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第十一話
しおりを挟む「あ、無能だ。」
瓶底メガネ越しに無能が歩いているのが見えた。目障りだな...少しちょっかい出すか。そうして離れたところからあいつの後ろの肩ギリギリを狙ってナイフを投げる。飛ばしたナイフが肩を掠めていくはずだった。ナイフは真っ直ぐ飛び、肩を掠めるギリギリのところで受け止められた。刃先を指で挟むようにして。受け止めたのはまさかの無能。いつもなら絶対できない行動に呆然としていると、ナイフを持った無能がゆっくりと振り返る。こちらを見て少し不気味に笑った無能は、数本ナイフを出し、一気に飛ばしてきた。とても速い速度でそれぞれバラバラに向かってくるナイフを全て避け切ることができず、4箇所ほど切られてしまう。それも掠める程ではなく、少し深めに切られたため出血量が多い。すぐに止血してもらわないと不味いと思い傷から視線を上げると、先程までいたところにはもう無能はいなくなっていた。
━━━━━━━━━━━━━━
「まずは一人目...」
指を折って数えるような仕草をする。この作戦は少し楽しいかもしれないな。ターゲットは今軍にいる幹部全員。次は...図書室に籠っている彼にしようか。
━━━━━━━━━━━━━━
「ふぅ...」
やはり本を読みながら飲む紅茶は格別に美味しい。新しい茶葉を買って正解だった。そうして過ごしていた時、扉が開いて無能が入ってきた。それだけでせっかくの美味しい紅茶が不味く感じてしまう。目を逸らして飲み進めていると視界の端で無能が前に座ったのが見えた。何故相席したのだろうか?行動が意味不明すぎて考えが読み切れない。とりあえず何も言わずに新しいカップに紅茶を注ぎ、差し出す。静かに受け取った彼女は一口飲んで話し出した。
「流石、アルフィーの入れるお茶は素晴らしいですね。お茶の扱いがよくわかっています。」
そうしてカップを置き、読んでいた本に目を向けた。
「その本、楽園の記述書ですね。解読されているのは極僅かなんだとか。読めるんですか?」
表紙は見えていないはずなのに、見開き一ページだけで当てるとは。焦りながらも驚きを隠して質問に答える。
「...全て読める訳ではありませんが、解読されていない部分も少し分かるような気がして。たまに読んでいるんです。」
ふむ...そう言って軽く俯いた後、彼女がボソッと呟いた。
「"自然の恵と生命に感謝し、和を保て。さすれば神は我らに祝福を授けるであろう。"」
そう言って指をパチンと鳴らす。何処の言葉だろうか。聞いたことのない言葉の意味を考えながら紅茶を一口飲むと、更に彼女は言葉を続けた。
「楽園の古文書の最初の一行の言葉です。まぁ今はもう読める人は少ないですが。」
楽園の古文書...確か記述書よりも前に書かれた本だ。そちらは全く解読されていないはずだ。何故彼女がその文を知っているのか、それを考えようとした矢先、突如頭に強い痛みが走った。ズキズキと繰り返す痛みに思わず頭を抑えて倒れこむ。すると無能が立ち上がって近寄ってきたので思わず見上げると、彼女は不気味な笑みを浮かべてこちらを見下げていた。
「参謀と言えど、まだまだ知識は浅いですね。それに油断大敵ですよ?信用していない相手の前で飲み物を口にするものではないかと。」
まさか毒でも入れられたと言うのだろうか!?いや茶葉もカップも紅茶も用意したのは私だ。無能は触ってもいないし入れる隙も無かった。ならばどうして!?そう痛む頭で考えていると、無能が屈んでこちらの目を見て呟く。
「安心してください。命を脅かすような毒ではないので。それにもうすぐ助けも来ますよ。それでは私はこれで失礼しますね。」
そうして彼女は立ち上がり、扉から廊下へ出ていった。その後、彼女の言った通りすぐにゼラフさんがダクトから現れたところで私の意識は途切れた。
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