上 下
19 / 113
第3夜 鬼狩試験

第3話 鬼石

しおりを挟む
「ふぅ…」

 腕を下ろし、緋鞠は傀儡の残骸を見下ろした。

 霊符で動きを封じたはずが傀儡は止まらず、鋭い攻撃を何度も受けた。もしかしたら、術対策が施されていたのかもしれない。内蔵された陣を見つけ出して斬り裂いたら、傀儡は無残にもバラバラとなってしまった。

「うーん、ないなぁ…」

 地面に膝をついて鉄屑の山、もとい傀儡の残骸を掻き分け、鬼石を探す。丁寧にどけて見ていたが、だんだんと面倒くさくなってきて、大から小の鉄を横にぽいぽいと投げ捨てる。そうして目の前に鉄屑がなくなり、結局鬼石はなかった。

 (制限時間は、刻一刻と近づいているのに──!)

「あー、もうわからん! どこにあるの!?」

 空を見上げて喚くと、遠くのほうで梟の鳴き声が聞こえた。緋鞠はふーと息を吐いて、気を落ち着かせる。そうして両手で頬を叩き、自身に気合を入れ直す。
    弱音を吐く前に、まだやってないことはあるはずだ。緋鞠は立ち上がると、周囲を見回した。

「校舎の中じゃなく、傀儡の中にもないとしたら」

 そういえば、まだ外は探していなかった。緋鞠が今いるのは渡り廊下の階下。二つの科を分けるように、花壇の一本道が出来ている。

「花壇の中とかあったりしないかな……」

 花壇にはチューリップや水仙が植えられ、綺麗な花を咲かせている。見たところ特に変わったことはない。それでもやはり、花を見ていると心が安らいでくるものだ。
    ほんの少しだけ、と花を楽しみながら進んでいくと──。

「……ん?」

 一本だけ、蕾の花があることに気が付いた。
 引き寄せられるように手を伸ばし、蕾に触れる。

「え?」

 蕾がこの時を待っていたかのように花開く。
 花の中央には紅色の宝石が輝いていた。

「わぁ、きれい……!」
 
 美しい大輪の花は役目を終えたように、緋鞠の目の前ではかなく散った。転がり落ちそうになる紅色の石を緋鞠は慌てて受けとめる。
 手のひらの石を月明かりにかざしてみると、浮かび上がったのは淡く光る陣。

「鬼石だ……!」

 ほんの数日前、鬼を封印したときに現れた石と同じものだ。桜木に預ける際に、確認してもらったので間違いない。
 
 しかし、あの石とはなにかが違う気がする。 
 なんだろう? と首を傾げながら、月にかざした石をまじまじと見つめる。

「あれ? この陣……」

(私の持っているペンダントの陣と似てる……?)

 兄からもらったペンダント。
 同じものか確かめようとペンダントに触れると、背後から再び鋭い殺気を感じた。

『盾』

 振り向きざまに盾の霊符を放ったが、遅かった。

「っ!」

 左腕を切られ、鮮血が飛ぶ。すぐさま反撃の霊符を放つが、避けられてしまった。現れたのは、新たな傀儡だった。

「油断した……」

 霊体だから切られた箇所に痛みは感じないが、魂の方には確実に傷がついている。 

(もー! 時間もないのに……!!)

 傀儡に対峙すると突然、突風が襲ってきた。

「わぷっ! な、に!?」

 自然に発生した風ではない、霊力の塊だ。
 交差した腕の影から、傀儡が空高く舞い上がっていくのが見える。

「わわわわ」

 ようやく霊力の風がおさまると、傀儡がガラガラと大きな音を立てて空から落ちてくる。緋鞠が攻撃した以上に無残な姿だ。ぽかーん、としていると傀儡の残骸の向こうに人影が見えた。

(助けてくれたの?)

 同じ受験生だろうか。人影がゆっくりと緋鞠の方に近づいてくる。

 礼を言おうと口を開いたまま、固まった。
 緋鞠の目の前に立ったのは、昼間に攻撃を仕掛けてきた少年──三國翼だったのだ。

「あっ、あんた!?」

 お綺麗な顔を見て、かっと頭に血が上る。
 礼なんか絶対言ってやらない!

 三國の視線が、緋鞠の手元に向けられた。

「おい。その石、どこでみつけた?」

 緋鞠はにっこりと笑顔を作る。

「教えない」

 三國の苛立たしげな態度で、手のひらを向ける。

「じゃあ、見せろ」
「何でよ。これは私のよ!」

 まさに一触即発。
 緋鞠と三國が、ほぼ同時に霊符を手にした瞬間。

 ──空がぐにゃりと歪んだ。

 硝子が割れるように空が割れると、光の粒があたりに降り注いだ。
 緋鞠の腕の傷は光と共に消え、代わりに羽根のように軽かった身体が一気に重くなった。

 周囲を見渡すと、先程とはまったく別の場所にいるようだった。空を見上げると、月が血に染まったような紅い月に変化している。

 霊力の網が、瞬く間に学園全体を覆うように張り巡らされた。さっきまでの安心感のある結界ではなかった。

「なに、これ……」

 学園が異質な雰囲気に変わった。緋鞠はただその様子を呆然と見ていることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

天道商店街の端にありますー再生屋ー

光城 朱純
キャラ文芸
 天道商店街にある再生屋。  看板も出ていない。ぱっと見はただの一軒家。この建物が店だなんて、一体誰が知っているだろうか。  その名の通り、どんなものでも再生させてくれるらしい。  まるで都市伝説の様なその店の噂は、どこからともなく広まって、いつしかその店を必要としてる者の耳に届く。  本当にどんなものでも直してくれるのか?お代はどれだけかかるのか?  謎に包まれたままのその店に、今日も客が訪れる。  再生屋は、それが必要な人の目にしかその店構えを見せることはない。  その姿を見ることができるのは、幸せなのか。果たして不幸なのか。

3.戦災の魔界姫は正体を隠し敵国騎士の愛人候補になる3★空中楼閣籠城編★

喧騒の花婿
恋愛
2.戦災の魔界姫は正体を隠し敵国騎士の愛人候補になる2 ★陰陽師当主編★ の続きの物語です。 天界国青騎士団長ヒサメと、 異世界から神隠しに遭ったニンゲンが かどわかされ 倭国の人質となってしまった。 倭国側の要望は、天界国に幽閉されている 竜神女王とヒサメの人質交換と、和平交渉。 天界国はヒサメを無事取り戻し、 倭国との和平交渉を有利に進めることが できるだろうか。 ★R15です。苦手な方は気をつけて下さい。 該当の話にはタイトルに※が付いています。 ★設定上、魔界は14歳が成人であり、アルコールを飲める年齢になります。 ★閑話は、時系列順不同です。

追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
 役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。 同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。  そんな2人が出会って結婚をする。 【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。  結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。 実は、トンデモなく便利なスキルでした。  最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。 一転して、大陸有数の有名人に。 これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。 極度の、ざまぁ展開はありません。

ススムが進に教えるお金持ちへの道

あがつま ゆい
キャラ文芸
令和3年、とある関東地方の県庁所在地にほど近い場所にあるデイサービス施設で働く「宮本 進」はカネが欲しかった。 カネが無い=死であった彼のもとに80を過ぎてもなお年収が1億あるという老人が施設に通いだしたという噂が届く。 進がその老人に金持ちになる秘訣を教えてくれと頼み込むところから物語の幕が上がる。 毎週月曜、水曜、土曜の19:00(午後7時)に更新。 小説家になろう、カクヨム、マグネットにも同時掲載。 内容は全て同じです。

処理中です...