは力なくその場に倒れ込み驚いた顔をしている

「お前は今から僕のために生きろ。僕のために死ね。それが僕がお前に与える罰だ・・・」

そういうと僕は剣を家臣に渡し城に戻った
城内に入ったとき

父上「ハルト」

と父上が声をかけてきた

「はい」

父上「・・・ちょっとこっちに来なさい」

そういわれついて行くとそこは庭園だった

父上「ここはお前の母上が気に入っていた場所だ」

「・・・」

父上「・・・なぜ、あんなことをしたんだ?」

「・・・」

父上「答えなさい」

「・・・ロトはただ従っただけです。本当は殺したくなかったんです」

父上「そんなのその場だけの戯言かもしれないぞ?」

「僕には戯言に聞こえませんでした」

父上「・・・だから助けたと?」

「それは違います。僕は彼に一生かけても償えない罰を与えました」

父上「ん?」

「僕は彼に『死ぬな』と言いました。僕のためだけに生きろと」

父上「そうだな」

「それって思っている以上に辛いことだと思いますよ?」

父上「・・・そうだな」

「だから、僕はこれでよかったと思っています。それに・・・」

父上「それに?」

「信頼できるやつを見つけたら城下町に遊びに行っていいって言ってましたよね~?」

父上「え、お前・・・ロトを信用するのか?」

「はい。そのつもりです!」

父上「はぁ・・・お前は・・・」

そう言いながら僕の頭を撫でる父上

父上「お前が決めたことなら好きにしなさい」

「うん!」

父上「でも、これからの生活は大変だぞ?」

「そうなの?」

父上「ああ、周りからの目もある。いいのか?」

「もう決めたことだから!文句なんて誰にも言わせない!」

父上「・・・そうか!」

と笑うと城内に入って行った
そして僕は自室に戻った
今後どのように変わるかはわからないけど、彼は信用できる
僕はそう信じている・・・
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