戦場の歌姫と呼ばれた少女、一旦無能になってみることにしました。

影猫

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第三話

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数時間かかってようやく書類が一区切りついた。あとはこれを運んで提出するだけなんだが...どうやって運ぶかが問題だ。箱に入れて行ければいいのだが生憎私の部屋には空き箱が無い。
「取りに行くか...」
道中危険しかなさそうだがそれでも書類を出すためだ。腹を括って扉を開けて廊下に出る。まずは食堂に空き箱を置いているか確認しに行こう。

━━━━━━━━━━━━━━

案の定酷い目にあった。歩いているだけでナイフが飛んできたり足を引っかけられたり。なんとか空き箱のある場所を聞いてそこへ行けたが既にズタボロだ。
「とりあえず...」
何個か箱を手に取って大きさと持ちやすさを確認する。できれば書類の山が2つ入るぐらいの大きさで両手で持てる箱...あっ、
「この箱いいな...」
丁度書類を縦に2つ並べられる大きさで持ち手も付いている。これにしよう、そう思って箱を持った時だった。
「何してるの。」
背後からいきなり声をかけられたのは。
「っ!?」
思わず持っていた箱を盾のようにして振り向く。そこにいたのはまたしても幹部の一人、レンだ。彼は東の方の国の出身であるため、名前や見た目が他の者と少し違う。黒髪黒目に白い軍服を着た姿はいかにも東方の国を感じさせる。彼は特に部隊に所属はしておらず、個人的趣味で植物を育てたり動物を飼育したりしている。そんな彼の能力は、植物操作。植物を操って攻撃したり育成させたりできるそうだ。
そういえばここは彼の畑に近い場所だ。もう少し早く箱を選んで帰ればよかった。
「聞いてる?何してるのって聞いてるんだけど。」
眉をひそめて再度こちらに問いかける。いろいろ考えていてすっかり返答が遅れてしまった。
「...箱を選んでいました。」
特に良い言い訳も無いので素直に今やっていたことを答えた。彼は彼の機嫌を損ねる行動をしない限りよっぽどのことがないと手を出す人間ではないから特に何もされないと思うが...
「...そう。用が済んだら早く立ち去ってよね。」
思った通り、何もせずに何処かへ向かって行ってしまった。虐められていると言っても彼のように言葉が冷たかったりするだけで手を出してきたりはしない者も何人かいるため、上手く過ごせば何事もなく一日を終えられる。ルーチェのような人もいるため運試しのようなものだが。
そうして箱を手に取り部屋に戻った。帰りも決して何事も無かった訳ではなく、しっかりナイフが飛んできたが。
終わった書類を箱の中に入れて持ち上げてみる。紙といってもやはり山にもなれば重さも増える訳で、そこそこ重い。まだまだ鍛え足りないことを実感しつつ、部屋を出て扉を閉める。提出先は書記長室。ここから少し遠いが、鍛錬には丁度いいだろう。

━━━━━━━━━━━━━━

「...吠えなかったな。」
飼育小屋に餌を入れながらレンは考えていた。無能は気付いていなかったようだが、あの時ここで飼っている犬のレオを放して散歩させていたのだ。彼は探知犬としてとても優秀で、嗅覚が非常に優れている。それに何より、動物は正直だ。悪人だと分かればすぐに警戒して吠えたり距離を取ったりするだろうに、レオは無能には何も反応しなかった。警戒するどころか尻尾を振って少しリラックスしてるようにすら見えた。だがしかし、彼女は現に"無能"と呼ばれている訳で...いやそもそも本当に無能なのだろうか。よく考えれば、自分は彼女に関してほとんど何も知らない。考えれば考える程、疑問は増えて大きくなっていった。
 
「彼女は一体何者なんだ...?」
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