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64話 ハセとセイヨウ

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 セイヨウは部屋に戻ってきてハセさんをすぐに発見し、はっと息を飲んだ。
 そして何を言おうとしたのか少し息を吸ったあと、その言葉はかき消されてしまった。

「あ、ハセさん戻っておられたのですね」

 それはシュレイが発した言葉だった。
 別にシュレイが悪いわけでは全然ないのだが、少しセイヨウが可愛そうな気もする。

「私も今戻ったところですよ。それで、そこのお方は?」

 ハセさんナイスアプローチ!さすが生徒会役員。こういうところを見逃さない。

「あ、彼はセイヨウていってですね、新しく生徒会に入ることになった……」

 いや、セイヨウ完全に自己紹介のタイミング失ったじゃんか。シュレイさんも悪気があったわけじゃないんだろうけどさ。
 セイヨウこっちに向かってきた。意気消沈みたいな雰囲気出さないでくれ。

「セイヨウさん、よろしくおねがいしますね」

 その言葉を聞いてセイヨウは急ブレーキをかける。
 スピードはさほど出ていないはずなのだが、結構よろけたように感じた。

「あ、よろしくおねがいします」

 言えてはいるんだけれどもなんというか抑揚がない。
 おそらく緊張しているのだろう、色んな意味で。
 その後小さな声で「やった!」とセイヨウが言ったのを僕は聞き逃さなかった。
 すでにあからさまバレバレで割とだいぶ察しはついていたのだが、セイヨウはハセさんに一目惚れしていた。

 実は……。みたいに言わなくても隠せてないからね?
 そんな僕の思いもつゆしらず、セイヨウはウキウキな感じで生徒会の部屋を後にした。

「なんでこの学校に一年もいたのにあんな綺麗な人を見逃してたんだろ」

 そりゃあなた、学科も違うし学年も違うからむしろ出会える確率のほうが少ないでしょうよ。

「それにしても、ぎこちなかったね……」

「え、うそ!?メッチャなめらかだったと思うんだけど」

 この人無自覚ですか。
 ビデオなんかに撮っておいて後から見せたら自覚するのかな。

「それで、セイヨウは恋とかするの初めてなの?」

「いや別に。今までもそれなりに付き合ったりしてたけどこっちから好きになったのは初めてかもしれない」

 仮にも下流貴族。そこそこモテるんだねぇ。
 むしろあんなにういういしい行動を取られると少し疑ってしまうのだが……。

「シュンは好きな人とかいるの?」

 あれ、これ何気に反撃されてない?好きな人。
 いるとそんなに簡単に言ってしまって良いのか分からない。
 好きの定義とは?ライクオアラブ?

「い、いるんじゃないかな」

 セイヨウは「ふーん」とつまらなさそうな顔で言う。
 なぬ、お主いま僕のことを下に見たか?

「こちとら真剣に悩み中なんだよー!」

「冗談半分で聞いてすみませんでしたー!」

 とやりとりをして、馬鹿らしくなって笑う。
 これが友達なのか、とシュンは嬉しくなったのであった。
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