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5.他人の性癖を馬鹿にしちゃいけない。いつか自分に返ってくるから。
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シュキン
「はぁっ?」
シュキィィィン
「じぃっ?」
シュッキィィィン
「まぁっ?」
シュッキィィィイイイイン
「りぃっ?」
高田馬場からの帰り道でサラっと四人、薙ぎ倒した。
「社長ぉぉぉぉおおおおおお!!!手当たり次第過ぎますってぇぇぇぇえええええええ!!!私の掃除が追いつきまぁっせぇぇぇぇええええええええんん!!!!!」
ヒナが清掃用具を戻し、合流してきた。
「しょうがねえだろおい。俺ちゃあんだってえ落ち着きてえよ?でもなあ?こいつがなあ、俺に囁いてくんだよお、『僕と契約して皆んなぶち殺しちゃいなYO☆』ってなあ。だからどうしようもおねえんだあよい。」
「それでも自重してほしいけどね。このバット手に入れちゃってからバーサーカーぶりに拍車かかっちゃって。結局業者の料金そこそこかかっちゃってるから、数をこなしても利益率が下がってコスパタイパ悪くなっちゃってるよ。」
「っっったくう、いっまどおきの若モンはあ、すうーぐタイパやら利益やらポリコレやらLGBTQやらの横文字でおっ騒ぎたてやがるう。いいかあ?生きるのに大事なのはあ、こーこ♡心なのよう。てんめえの心に従って生きるのがあ、一番幸せになある道なのせえい。」
「はぁ、皆んな自分の勝手気ままに生きれたら苦労しないよ。そーいうのはできる人しか言えないの。」
「ホントですよぉぉぉぉぉぉ!私みたいなのは社長みたいな巨人の肩の下でコソコソ生きるしかないんですぅぅぅぅぅぅ!でもそれでもいいですぅぅぅぅぅぅお金さえ貰えればぁぁぁぁぁぁぁ。」
「なああああに言ってんだかあ。試し打ちいいいもおおおもおおおう飽きたしい、けえええるぜえええええ」
「そうしよう、そうして。」
並んでアジトに戻ろうとした、そのとき。
ザッザッザッ
「んん?何か向こうから何か来ません?」
「本当だ。誰だろ。」
道の向こうに見える白い軍服の男たち。
綺麗に横一列で正面からやってくる。
ザッザッザッ
「うっわぁ、皆んな手と足が揃ってますよ。軍隊アリみたいで気持ち悪いですねぇ。」
「…ああ、気持ちわりいことこの上ねえなあ。」
「え、待って待って、ちょっと待ってぇ!!!ねぇ、これ、治安じゃない?しかもさぁ、勇壮じゃない?!ねぇこれマズいってぇ!!!逃げようよぉ!!!」
「勇壮?!あの勇壮ですかぁ?!マズいですよ社長ぉ!!!あの勇壮ですってよぉ!!!それで勇壮って、何でしたっけ?!」
「もぉぉぉぉ!!!Tokyo、」
「小生が説明いたしましょお!Tokyo Peace Security Force Assault Courageous Kickers!治安で一番強い方々ですなぁ!彼らが市内パトロールに出ることなんて滅多にありません、ラッキーですぞぉ!ややっ、ややややぁっ?!しかもしかもしかも?!先頭にはおられますのはひょっとすると、あの東宮寺隊長ではございませぬかぁ???!!!うっっっひょぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!こいつはウルトラアンビシャスラッキィーーーですぅ!!!式典以外で見かけることはほぼありませぬからなぁ!!!こんなとこでお目にかかれた幸運に、感謝感激雨あられぇ!!!!」
「あぁ思い出したぁ!ファックの人たちだぁ!解説ありがとぉございますぅ!で、あなた誰ですかぁ?!」
「名乗るほどではございませんが、小生は海洩綿太郎と申します!治安、特に勇壮に好意があり、追っかけ出待ちをするほどのファンでございまする!以後お見知りおきを!」
「なるほど!見ず知らずの人の名前を憶えてあげるほど私はお人好しではありませんから!帰ってくださぁい!!!」
「ひょー!こいつは手厳しい!」
「サカぁ!!!横のボケどもほっといて、早く逃げようよぉぉぉぉ!!!!!」
サカは勇壮を真っ直ぐ見つめ返す。
「いんやあ、逃げなくていいぜえい。」
「そうだよ逃げようよ…えぇぇぇ???逃げなくていいって、言った?言った?今?」
「んあああそのとおーりい、ここにいりゃあいい。堂々としてやがれい。」
「ええええぇぇぇぇ???!!!ウッソでしょぉぉぉぉおおおおおお???!!!」
ザッザッザッ
数は七人、中央の男は背に、それ以外は腰に武器を携帯している。
中央の男が、一際鋭い眼光でこちらを睨む。
サカは道の真ん中で仁王立ち。少しも動じる気が無い。
「あぁ、あぁ、ああああああああ!!!!もおおおおおおおお!!!その辺に隠れてるからねぇ!!!後はサカが何とかして!!!ヒナさん、隠れるよ!!!ほら、さっさとしやがれぇぇぇえええええ!!!!」
「はいはああああああい!!!!隠れまああああああす!!!」
「小生もぉぉぉぉ!!!!想像以上の迫力でぇ、ちょっとちびってしまいましたぞぉぉぉぉぉ!!!!」
「きゃぁぁぁああああああ!!!!近寄らないでぇぇぇぇええええええ!!!!!」
ザッ
サカ、勇壮と相対す。
ザシュ、ザシュ
中央の男が前に出る。
「うぅ、真ん中の人、目が怖いですぅ。社長とは違う怖さ、お堅い人の怖さがプンプンしますぅ。」
「あれが弱冠二十代にして勇壮の隊長を務める、東宮寺慧弥隊長ですぞぉ。高身長黒髪塩顔イケメン、小顔で脚が長いスタイルの良さ、そしてクールさから、女性人気も高いのです。もっちろん実力ももんのすごい!背負ってらっしゃるあの刀!あれはメカニカルソードと申しまして、勇壮隊長だけに許される特注武器!えーと、名前が、えーと…あ、そう!『戦巧高周波義装刀二〇八号・神肌』!妙に男心をくすぐる見た目と名前ですなぁ!これ一薙ぎで、敵はすべからく一刀両断!まさに敵無し!らしいです!直接見たことなんてないので噂でしかないですが!はぁぁぁ、まさに雲の上のお方でありますぅ。眼福眼福ぅ。」
「一刀両断ですってぇ。社長とおんなじですねぇ。」
「サカ…大丈夫なの…?」
ヒュゥゥゥゥウウウウウウ
風が鳴いている。
「久しいな。」
東宮寺が口を開く。
にぃぃぃいいいっ
「おうおうおーーーう、ケイちゅわぁぁぁああああん。しばらく見ねえうちにいだあああーーーいぶ大きくなったあじゃあねえのお。ケツの穴ファックし隊のテッペン張るようになっちゃってえ。さぞ気分がいいだろおなあ。」
はっ
「お前こそ随分好き放題やってるじゃないか。ゲームを隠された小学生みたいに壊して殺して。相も変わらず思考回路が幼稚だな。むしろ退化したんじゃないか?赤ん坊から人生、やり直した方がいいんじゃないか?」
「だから前から言ってるだろお。俺に世間一般常識を当てはめるんじゃねえってなあ。俺の思考も言葉も行動もぜんぶう、ただの人間じゃあ理解も及にゃあいところまできちゃってるのよーう。苦しいなあ?人間のままでいるしかねえーやつはよお?」
「そのまま人間辞めて獣に成り下がってくれれば、あっさり殺処分できたものを。ひどく口惜しい。いっそのこと全裸で四つん這いになって糞尿垂れ流しながら皇居を散歩でもしてくれたらありがたいんだがな。」
「口がお悪いことお。そんんんな口きいちゃっちゃってえええるとおおお、まあああた柔術の演習のときみてえええにぃ、泣っかしてえやろおおおおかああああああ???!!!んんんなぁっっっつぅぅぅかぁぁああああしぃぃぃいいいいいなぁぁぁあああああああ????!!!」
「そうだな、また剣術の演習のときみたいにお前をコロコロ転がして、『ふぇぇぇ、東宮司さぁぁぁん、許してくださぁぁぁい』って泣きべそを拝んでやりたいものだ。」
きっしっしっ
はっはっはっ
「全く、お前のご両親もどこで育て方を間違えたんだろうな。今のお前を見たら泣いて失神するだろうよ。」
「いやはや全くその通りい。きっとお墓の下でシク四苦八苦ぅ、骨壺濡らしてるだろおおおおなあああああ?!」
「何でサカが勇壮の隊長とレスバしてるんだ…?」
「何でしょおなぁ。話から察するに、古い知り合いのようですがぁ。」
「うーん、じゃあ聞いてみますかぁ。よいしょ。」
「は?」
「ほ?」
「しゃっっっちょぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!その人っとをぉぉぉぉおおおおおお、おっっっっ知り合いぃ、なぁぁああああんんんですかぁぁぁあああああああああ????!!!!!」
「隠れた意味ぃぃぃいいいいいいいいい????!!!!!」
「おおーん?気になるう?なっちゃうかあ。そうさあなあ、」
ピッピッ
自分と東宮寺を指差し、
「同期♡」
「”元”、な。」
「へー、そうなんですねぇ。」
「いや驚かないの?結構大事なポイントだと思うけど?サカ、治安だったの?」
「いやぁぁぁあああああああ!!!小生は驚きますぞぉぉぉおおおおお!!!!まっさかあの方が東宮寺隊長と同期だったとはぁぁぁああああああ!!!くぅぅぅうううう、痛恨の極みぃぃぃいいいい!!!!やはり過去の事情も知り尽くしてこそ、真のフアンと言えるのですなぁぁぁぁあああああ!!!!」
「え、じゃあじゃあそれじゃあ、なぁぁあああんでファックやめちゃってぇ、こぉおおおんなバッカみたいなことぉぉおおおお、やっっっってぇぇええええるぅぅぅうううううんんでぇぇぇえええすかぁぁああああああ???!!!」
「なあんでだっけえなあ。方向セーの違いってやつだったあーかあ?」
「お前の気が狂っただけだろうが。」
ヒュゥゥゥゥウウウウウウ
「…なぁ、もういーいいい、だろお。」
スッ
バットの先を東宮寺に向ける。
ババババババッ
六人、戦闘態勢。
「わわわっ、急に勢いづきましたよぉ、後ろの人たちぃ。」
「ほらこうなるんだもぉぉぉぉおおおおおんん!!!!なのにこっちの居場所ばらしちゃってぇさぁぁぁああああああ!!!!ヒナ馬鹿ぁぁぁああああああんん!!!!」
「しょぇぇええええええ!!!!しょ、小生は関係無いですぞぉぉぉおおおおおお???!!!!」
「いい、やめろ。」
ススススススッ
東宮寺の一言で全員、警戒を解く。
「おぉ、隊長っぽぉい。」
「すんばらしいぃぃいいい!隊長のご威光、しかと網膜に焼き付けましたぞぉぉぉ!!!」
サカが続ける。
「なああああんの用でえ、来ったんだあああああ???殺しに来たにしちゃああああ、ああああーーーああああ、なんっっっの殺意もねえええ。まっっっかああああさああああ、昔話いをしにいきたあわけじゃあああ、ねえええだろうなあああああ???!!!」
「…」
「もっしもよお?もっっっし、ほんっっっとに、そんっっっなあくっっっだらねえええ理由できたんだったらああああああ???」
ザッシュ、ザッシュ
一歩二歩、近づく。
「お前に失望する。それから、この場で俺が殺してやるよ。」
赤い瞳と、青い瞳が交錯する。
「…半分、昔話だ。」
「あああん?!」
「もう半分は、警告だ。お前も分かっているだろう。お前は正義のヒーロー気取りなのかもしれんが、やり方がとても目に余る。人も建物も滅茶苦茶。決定打になる痕跡はなんとか消してるようだが、もはやそんな小細工も関係無い。上がお前に目を付け始めた。令状が出るのも時間の問題だろう。勿論、」
スッ
東宮寺の瞳の青が深くなる。
ズゥゥゥウウウウウウ
冷たい空気が辺りを満たす。
ヒナと海洩の背筋が凍る。
「生死は問わず、だ。」
きひっ、きひひひひ
「やればあできんじゃあねえのお。令状なんてかったくるせえんのぬっきでよお、最初からそれえでかかってこりゃあいいのによおおお。」
「俺はこっち側の人間だ。外道に堕ちたくないんでな。」
くるっ
ザシュ、ザシュ
東宮寺が踵を返す。
「けえんのかあ?」
「今日はもういい。だが、次会ったときは…」
「おお、どっちかが死ぬな。」
「ああ、それでいい。」
「戻るぞ。」
ザッザッザッ
行きと同じく帰りも綺麗に並んで、勇壮が去って行く。
ヒナとソートがサカに駆け寄る。
「はぁぁぁーーーー。まっっったく、生きた心地が微塵もしなかったよ。」
「おかしな人たちでしたねぇ。真ん中の人、東宮寺さんでしたっけ?以外、だぁれも喋らなかったし。それに真っ白なお洋服。食べるとき気使いそうですねぇ。」
「それにい土埃や汗染みも目立つぜえ。ほら見ろお一番左端のやつう。襟が灰色に見えるだらあ?汗染みが取れずに黒ずんでんだあよ、みっともねえ。」
(え?マジで?)
一番左端のやつがしきりに襟を気にしだす。
(馬鹿、やめろ。)
隣のやつが頭をはたく。
(ごめんて。でも、気になるなぁ。)
(帰ったら後できちんと洗ってやるから。今はやめろ。)
(えっ…♡お、おう。)
勇壮の姿が見えなくなった。
「それにしても社長のお友達が勇壮の隊長さんだったなんてぇ、なぁんで教えてくれなかったんですかぁ?」
「ホントホント。僕も知らない過去がいっぱいなんだね。」
「べっっっつにい。あえてえ言うことでもおなかろうよお。」
「でも、仲良さそうで、仲良さそうでもなかったというかぁ。なんかピリピリしてませんでした?雰囲気。」
「殺す殺すって言ってたけど、え、まさか勇壮と戦うことになったりする?まさかだよね?」
「おおおーーーんおお、つうぎ会ったらあ、まあ、そうなるだろおおおなあああ。」
「はっっっっぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーああああああああーーーーーーーああああああああああああーーーーーー」
ドローンから過去一の溜息が。
「おうおう、ながあい溜息だこと。幸せダダ漏れ液漏れで不幸になってえ、死が向こうの方からやってえきちまうずえ?」
「…いつかこうなるとは思ってたんだよね。思ってたんだけど…」
「へえええぇぇぇ?社長、あの人たちとも戦うんですかぁ?悪い人ではなさそうでしたけどねぇ。え、勝てるんですかぁ?」
サカはほんの少し遠い目をした後、
「ううーーーんん、そおーさあなあ、勝てないことは無いしい、負けることも、考えたかねえがあ、現実ってやったあをしっっっかり見るとお、ありえちゃあうにゃあああ。ケイやん一人だけならあ、まあ六割方勝てる、自信があらあな。でもお、あんの取り巻き連中が邪魔だあああよお。あれぜええええんぶお掃除してからあだとおおお…三割があああだとおおおかもなああああ。」
三割。サカで、三割。
「…そんなの聞きたくなかったよ。負けるかも、だなんて。」
「はああああああんん???脳死で勝てる勝てるとだけおもーてえる方があ阿呆ちゃあんだあろおがあい。クレバーなやっちゃあ、きっちいんと現実みてえ、どうやったらあ勝てるかあを地に足つけてえ考えええるのおよお。」
「そうなんですねぇ。でもあの人たち、警察みたいな立ち位置なんですよね?勝てたところで、結局大犯罪者じゃないですかぁ?そんなになってまで戦う意味ぃ、あるんですかぁ?」
「そりゃあ、ねえかもしれねえわな。」
「だったら…!」
「でえええええもおおおよお、」
サカが振り返る。日の光と笑顔が眩しい。
「売られた喧嘩はあ、ぜえんぶぜええええんぶ買い取ってえ転売するまあでえがあ、この俺ちゃあんなあのおよお。だからよお、そんときにゃあなあ、お前らもお、頼りにしてるぜえええ?」
「えええぇぇぇぇぇええええ???!!!社長ぉが頼りにしてるぅ、なんて初めて聞きましたよぉぉぉぉおおおおおお????!!!!めっっっっっずらしいいいぃぃぃいいいいいい!!!!!明日はモンスーンですかね?」
「頼りに、ねぇ。ほんっっっとに都合がいいんだから。」
「社長ぉ、負けて捕まっちゃうギリギリまで給料はくださいねぇ。それで負けそうになったら全力で逃げますからぁ。」
「同じくね。」
「へいへいへえーーーーい。勝手にするがあいいさあ。」
四人、新たな決意を胸に帰路につく。
「んでえ?おめえはあいっつまでえ、ついてくるあああつんもりでえええああああああ???」
「んはっ?!小生でございまするか?!いやそれはもう、東宮寺隊長の過去を根掘り葉掘り聞かせていただこうかと!旧知の仲の方がいらっしゃるとは、知りませんでしたからなぁ?!」
「サカが怖くない人だと思ってるの?鬱陶しいよ。消えて。」
「そうですぅ。部外者は大人しく退いた方が身のためですぅ。」
「まあーーーまあーーーまあーーー、落ち着けえええってえ、おんめえらあ。せっっっかくなんだあ、いいこと一個お教えてやらああああなあ。それから消えろお、なあ?」
「はい、はい!一個で構いませぬ!」
