上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

夏樹

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124話 ミトラスは何を願う

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『この紅玉龍の遺跡こそが、私の墓なんです』

 シュンの頭の中で聞こえる声は、少しだけ小さくなったようにも感じる。

『私は、二千年もこの事を伝えるためだけにこの場所にいたのかもしれませんね。ここにいられる時間はもうそんなに長くないかもしれません』

 ミトラスが語りかける声は確かにだんだんと小さくなっていっていた。
 シュンは声を発せずにいたが、再び壁画を見て驚いた。

『シュン、壁画の一部を変化させました。その、龍の紋章に触れた時新たな能力を授けられます』

 ミトラス神が描かれていたところが龍の紋章に変化している。
 シュンがその紋章に近づいていったときにシュンの耳にミトラス以外の声が響いた。

「シュン!気を保て、操られていないか!?」

 父親だった。
 振り返ると同行していた父、兄、兄の妻は心配したようにこちらを見ていた。

『今は早く龍の紋章に触ってください!私の声が聞こえるうちに、早く!』

 僕は再び龍の紋章の方へ向いた。
 それは、決して父の言葉に背いたわけではなかった。

 ただ……

「僕には確かめておきたいことが一つだけある。それは、ミトラス神にだ」

 シュンは龍の紋章に手を近づけるが、まだ触れていない。

『ミトラス、一つだけ聞きたいことがある。転生者を僕にした理由だ』

『それを伝える時間は私には、もう……』

『いいや、答えは出ているんだ。それは……貴女が俺の妹だったから。そうだろ?』

『分かってたのなら、言ってくださいよ。……ずっと秘めようとしていたのに』

『僕は、納得してから次に進みたかったんだ。だから、ありがとう。_____』

 シュンは龍の紋章に触れる。
 その瞬間、その紋章はまばゆい光をあげたように感じて、シュンはその明るさに目をつむってしまう。

 次に目を開いたとき、そこには龍の紋章はなく、ミトラス神がそこにはいた。
 気のせいだろうか、壁画に描かれているミトラス神は心なしか微笑んでいるように見えた。

 もう、ミトラスの声は聞こえない。
 だが、その力は確かに継承していた。

「シュン、大丈夫か?」

「ご心配おかけしてすみません。でも、大丈夫です」

 シュンは同行した三人のもとへ向かっていき、そして壁画の方に向かって手を合わせた。

「……新郎新婦に、ミトラスの神の御加護あらんことを願います」

 もしも、まだ見守っていてくれるのなら、トリオスやレイシェルは巻き込みたくない。
 そう、僕はもう、シェイドと全面的に戦うことになるのだろうから。

「あれ、ハルカさんからメッセージ?一体どうしたのでしょうか?」

『私はハルカの夫のフルヤと申します。そちらに、シュンさんはいらっしゃいますか?』

「シュンさん、フルヤさんという方からメッセージです」

 フルヤさんはどうやらだいぶ慌てているらしい。
 レイシェルからカードを受け取ると、声をかけてみる。

『シュンくんだな、大変なことになった。……ユナが、さらわれた』

 ユナが、さらわれた?
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