55 / 113
第6夜 夢みる羊
第3話 異色の体力測定
しおりを挟む
来栖の伝言通り、クラスメートの半数は緋鞠に対し、何も問題はなかった。けれども、もう半分の派閥は緋鞠に対し、突き刺さるような視線を浴びせてくる。
「はあ~すっごい疲れる……」
「緋鞠ちゃん、ドンマイですよ」
「うん、頑張る……ん?」
「どうしました?」
身体測定は全て終わり、午後からは体力測定だ。昼休みとなり、体操着姿のままクラスの違う琴音と一緒に中庭でお弁当を食べていると、渡り廊下に見覚えのある桃色の頭が見えた。
「あれ、京奈さん?」
「京奈さんて、銭湯花火の? あら、本当ですね」
なにが楽しいのか、るんるんとステップを踏む京奈の姿は、建物に隠れすぐに見えなくなった。
「朝は何も言ってなかったんだけど……」
(……嫌な予感がする)
ぶるりと肩を震わせると、琴音が心配そうに緋鞠を見ている。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫」
「体力測定はハードですよ。無理はしないでくださいね」
その言葉に、緋鞠は首をかしげる。
体力測定といえば、百メートル走や反復横飛びなどの体力を測るものだ。体力には自信があるし、問題はなさそうだけれど……。
そういえば、午後は戦闘服に着替えるようにと通達があった。
京奈の姿も見てしまったことだし、念のため用心だけはしておこう、と最後に残しておいた卵焼きを頬張った。
~◇~
女子の戦闘服は、対月鬼用に特化した術式が施された黒を基調とした上着とスカートだ。デザインは和装の襟と袖状になっており、帯の代わりにコルセットで留めている。
ひらひらの袖には霊符や武器を収納できるらしく、使い勝手は悪くない。また、改造も可能であり、緋鞠は月姫を振るいやすいように右の袖を肩のあたりから切り取っている。
琴音はスカートではなく袴だった。動きやすいように、膝丈にしている。淑やかな雰囲気の琴音によく似合っていた。
髪をひとつに結い上げた緋鞠は、肩にポメラニアンサイズの銀狼を乗せグラウンドへと向かうと。
メェェー
メェェー
グラウンドの至るところに白いふわもこが見える。
「ふああジンギスカン可愛いー!」
『羊だ!! 食べる気満々か!?』
「あはは、冗談だってば。ほらほら、マトンちゃんたち、こっちにおいで~」
緋鞠のいちばん近くにいた羊がぎょっとしたように逃げ出した。それを合図に羊たちが緋鞠から放射線状に離れていく。
「あれ? 逃げちゃった」
唇を尖らせながら、肩に乗ったポメラニアンサイズの銀狼を睨みつけた。
「銀狼のせいだよ」
『おまえが原因だあああっ!』
「ほぼ緋鞠ちゃんのせいですね……」
「え~?」
「はぁい。みなさん、ちゅうもぉく!」
グラウンドに明るい声が響く。
振り返ると、白とピンクのロリータドレスを着た女性が拡声器を手に持ち、お立ち台で立っていた。
クリーム色のゆるいウェーブがかった髪、小動物のように大きなアイボリーの瞳。まるで絵本の世界から抜け出してきたような女性だ。
「弐組担当の星宮愛良です! 担当科目は占星術。よろしくねぇ~」
占星術。陰陽術の中ではメジャーだが、あいにく緋鞠にその知識はない。あとで琴音先生に聞こう。
「壱組と弐組の生徒さん全員、いらっしゃいますね~? それでは、これから行う種目の説明ですよぉ~」
ぴっと人差し指を立てた。
「ずばり、百メェーとる走ですぅ~」
(さすがは星命学園。変わった種目だな……)
感心しながら、周囲を見渡すと、生徒たちが呆然としている。弐組の琴音にいたっては、頭を抱えていた。
「星宮先生のダジャレってセンスいい……なんて思うかぁぁ!!」
「うちの担任、なんで変なことばっかり思いつくの!?」
「普通にまともな授業をしてくれぇえ!」
弐組の生徒がわめ散らしている姿を見て、緋鞠は察した。
「琴音ちゃんとこの担任って、変わってるのね……」
「ええ、まあ……鉛筆転がしで、席や委員を決めてしまうほどです……」
『わふ(運任せなのだな)』
「ある意味、平等ではありますが……」
「まあ、うちの担任も大雅だしね……この学園って、まともな教師がいないのかも」
『くぅん……(なにも言えん)』
その大雅といえば、生徒たちの後方で腹を抱えて大笑いしている。
この場でまともなのは、自分達生徒だけかもしれない。
愛良は生徒たちの騒ぎに気にすることなく、話を続ける。
「はいはいみんなぁ、ちゃんと聞いてねぇ? ルールはかーんたーん! みんなで協力してぇ、羊さんをこの霊符で捕まえてねぇ~」
それぇ~、というかけ声と共に、霊符が全員の手元に飛んでくる。霊符を手にすると、それは虫取網へと形を変えた。
「制限時間はぁ、四十分! もちろん、術や封月も使っていいわよぉ! 残り時間が十分切ったら邪魔が入るからぁ、気をつけてね♪ 羊さんはなるべくぅ、ぜーんぶ捕まえてねぇ!」
愛良がパンパンと手を打ち鳴らすと、グラウンドに囲いが現れた。
「それではよぉ~い……スタートぉ!」
「はあ~すっごい疲れる……」
「緋鞠ちゃん、ドンマイですよ」
