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120話 ナルヴァ

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 この世界でも唯一僕をしたってくれている人がいた。
 日本にいた時はそんな風に僕を見てくれる人はいなかっただろう。

「僕はずっとナルヴァに見張られていた、っていう事か?」

 そんな気配は感じなかった。
 それに、いくらサレスティの支援があったとはいえ、ナルヴァは僕を見張るどころかバレないようにいることが精一杯なのではないのだろうか?

 その疑問はサレスティによって簡潔に解決した。

「ナルヴァ君は、君のなんだよ」

 父親には弟以外の兄弟はいなかったはずである。
 となると、父親の弟の子ども?

 そりゃあ、バレるわけがない。
 いとこなのだから一週間前の時から貴族区で兄の結婚式を待っているのは当然、といっても過言ではない。
 それにいとこである僕をしたってくれていたというのは自然なことなのかもしれない。

「なんか色々腑に落ちたよ。ナルヴァはいとこだったのか……」

 僕が親近感を覚えたのも、もしかしたらそれが要因なのかもしれないな……。

ーーーーーーーーーー

 僕は街の外れにある小さな病院で生を受けた。
 お父さんは元々は上流貴族だったというが、僕がお母さんのおなかにいるときには既に死んでいたため、僕にはお父さんという存在が分からなかった。

 お母さんは僕を養うためにあくせくと働いていた。
 元々は貴族のような暮らしをしていたというのに、そんなに働けるのはどうして?と聞いてみたら

「だって、貴方のお父さんは元々冒険家になりたがっていたのよ。私だってちょっとやそっとの事じゃへこたれないわよ」

 と言われて、お母さんは強いんだなぁ、と子供ながらに思うようになった。
 でも、本当はそうではなかった。

 夜が落ちてきたかのように暗闇に支配されていたような夜。
 いつもなら僕は寝ているはずだったのに、なぜか目を覚ましてしまった。

 もしかしたらその声が聞こえたからかもしれない。
 隣の部屋から聞こえてくる抑え込まれたような泣き声。

「どうしたの……」

 お母さんの手の中にあったのは小さいリング、お父さんとの結婚指輪だった。
 それを見てお母さんが泣いていた。
 僕はお父さんのことを知っているわけではない、会ったことも話したこともない。

 でも、お母さんのその涙と指輪の裏に刻まれていたお父さんとお母さんの名前を見て、いつの間にか僕も泣いていた。

 僕はその日に決心した。
 お母さんがお父さんに笑って話せるように、僕は立派にならなければならないと。

 多分、偶然なんかではないだろう。
 上流貴族であるはずのシュンさんが、国設アトラト学園に入ったというニュースを聞いたことは。
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