上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

夏樹

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129話 虚ろな者たち

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 俺の放った光の粒を追うように不死鳥の形をかたどった火魔法が出る。

 虚ろな目をした人たちの前を威嚇するように飛び、旋回して扉を破ろうとする。
 だが、無理やりこじ開けることは不可能のようだ。

「くそっ、魔法避けか?」

 扉は依然として閉まったままだ。
 へこんだ跡や焦げ付いた跡すらない。

「流石にこの人数が敵だとすると面倒なことになるな。知性がないというか、考えを持っていないようで恐ろしい」

 じりじりとこちらに寄ってくることも分かる。
 何が起きたのかは分からないが下手に魔法を浴びせるのもマズい。

「本能的に火魔法を近づければ逃げるようだが、不用心に使いすぎれば無駄になるぞ」

 あまり長い時間魔法を使い続けるというのはほとんどの場合不可能である。
 それは、周りにある魔力を使い切ってしまえば魔法は使えなくなるという、基本的なことである。

「これでは埒が明かないな……」

 どうしようか、と俺が悩んでいると、虚ろな目をした人たちの後ろから声が聞こえてくる。

「なんとかしてそこ、突破できませんかね?」

 人の群れの後ろには一人だけ正気を保ったように立っている男性がいた。
 見覚えがある……誰だ?

「式神を向かわせておいて正解でした。ここにいる人たちはシェイドの魔法で意思を抜き取られています」

「そりゃあまあ物騒なことを。で、君は一体?」

「サレスティです。アトラト家の」

 なるほど。確かシュンの友人だっただろうか。
 本当にサレスティ本人なのかどうかは分からない。だが、アトラト家ということはこの状態では信じるしかなさそうだ。

Warpワープ魔法は使えるんだろうな?」

「アトラト神に誓って言えます。当然ですとも!」

 俺は不死鳥を群れの中に突進させる。
 案の定通れる隙間が空いたところを俺は一気に走り抜ける。

 どうやらサレスティは本物だったようで、Warpワープ魔法の緑色の光の魔法陣を生成しているようだった。

「あと十秒ほど時間をください。そうすればここから転送できます」

「だてに魔法学科を首席卒業したわけじゃないからな、その程度朝飯前だよ」

 俺はそう言うと、不死鳥の輝きを強くする。
 その光を浴びた虚ろな人々はそのまぶしさにひるんだ。

「ありがとうございます、そろそろ転送できますので魔法陣の中に入ってください」


「それでは、Warpワープ!」

 緑の光に包まれた彼らはそのまま転送される。
 そして向かった先は……。


「ここがシュンの生家、ミトラス家の公宅です」

 そこに集まっていたのはセイヨウ、ハルカ、トリオス、レイシェル、そしてシュンだった。
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