上流貴族の地位を継げないようなので大人しく一般人になります

３８話 学園祭と誤解と

　学園祭の準備は着々と進んでいた。
　セイヨウを中心にしたクラスはしっかりまとまっていて、指揮という役職は細々とした作業をする裏方となってしまった。
　とはいえ、準備はしっかり進んでいる。
　古本はかなりの数が集まっていて、名前順に並べ替えるなりジャンルごとに分けたほうが良さそうである。
　自ら書いた本の提出はまだされていないが、この学校の生徒は今は学園祭の準備に追われているのだ。
　流暢に物語を書いている暇は殆ど無いだろう。
　あとは、生徒会長に頼んでチラシを貼っても良いと許可をとった。数は少ないながらも、着実に注目を増やしていっていることだけは確かだった。
　今は面白いことをやろうとしてるな、ということが伝われば十分である。クラスでも学園祭がいいイベントになるようにと頑張っているのだから。

　しかし、調子が良くても予想通りには行かない。

　偶然にも僕が朝早く来た時にそれは起きてしまっていた。
　チラシが、ない。
　ユナが書いたチラシが剥がされてしまっている。言語学科の廊下に貼ってあるものと手持ちはあるため貼りなおすことは出来るが、何者かが意図的に剥がしたのだろうということは明らかだった。
　しかし、学校中のチラシをどうやって元に戻そうか。正確に貼った場所を覚えていないため、この学科にはどれだけ貼ったかという記憶だけを頼りに貼り直していく。自分一人の力だけではどうにもできず、大勢の生徒が通る時は流されてしまったため結局半分ほどしか貼り直せなかった。

　残りの半分は別の所にでも貼ろうかと校内を歩き回っていると、掲示板の前に誰かがいた。

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

　一人の少女が泣きながらチラシを剥がしている。意味がわからなかった。

「何をしているの？」

　少女に言ってみると手に持っていた紙が何枚も落ちた。

　学園祭の僕のクラスのチラシだった。
　だが、それよりも驚いたことはその少女が誰なのかというところである。
　僕の目の前に立っている少女は僕の間違いでなければ、生徒会長の妹であった。
　何かの間違いでただ似た顔の少女だった、という事なら良いのに……。と思いつつも、その顔立ちはどう考えても別人には見えなかった。

「は、え……！？」

　彼女は声にもならない声を上げて膝から崩れていった。
　何があったのだろうか。どうやって声をかけたら良いのだろうか。どうして彼女がそんな事をするのか。
　理由がわからない僕にはその解決策もわからない。
　だが、後ろから歩いてくる人の足音だけはどうにも聞き逃がせなかった。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿そこには、生徒会長がいた。