上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

８３話 ユナと僕と

「はあ、はあ、はあ……」

　こんな暗い時間に走ったまま帰ってきたため本の掃除中だったユナは挙動不審になる。

「ただいま……」

「お、おかえり。どうかしｔ、ってあぁ……」

　数冊の本がドサドサと床に落ちてしまう。
　折れていたりしないかを確認して（折れていたものはRepairで直しておいた）元の位置にしまう。

「今日は遅かったけど、どうか、したの？」

　ハセさんと一緒に帰っていた事を伝えるべきであろうか？
　何もやましいことはない。セイヨウの誕生日プレゼントを選んでいただけだ。

「いや、少し生徒会のお手伝いをしていたら長引いちゃって……」

　自分のヘタレ！口を咄嗟についてきたのは嘘の方であった。

「そっか、お疲れ様」

　ユナが微笑んでくれるのを見て僕は虚しくなってしまった。
　お願いだからこのことがユナにバレませんように、と願うしかなかったのだ。


「そういえばさ、ハセ先輩がデートしていたらしいよ？」

「え、お相手すごく気になる！」

　翌日のトップニュースになっていたために僕は口コミの恐ろしさを知った。
　ここまで広まってしまったら嫌な予感しかしない。
　そっと、クラスの扉を開く。

「シュンが来たぞ！」

　誰の声だかは分からない。
　だが、一瞬にして僕の方に目が向いた。
　その中でも一際強くこちらを見ている……睨みつけている人がいた。

「俺に抜け駆けをしてハセ先輩とデートか、シュンもやるな」

　セイヨウである。
　当然だが、デートではないし抜け駆けもしていない。
　それを冷静に伝えればいいのだが、物凄い威圧感に言葉すら出ない。

　こんなセイヨウは初めてだ。
　僕は愛の力を小さく見積もりすぎていたのだろうか、でも、嘘の情報に騙されているのだ。

「セイ……」

「セイヨウ、シュンに何してるの？」

　非常に悪いタイミングでユナが来てしまった。

「シュンがハセ先輩とデートしてたから問いただしてたんだ」

　非常に悪い言葉選びでユナにデマ情報が伝わってしまう。
　ユナは少し驚いたようにこっちを見て、こう言った。

「でも、仮にハセ先輩とシュンくんが一緒に並んで歩いていたとしても、デートだとは限らないわ」

「じゃあ、お菓子屋で楽しそうに商品を選んでいたっていうのはどういうことだ、シュン？」

　よりによって一番答えたくない質問がこちらに飛んでくる。
　お菓子屋さんによった理由は「セイヨウの誕生日プレゼントを選ぶため」である。
　今僕が言ってしまえばハセさんがセイヨウにあげる時にサプライズでも何でも無くなってしまうだろう。

「なぜ僕に聞こうとするんだ、ハセさんに直接聞けばいいだろう？」

「ハセ先輩に言えるわけ無いだろこんな事！俺、もう帰るわ」

　何であんなに怒るんだよ……、これじゃぁ僕が悪人じゃないか。

「シュンくん、ちょっと二人で話したいんだけど……」

　しかもユナの目の前で。
　ただただ僕は惨めだった。