「うん、頑張る……ん?」
「どうしました?」
身体測定は全て終わり、午後からは体力測定だ。昼休みとなり、体操着姿のままクラスの違う琴音と一緒に中庭でお弁当を食べていると、渡り廊下に見覚えのある桃色の頭が見えた。
「あれ、京奈さん?」
「京奈さんて、銭湯花火の? あら、本当ですね」
なにが楽しいのか、るんるんとステップを踏む京奈の姿は、建物に隠れすぐに見えなくなった。
「朝は何も言ってなかったんだけど……」
(……嫌な予感がする)
ぶるりと肩を震わせると、琴音が心配そうに緋鞠を見ている。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……大丈夫」
「体力測定はハードですよ。無理はしないでくださいね」
その言葉に、緋鞠は首をかしげる。
体力測定といえば、百メートル走や反復横飛びなどの体力を測るものだ。体力には自信があるし、問題はなさそうだけれど……。
そういえば、午後は戦闘服に着替えるようにと通達があった。
京奈の姿も見てしまったことだし、念のため用心だけはしておこう、と最後に残しておいた卵焼きを頬張った。
~◇~
女子の戦闘服は、対月鬼用に特化した術式が施された黒を基調とした上着とスカートだ。デザインは和装の襟と袖状になっており、帯の代わりにコルセットで留めている。
ひらひらの袖には霊符や武器を収納できるらしく、使い勝手は悪くない。また、改造も可能であり、緋鞠は月姫を振るいやすいように右の袖を肩のあたりから切り取っている。
琴音はスカートではなく袴だった。動きやすいように、膝丈にしている。淑やかな雰囲気の琴音によく似合っていた。
髪をひとつに結い上げた緋鞠は、肩にポメラニアンサイズの銀狼を乗せグラウンドへと向かうと。
メェェー
メェェー
グラウンドの至るところに白いふわもこが見える。
「ふああジンギスカン可愛いー!」
『羊だ!! 食べる気満々か!?』
「あはは、冗談だってば。ほらほら、マトンちゃんたち、こっちにおいで~」
緋鞠のいちばん近くにいた羊がぎょっとしたように逃げ出した。それを合図に羊たちが緋鞠から放射線状に離れていく。
「あれ? 逃げちゃった」
唇を尖らせながら、肩に乗ったポメラニアンサイズの銀狼を睨みつけた。
「銀狼のせいだよ」
『おまえが原因だあああっ!』
「ほぼ緋鞠ちゃんのせいですね……」
「え~?」
「はぁい。みなさん、ちゅうもぉく!」
グラウンドに明るい声が響く。
振り返ると、白とピンクのロリータドレスを着た女性が拡声器を手に持ち、お立ち台で立っていた。
クリーム色のゆるいウェーブがかった髪、小動物のように大きなアイボリーの瞳。まるで絵本の世界から抜け出してきたような女性だ。
「弐組担当の星宮愛良です! 担当科目は占星術。よろしくねぇ~」
占星術。陰陽術の中ではメジャーだが、あいにく緋鞠にその知識はない。あとで琴音先生に聞こう。
「壱組と弐組の生徒さん全員、いらっしゃいますね~? それでは、これから行う種目の説明ですよぉ~」
ぴっと人差し指を立てた。
「ずばり、百メェーとる走ですぅ~」
(さすがは星命学園。変わった種目だな……)
感心しながら、周囲を見渡すと、生徒たちが呆然としている。弐組の琴音にいたっては、頭を抱えていた。
「星宮先生のダジャレってセンスいい……なんて思うかぁぁ!!」
「うちの担任、なんで変なことばっかり思いつくの!?」
「普通にまともな授業をしてくれぇえ!」
弐組の生徒がわめ散らしている姿を見て、緋鞠は察した。
「琴音ちゃんとこの担任って、変わってるのね……」
「ええ、まあ……鉛筆転がしで、席や委員を決めてしまうほどです……」
『わふ(運任せなのだな)』
「ある意味、平等ではありますが……」
「まあ、うちの担任も大雅だしね……この学園って、まともな教師がいないのかも」
『くぅん……(なにも言えん)』
その大雅といえば、生徒たちの後方で腹を抱えて大笑いしている。
この場でまともなのは、自分達生徒だけかもしれない。
愛良は生徒たちの騒ぎに気にすることなく、話を続ける。
「はいはいみんなぁ、ちゃんと聞いてねぇ? ルールはかーんたーん! みんなで協力してぇ、羊さんをこの霊符で捕まえてねぇ~」
それぇ~、というかけ声と共に、霊符が全員の手元に飛んでくる。霊符を手にすると、それは虫取網へと形を変えた。
「制限時間はぁ、四十分! もちろん、術や封月も使っていいわよぉ! 残り時間が十分切ったら邪魔が入るからぁ、気をつけてね♪ 羊さんはなるべくぅ、ぜーんぶ捕まえてねぇ!」
愛良がパンパンと手を打ち鳴らすと、グラウンドに囲いが現れた。
「それではよぉ~い……スタートぉ!」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます
ジャン・幸田
キャラ文芸
アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!
そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる