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48話 上流貴族の婚約

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 トリオスの口から婚約なんていう言葉を聞くことになるなんて……。
 想定外だった。確かに、トリオスは女性に人気があったし地位もこの国トップクラスですけれども。だからこそ慎重になるのかなと、思っていたがそうでもないらしい。
 この国の婚約の制度は特殊で、婚約をする場合には子ではなく親を介して行うことが多い。つまるところ、本人たち同士では決められないわけだ。

 この場合、トリオスはいきなり親が承認した人と婚約するわけになるのだから経験とかそんなんじゃ対応できないと思いますけど……。

「それで、婚約相手は誰なんですか?貴族のどこかの家ですか?」

「王室の姫君だ」

 ふーん、そっか……、そうなのか!?
 いやいやいや、この国のお姫様!?
 そんなさらっと言えることじゃないと思いますけど!っていうか仮に弟だったとして一般人がそれを聞いてよろしいのですか?

 もはや驚きすぎて声も出なかった。いやまあ、大声でこんな事口走った瞬間に大騒ぎになりそうだけどさ。

「俺も驚いたよ。結婚まではあと三年間あるとはいえ、嬉しいっていうよりも驚きの感情のほうが勝ってる」

 そりゃそうだ。というか、相手がお姫様だったら親も喜んで承認するでしょうよ。
 ただでさえごちゃごちゃにかき混ぜられた思考の中にさらに情報をぶっこまれて整理は追いついていなかった。

「それでさ、皆忘れてるような気がするけど、僕がお姫様と結婚したとして、生まれてくるのは王家の子なんだ」

 とりあえずこの話がいちばん重要そうな顔をしている。脳内にあった思考をすべてどけて、この話のことだけを考えれるようにした。

「つまり、シュンが上流貴族になると、分家じゃなくて本家になる」

 この世界は何度僕を上流貴族にさせたがるのだろうか。他の人に言われるのだったら断れるかもしれない。でも、よりにもよって今回この話を持ってきたのは兄である。

「でも俺はシュンの気持ちを尊重したい。俺が解決すべき問題にシュンを絡ませちゃいけない」

 だからさ、とさらにトリオスは続ける。

「シュン、頼らせてくれないか?」

 家から僕が出ていって、兄が言ってくれた言葉は「頼ってくれ」だった。けれど、兄だって人に頼りたいときもある。僕が兄にちゃんと頼っていかないと兄からも頼られない。
 でも、それはきっとこっちも同じなんだ。兄から頼られないと、僕も兄に頼れない。

「兄さんのほうがよっぽど成長してるんじゃないかな」

 トリオスはキョトン、とこっちを見たが、すぐに笑顔になる。
「自慢の弟に負けないようにな」



 学園祭の二日目は二人で「元気でね」と言って別々の方向へ歩きだして終わった。
 色々衝撃的な展開があったものの、兄とのわだかまりのようなものが溶けたような気がする。

 僕も兄に負けていられない。いつかきっと、自分で良かったと思える道を歩かなければ。
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