異世界ゆるゆる開拓記

夏樹

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その2 農家、出会う

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「てんせい、ってなに?お兄さん」

 声の方を向くと隣には少女が座っている。見た目は十代前半、といったところだろうか。

 ブロンドの髪を腰ほどまでに長く垂らしているその少女から見える腕は、やせ細っているように感じた。

「いや、ただの独り言だから気にしないで。それより、君はどなた?」

「わたし?わたしはレナ。レナ・ベルっていうの。お兄さんは?」

「俺は、拓也たくや。だから、タクヤ・ノギかな」

「ノギ家?聞いたことないけど、どこ出身なの?」

 どこ出身、か……。
 そもそもここがどこなのかもわからないし、この集落に外から来た人だとバレたら排除されるかもしれない。

 でも、その時は逃げるしかないか。
 きっと他にもこういった集落はいくつかあるに違いない。自給自足のノウハウもそれなりに持っているつもりだ。
 なら、この場では正直に言うことにしよう。

日本ジャパンっていう国に住んでいたんだ、知ってる?」

「そんな国、聞いたこともないよ」

 無理もない。
 この集落の文明レベルはあまり高くはなさそうだし、ましてや相手は子供だ。

「まあ、そうだよな。じゃあ、この国の名前は分かるかい?」

「ここは、エルカドっていう村で国じゃないの。でも、遠くにはアルセンっていう国があることは知ってる」

「アルセン?」

 そんな国の名前は聞いたことがない。
 そもそも、この村はどこかの国に属していないらしい。一体全体どういう事なのか?

「魔法都市アルセン。わたしたちのご先祖様はその国からこの村へと来たんだって」

「まほう、とし……」

 薄々感づいてはいたものの、あえて考えないようにしていた。
 しかしどうやら、その線を疑わざるを得ないというか、そちらの方が色々とつじつまが合ってくる。

―――――この世界は、俺が住んでいた世界とは全く異なる別世界。

 つまるところ、異世界であるらしい。

 異世界転生。こんなのは、物語の中の話だけだと思っていたのに……。

「……さん、お兄さん?」

 俺はレナの呼びかける声でやっと正気を取り戻した。

「どうやら俺は、すごいすごーい遠い国からやってきたみたいだ。戻ることが無理なくらい遠い国だ」

「どういうことか分からないけど、そんなに遠い国からどうやって来たの?」

「まあ、一種の魔法みたいなものかもしれない。でも、俺にはどんな魔法を使われたのかさっぱりだよ」

 自分で言っておきながら、なんとまあ飛躍した説明なんだとは思う。
 だが、それが妙にしっくりきてしまった。

 どうやら俺は、本当に異世界転生してしまったようだ。
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