10 / 137
10話 上流貴族と司書
しおりを挟む
当然ながら、僕の方にはユナに会った記憶はない。国設アトラト学園での話は別として。
けれど、ユナはそうではないらしい。
動揺する僕を見てか、それともただの偶然なのか、ユナはふふ、と少し微笑んで話してくれた。
「私、お父さんと一緒に一回だけ貴族のパーティーに行ったことがあるの。それで、そういう雰囲気になれなくてはしっこの椅子に座ってたら、シュンくんが話しかけてくれたの」
ちなみにだが、僕が上流貴族の子として過ごしたのは二年ほどである。
それ以前の記憶は分岐していて片方は日本での自分の記憶、もう片方はこの世界でのシュンの記憶だ。
ただ、この世界でのシュンの記憶はところどころ剥がれ落ちたかのように情報がすっぽり抜けていることがある。
パーティーの記憶で少し思い当たる所を探してみるも、優雅に踊っている兄を見つめながらお水を飲んでいる記憶くらいしかない。兄は貴族になるべくして貴族になったんだな、とか考えてしまう。そうじゃなくて。
それにしても、上流貴族のパーティーに司書がお呼ばれすることってあるのだろうか?
「上流貴族にはいくつか家があって私のお父さんはノーゼス様によくお呼ばれしてたの。でも、シュンくんの家の人たちはほとんど参加してないから……」
ああ、上流貴族五位本家七代ノーゼス公か。
貴族にも色々と家柄があるのだが、とりあえずノーゼス公より前の漢字はすっ飛ばしておいて構わない。
家柄としてはノーゼス公の家と僕の家はそこまで仲のいいものではなかった。
大昔から王家の忠臣として仕えてきた僕の家と大魔法師の国への貢献が認められ上流貴族になったノーゼス公の家。直接的な関わりはほとんどないため、パーティーに呼ばれることも少なくて当然だ。
「それにしても、それからずっと覚えてたのか……」
「ホールで話しかけてきてくれた時はすごく嬉しかったの」
という彼女の言葉は文字通り嬉しさがある反面、覚えてはくれていなかったのかという悲しみも少しだけ含まれているような気がする。
思えば、あのナンパみたいな話しかけ方をして答えてくれたのも今となってはこういう理由もあったのかと考えることができる。まあ、彼女自身が優しいことに変わりはないのだろうが。
「あの時は、僕も緊張してたからああやって話せて緊張が和らいだよ。ありがとう」
「そ、それはこちらこそ……」
いきなり感謝が飛んできてユナは少し困惑しているようだったが、しっかりと感謝の気持を伝えることは大事だ。
話そうと思えばまだ話せるネタはあるのだが、これからはユナ(とユナの父親のフルヤさん)とひとつ屋根の下で暮らすことになる。ここで話題を使い切ってしまったらこれからが大変な気がする。
それに、わずかながらいい匂いがする。そろそろ夕ご飯なのだろう。
ユナに案内されるようにして、二階へと向かっていったのだった。
けれど、ユナはそうではないらしい。
動揺する僕を見てか、それともただの偶然なのか、ユナはふふ、と少し微笑んで話してくれた。
「私、お父さんと一緒に一回だけ貴族のパーティーに行ったことがあるの。それで、そういう雰囲気になれなくてはしっこの椅子に座ってたら、シュンくんが話しかけてくれたの」
ちなみにだが、僕が上流貴族の子として過ごしたのは二年ほどである。
それ以前の記憶は分岐していて片方は日本での自分の記憶、もう片方はこの世界でのシュンの記憶だ。
ただ、この世界でのシュンの記憶はところどころ剥がれ落ちたかのように情報がすっぽり抜けていることがある。
パーティーの記憶で少し思い当たる所を探してみるも、優雅に踊っている兄を見つめながらお水を飲んでいる記憶くらいしかない。兄は貴族になるべくして貴族になったんだな、とか考えてしまう。そうじゃなくて。
それにしても、上流貴族のパーティーに司書がお呼ばれすることってあるのだろうか?
「上流貴族にはいくつか家があって私のお父さんはノーゼス様によくお呼ばれしてたの。でも、シュンくんの家の人たちはほとんど参加してないから……」
ああ、上流貴族五位本家七代ノーゼス公か。
貴族にも色々と家柄があるのだが、とりあえずノーゼス公より前の漢字はすっ飛ばしておいて構わない。
家柄としてはノーゼス公の家と僕の家はそこまで仲のいいものではなかった。
大昔から王家の忠臣として仕えてきた僕の家と大魔法師の国への貢献が認められ上流貴族になったノーゼス公の家。直接的な関わりはほとんどないため、パーティーに呼ばれることも少なくて当然だ。
「それにしても、それからずっと覚えてたのか……」
「ホールで話しかけてきてくれた時はすごく嬉しかったの」
という彼女の言葉は文字通り嬉しさがある反面、覚えてはくれていなかったのかという悲しみも少しだけ含まれているような気がする。
思えば、あのナンパみたいな話しかけ方をして答えてくれたのも今となってはこういう理由もあったのかと考えることができる。まあ、彼女自身が優しいことに変わりはないのだろうが。
「あの時は、僕も緊張してたからああやって話せて緊張が和らいだよ。ありがとう」
「そ、それはこちらこそ……」
いきなり感謝が飛んできてユナは少し困惑しているようだったが、しっかりと感謝の気持を伝えることは大事だ。
話そうと思えばまだ話せるネタはあるのだが、これからはユナ(とユナの父親のフルヤさん)とひとつ屋根の下で暮らすことになる。ここで話題を使い切ってしまったらこれからが大変な気がする。
それに、わずかながらいい匂いがする。そろそろ夕ご飯なのだろう。
ユナに案内されるようにして、二階へと向かっていったのだった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
罠に嵌められたのは一体誰?
チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。
誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。
そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。
しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?
氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!
気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、
「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。
しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。
なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。
そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります!
✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる