迦具夜姫異聞~紅の鬼狩姫~

あおい彗星(仮)

文字の大きさ
上 下
48 / 113
第5夜 星命学園

第5話 宣戦布告

しおりを挟む
 終業のチャイムが鳴り響き、多くの生徒たちが廊下へと出て来た。今日はもう授業がないので、生徒たちの表情は明るい。

 そんな中、一年壱組の生徒だけが険しい表情をしていた。

「おい、いたか!?」
「いや、こっちにはいない!!」
「ちょっとー! どこに行ったのよ!!」
「出て来い! 神野緋鞠ー!!」

 茂みがかさっと小さく揺れたかと思うと、ひょこっとアホ毛が顔を出す。
 そのまま周囲をうかがい、完全に静かになったところで、今度は緋鞠が茂みから姿を現した。

「はあ~とんだ災難だった……」
「──俺への謝罪が先じゃないか?」

 緋鞠は恐る恐る背後を振り返ると、翼が緋鞠の肩を掴んでいる。絶対零度の視線を向けられ、緋鞠はぶるりと全身を震わせた。

「つ、翼には悪かったと思うけど、すべての原因は大雅さんだよ!」
「違うだろ? 巻き込んだのはおまえだ……!」

 顔をがつっと鷲掴みにされた。いわゆるアイアンクローとかいうやつだ。

「いだだだっ! ごめん! ごめんってばああ!!」

 万力で締めあげられるような痛みって、こんなかな?  緋鞠は痛みに意識を朦朧とさせながらも悲鳴をあげる。

「だって、クラスのみんなが納得するような実力ある人が、翼しかいなかったんだもん! それに、あのクラスの中で私の唯一の知り合いだし!」
「おまえなんか助けるんじゃなかった!!」
「ひどい~!!」

 翼にすると宣言したあとのクラスメートたちの表情。
 甘口カレーを頼んだのに激辛がきてしまった感じだった。だが、その選択に後悔はしていない。だって、あの場では。それが得策だと思ったんだもの。

──ガサガサッ
 
 はっ! と身体を強張らせる二人の前に現れたのは大雅だった。大雅もクラスメートたちから逃げていたのか、あちこちに葉っぱが付いていた。

「「大雅!」」
「あー、とうとう神野にまで呼び捨てか……」
「大雅のせいで、クラス中を敵に回すことになったんだからね! 反省しなさい!」
「なんでおまえは問題しか起こさねぇんだ!」

 緋鞠は大雅の向こう脛をがつがつと蹴りつけた。
 続く翼は大我の背中をげしげしと足蹴にする。

「いででででっ! こら、おまえら!! やめろ!! 俺は教師だぞ!!」
「知るか!! はよ土に還れ!!」
「骨は拾わねぇからな!」
「いやいやいやっ、俺も考えがあってお前にしたんだって!」
「考え?」

 緋鞠と翼は顔を見合わせた。
 大雅はふっふっふっと、意味ありげに笑う。

「神野のように平等に見れるヤツが、学級委員をしたほうがいいかと思ったんだよ。どちらかの派閥が上に立てば、もう片方は抑圧されて立場がなくなるだろう?」
「う、まぁ……」

 派閥は二分。リーダーである蓮条と剱崎を絶対としているような雰囲気であった。話はわかるけれど、あの状況で矢面に立たされる気持ちにもなってほしい。
    ため息を吐くと、その隣で翼は納得のいかなそうな顔で腕を組んだ。

「とにかく俺は降りる。あとはどうにかしろ」
「──おや、それは残念だ」

 その声に振り返る。
 気配にまったく気づかなかった。いつの間にか、瑠衣が立っていた。

「せっかく三國家当主と張り合えると思ったのに」
「興味ねぇ」
 
 翼が瑠衣の横を通り抜けようとすると、瑠衣は肩をすくめてみせる。

「さすがは、情で繋がった御家は違うね」

 その言葉に翼は足を止め、顔を瑠衣へと向けた。その瞳には怒りが満ちていた。緋鞠は思わず、身をすくませる。翼は詠唱なしに颯月を具現化させると、瑠衣の首元へと切っ先を向けた。

「……てめぇ死にたいのか」
「やってみたまえよ」

 余裕の笑みを浮かべる瑠衣の喉元めがけて、翼は突きを繰り出す。

「翼!?」

加減なしの一突きに危険を感じた緋鞠は、太腿のホルダーから霊符を抜き出す。槍めがけて霊符を放つが──。

(間に合わない……!)

鋭い刃が細い首を穿ち、鮮血が飛ぶイメージが脳裏を過る。しかし、その想像は覆された。  

──ガキィインッ!

 目には見えない何かが、その一撃を受け止める。空間が揺らぐと、カーテンが落ちるように景色が変わった。二人の女生徒が翼を阻むように、瑠衣の前に姿を現した。

「……瑠衣さまぁ。挑発しすぎるのは、悪い癖ですよぅ」

 綿飴のような桃色の髪に、リボンのカチューシャをした少女がおどおどしながら瑠衣をたしなめる。可愛らしい見た目に反し、大男が余裕で隠せるほど巨大な盾を持っていた。
翼の攻撃を受け止めたのは、おそらくあの盾だ。

「貴様! 誰に向かって槍を向けている!?」

 もう一人は、猫のようなつり目の栗色のショートヘアの少女であった。剣の柄に手をかけた状態で翼を威嚇する。

「まあまあ、落ち着いて。僕は大丈夫だから」

 瑠衣は女生徒たちの肩を軽く叩いた。武装を解除させると、二人を下がらせる。

「先ほど剱崎と話し合ってね。三日後の模擬戦で一番になったチームが、学級委員の座を勝ち取るということにしたんだよ」
「担任の俺の意見は?」

 口を出す大雅をちらとも見ず、瑠衣がポケットから書類を出し、大雅へと渡す。横から覗き込むように見ると、数人の教官の直筆と印が押されていた。

「教官方に、我がクラスの現状を説明したところ、快く同意書にサインをくれたよ。チーム分けも僕らのチームだけは、融通してくれるそうだ」

 瑠衣は二人の女生徒の肩に手を置いた。

「えっ、それずるくない!?」

 非難する緋鞠に向かって、瑠衣は楽しげに微笑んで見せた。

「さて、君はどんな手札カードを選ぶのかな? 楽しみにしているよ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

海の見える家で……

梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます

ジャン・幸田
キャラ文芸
 アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!  そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...