「じゃあああ言うぞおおおお、ケイやんなああああ、実はなあああああ?」
「実は?」
「実は?」
「実は?」
「めっっっちゃあロリコン。携帯の待ち受け画面とかあ妹キャラの萌え絵だあしい、宿舎のベッドの下にも同人誌があもおおおどっっっさりだったあああのよおおお。」
「なっ、なるほどぉ?ロリコンで、ございましたか?」
「何だかイメージ崩れですねぇ。犯罪者予備軍でしたとは。」
「まぁ軍人なんてストレスまみれだろうし、それくらいいいんじゃない?」
「いっ、いやっ、なるほどなるほど!あのクールな鉄仮面の下に、そんな情熱があったとはぁ!!!この海洩、感銘の極みぃぃぃ!!!こうしてはいられませぬ、早速ネット記事にして同志らに伝えねばぁ!!!では、失礼いたしますぅ!!!」
バビュン
厄介ファンは消え去った。
「そういう暴露記事って、余計にファンから叩かれません?」
「あーいうマスコミ気取りの一般人が下手な記事を書くもんだからマスゴミなんて呼ばれるんだよ。」
「ほっとけい、どーせ本当なんだしよお。」
くちっ
東宮寺が鼻をすする。
「んん、また誰かが俺の噂でもしてるのか。」
手にする携帯の待ち受けには半裸の二次元幼女の絵に、
『変態撲滅革命家☆ロリロリアマガミ橙華ちゃんは今日もゼッタイ☆負けないんだからね!』
の文字があった。
一方そのころ。
東京、荻窪。
とある豪邸、その一室で。
「んんん~~~♪んんん~~~♪んんん~~~んっふっふっひぃ~~~やぁ~~~~~~♪」
毒々しく色が塗られたキャンバスの前で筆を持つ女性。
長身で七色の髪を持ち、かなーり薄着。全裸にワンピース巻いたくらい。
キャンバスには何が描いてあり何を意味するのか、素人には見当もつかない。
「んんん~~~…んんん?!あっらぁ、赤色が足りないわぁ。純粋な赤がぁ~~~♪足りないっわぁ~~~♪」
キャンバスから離れ、パレットと針を手に取る。
「やっぱりぃ、色っていうのは、人体の神秘から生み出されるのが至高よねぇ?そう、思うでしょおおおおおお????!!!!」
目の前には、全裸で手足を拘束された人々が。目も隠され口も塞がれている。老若男女様々。床には血の跡がちらほらと。
「そうねぇ、とりあえずぅ、採れるだけありったけぇ、採っていきましょうかぁ。」
キラァン
ナイフを取り出して、
シュパッ
「っ?!」
少女の腕を切り裂く。
ツゥー
切れ目からふつ、ふつと血が流れてくる。
「んっんっんんん~~~♪これよこれぇ~~~♪生の搾りたてほど情熱滴るものはないのよねぇ~~~♪」
金属の針で傷口から血を掻き出し、パレットに溜めてうっとり眺める。
「~~~!」
少女は悶え苦しむが、彼女は全く気にしない。
「もっと必要だけどぉ、鮮度が大事だからぁ、急ぐわよぉ~~~???」
もう一度ナイフを構え、
「きぃぃぃいいいいいいいいいいいいいええええええええええああああああ!!!!!!」
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァアアアアン
老若男女を滅多切り。額、鼻、耳、顎、首、肩、腕、胸、腹、性器、太もも、ふくらはぎ、脛、足にどんどん切り傷が刻まれていく。
「あぁっ?!」
「いぃっ?!」
「うぅっ?!」
「えぇっ?!」
「おぉっ?!」
言葉にならない悲鳴が漏れる。
「そんでもってぇ、きちんと回収しないとねぇ。」
パッパッパッと、傷口に雑に針を挿し込んで血を集める。
そんな時、
ピタッ
中年の血を集めていて手が止まる。
「…あんたぁ…」
「…?」
不安そうに顔を上げる中年。
わな、わなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわな
女性はパレットを握り締め、怒りに震える。
「あんたぁぁぁぁああああの血ぃぃぃいいいいいい!!!!!ちぃぃぃいいいいいいいいいょぉぉおおおおおおおおおおおっっっっっとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお