戦場の歌姫と呼ばれた少女、一旦無能になってみることにしました。

影猫

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第二話

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ひたすら笑い終わった後に机の上に山積みになった書類達に手を付け始める。自分の物もあるが大半は他の幹部から押し付けられた物だ。無能と呼ぶなら無能に仕事を押し付けないでほしい、切実に。
そうして書類を仕上げていると、バンッ!と大きな音を立てて扉が開かれた。目を向ければまず輝く金髪が目に入り、その次に不機嫌そうに歪められた顔が目に入った。
「...何の用でしょうか、ルーチェ。」
この男はルーチェ。縞模様の半袖に半ズボンの服装とブルージルコンの瞳が特徴。第一近距離部隊の隊長をしている。能力は身体強化で全体をバランスよく上げることもできれば部分的に上げることもできるらしい。
さて、何の用でしょうかと聞いたが、彼がこんな機嫌悪そうに来たということは答えは1つしかない。どうせよくわからない苛立ちを私にぶつけに来たのだろう。
「言わなくてもわかるだろ。立て。」
やはりそうだ。ため息をつきたいのを堪えて彼の前に立つ。その瞬間に右頬を思い切り殴られて倒れそうになった。体勢を立て直す前に次の攻撃が左から来る。そうしてしばらく左右交互に殴られ続けた後、腹に重い一撃をくらった。堪らず後ろに倒れると、その腹をすり潰すように踏んできた。
「...はっ、弱。」
そんなことを小声で吐き捨てると私の前髪を掴んで無理やり起き上がらせて呟いた。
「俺は死んだ魚みたいな目をした奴が嫌いなんだ。お前もそうだ。その目を俺に向けるんじゃねぇ。」
そうして投げやりに離した後、また大きな音を立てて扉を閉め、出ていった。
「...はぁ。」
どうやら私の目は死んだ魚の目をしているらしい。向けるなと言われても向こうから視界に入ってきたりするのにどうしたらいいと言うのだ。やはり世界は、
「...理不尽だ。」
そう呟いて起き上がる。踏み潰された腹が痛むがそんなこと気にしていられない。ある程度は書類を仕上げて提出しなければ一生終わらないかもしれない。それはそれで部屋から出れないので困る。さっさと仕上げなければ...

━━━━━━━━━━━━━━

「おいルーチェ。無能の部屋でストレス発散するのはいいけど見てるこっちの身にもなってくれよ。」
「別にいいだろ、あいつのこと全員嫌いだし。あぁでも総統は違ったか。」
「そうだぞ。今んとこ何も言われてないけどあんまりやりすぎたら何言われるかわからないからな。」
情報管理室兼司令室。ここではこの国のあらゆる情報が詰め込まれており、国中の防犯カメラ等のカメラにアクセスすることができる。また司令塔の役割も担っているため、戦争中の司令や軍内のアナウンスは大体ここから出ている。その最奥、最高管理官の部屋でルーチェともう一人、ピンクトルマリンの瞳の男が話していた。
「お前も可哀想だな。無能の部屋の監視をしてないといけないなんて。俺だったら絶対サボるのに。」
「本当は俺だってやりたくないよ。でも俺はお前と違って真面目に仕事するからな。」
「ていうか何であいつの部屋監視しないといけないんだろうな。無能なんだから何もできないだろうし。」
「知らないよ。総統ほんとはあいつのこと信用してないんじゃない?それ以外無いでしょ。」
「確かに。戦争にもろくに出さないしな。何で幹部にしたのかほんとに不思議だわ。」
そんなこと話し続けている2人の前の画面の先では、書類に向かって黙々と仕事をする"無能"と呼ばれる少女がいた。
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