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第七話
しおりを挟む「いやぁすまんすまん。デザートを食べていたら遅れてしまった。」
「何勝手に休憩してるんですかねぇ?」
セルゲイのツッコミが入りながらも登場した黒い軍服の上に黒いトレンチコートを羽織った男。彼が総統である。名はクリーク。ルーチェとはまた違った金髪で片目を覆っている。瞳はワインレッドで眼鏡をかけている。能力は未来予知だが、本人は未来を見ても面白くないと使いたがらない。
「じゃあ揃ったから会議始めるぞー。」
まずそれぞれの部隊から報告があれば報告する。私はどこにも所属していないのでこの時間は暇だ。報告が終わったところでレーヴェが声を上げた。
「ところでクリーク、結局"戦場の歌姫"はどうなった?」
その言葉に全員の動きが止まる。
戦場の歌姫。戦争が終わった後の戦場や時には戦火の中にまで現れ、歌いながらその場を征する。荒れた大地を蘇らせたり悪事を働いた者や彼女に敵対した者達に制裁を下したりしているようだ。彼女に関しては謎も多く、名前も姿も年齢も不明らしい。我が軍ではその戦場の歌姫に協力を持ちかけようとしていたようだ。私がこの軍に来る前の話なので詳細はよく知らないが。
「あーその件だが。」
全員が固唾を飲んで見る中彼は呑気に呟いた。
「彼女は条件付きで我が軍に所属してもらっているぞ。」
「「「「...は?」」」」
私とクリーク以外の幹部全員が驚いた声を出す。それもそうだろうな、謎の女が軍にいるなんてセルゲイなんかは倒れそうだ。
「おいお前!何で早く言わなかったんだよ!ていうか本人はどこにいるんだよ!!」
早速セルゲイがクリークの襟を掴んでガクガク揺らしている。目が血走っているし、寝不足で相当疲れているんだろう。
「おい落ち着けセル。条件付きだと言ってるだろう。ちょ、今からその条件言うから!頭がぁ!」
しばらくガクガク揺らされていた。
「ふぅ...では条件言うぞ。」
条件はまず、こっそり入るので他の者に正体を明かさないこと。次に、彼女の邪魔をしないこと。最後に、
「余計な詮索をしないこと。以上だ。」
条件を聞いた幹部達は少し納得が行かないような、そんな顔をしていた。情報管理のワイアットが最初に声を出した。
「誰かもわからないのに邪魔をしないって無理じゃない?それに余計な詮索って必要最低限の情報は貰っとかないと...」
「現れる時はちゃんとわかりやすく現れるようだ。だからその時彼女に協力してやればいい。必要最低限の情報なら俺がある程度把握している。問題ないだろ?」
「いやでもこっちに伝わってないと司令が...」
「彼女に関する司令は俺が直接出す。余計な詮索はするな。それとも...」
"死にたいのか?"
その一言で場が凍りついた。
「彼女を余り下に見ない方がいい。我々全員でかかっても戦闘力は格段に彼女の方が上だ。条件を破って何かされても俺は知らんぞ。」
その声にはもう何も言わせないといった圧があった。流石にワイアットももう何も言わない。自分の命が大事だと感じたようでよかったと思う。
その後は次の戦争の話をして会議は終わった。さっさと出ないと何をされるかわからないのですぐに部屋を出る。自分の席が扉に近くて本当によかった。
━━━━━━━━━━━━━━
無能がいなくなった後、ゼラフが声を上げた。
「なぁクリーク、無能って何者なんだ?」
会議終わりでざわついていた部屋が再び静まり返る。
「それ、俺も聞きたかった。俺達無能のこと何一つ知らなさすぎるよ。」
レンが後に続いた。それに言い返すようにルーチェが話す。
「無能は無能だろ。本人がそう言ったんだ。何も知る必要ねぇよ。」
初めて挨拶した時、彼女は自分のことを"無能"と呼び、それ以外のことを話さなかった。
「それは問題だと思う。無能とはいえ彼女は仲間だよ?」
「俺は仲間とは思ってない。」
ルーチェの言葉にレーヴェも賛同する。他の幹部も数名賛同した。
「仲間じゃなかったとしても知るべきだと思うけど...ほら、スパイとかの可能性も潰したいしさ。」
「それは一理あるな。あいつは情報少なすぎる。調べても何も出てこないし。」
レンの言葉にワイアットが賛同した。それは全員思うのか何も言わない。
「...最初に言っただろう。彼女は戦地で俺が拾ったと。それに...」
その次の言葉を全員が静かに待った。
「彼女は"無能ではない。"勘違いするな。以上だ。」
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