私がしてきたこと

ユキ

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出張

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粉モノの売上はそこそこになり、スーパーやホームセンターの店頭で
実演販売の依頼が来るようになった。


当然、遠方の客先もある訳で…泊りがけの出張も出来た。
アタシは嬉しかった。

家から開放されて、1日中彼といられる。一緒に眠って、朝、一緒に目覚める。
こんな幸せなことがあっていいのだろうか、と不安にさえなる。
でも、嬉しい気持ちの方が全然大きかった。


お客さんとの会話も楽しくて、こんな仕事なら…と喜びも大きかった。
一生懸命仕事をした後の食事も美味しかったし、疲れていても、彼の腕に
抱かれることは幸せでしか、ない。


でも不安は伴う。
病気がどんどん悪化する一方で、長時間の立ち仕事や運転は、どうしても無理だった。
その分、アタシに負担がかかる。

アタシだって若くはない。でも彼よりは若いから、彼よりも頑張らないといけない。
彼よりも負担がかかるようになってくると、少しずつ不満や不平を口に出してしまう。
でも、彼だって好きで病気になった訳じゃない。


「少しくらい休ませてくれたっていいじゃない!」

「さっき休んできたばかりだろう」

「ずっと運転して、立ちっぱなしで疲れたの。少しくらい多めに休ませてくれたっていいじゃない」


自分勝手だ。
自分で遠方の実演販売を受けておきながら、彼にヤツ当たりをする。
サイテーだ。

一緒にいるだけで幸せなのに、一緒の時間が増えるようになると不満が出てくる。
なんて自分勝手なのだろう。
サラ金に手を出してまで、お金を入れて会社を継続させているのに
彼はちっともアタシに【ありがとう】を言わない。

そもそも、その考え自体が間違いだったのかも知れない。
感謝してもらおうって思ってお金を入れている、それが知らず知らずのうちに
彼に伝わっていたんだと思う。


借金取りからの電話、お金がない毎日。
苦行でしかない。
悪循環だ…。


でも、彼を愛してるというキモチに変化はない。
彼がいなければ、何も出来ないアタシ。
愛だと思っていたけれど、愛から依存へと変化をしていったんだな…。
それに気がつくこともなく、日々逃げ回る毎日を過ごすアタシたち。

そんな逃げ回る生活をしているから、いろんな人に付け込まれるようになる。
新しい仕事を請け負い、人を紹介された。
山下さんは、アタシたちと一緒に仕事をすることになった。
粉モノを売る仕事と、エコな商品を売る仕事。
山下さんの営業にも彼は同行し、体を酷使し続けた。


そして、彼は倒れた。
糖尿病昏睡になり、救急車で運ばれることになる。
肺炎を併発し、2週間の入院を言い渡された。


「ごめん、迷惑かけて」

「大丈夫ですよ。何とかなりますよ」

「・・・・・・」

「神様が少し休めって言ってるんです。体をしっかり休めて、また頑張りましょうよ」

彼は何も言わなかった。そして入院中は、ただひたすら眠り続けた。
看護婦さんも先生もヒクぐらい眠り続けた。
あまりにも寝る状態が続くから、病院内の散歩を言いつけられた。


彼は散歩の最中、アタシを呼びつけて、彼の欲求をクチに吐き出す行為を要求した。
アタシはバカだから、呼ばれることが嬉しくて素直に従う。


そんな中、ヨシアキさんの不正が表にでた。
当然、彼はヨシアキさんを切った。そして山下さんが入った。
何がなんだかわからない状態になりつつ、苦しい日々は続き何に頼ったらいいのか
どうしたらこの苦しい状況が改善されるのか、全く見えなかった。


先が見えない不安が、判断を狂わせる。
粉モノの実演販売だけが、アタシを奮い立たせる。それだけが、毎日の苦しさを
忘れさせてくれた。出張に出るお金はない、でも行かなければ売れない。
お金がなければ行けないというアタシ。
とりあえず行かなければお金にならないという彼。

どちらの言い分も正しい。
でも、どうやったらいいのか見えずにいたアタシは、当然無気力が襲ってくる。
出張に出たい。でも出れない。


それでもなんとかお金を作り、現実を忘れるために出張に出かけた。
店頭に立っている時だけが、全てを忘れさせてくれた。
アタシの無気力は徐々に酷くなっていた…。


彼に抱かれる時だけ、何もかも忘れることが出来た。
アタシは無気力だけでなく、アタシの中にも病気が着々と進行していた。
自分が生きているということを自覚するために、リストカットもするようになっていた。
痛みを感じている間は大丈夫。痛みを感じなくなったら、終わりにしよう。
そう思った。

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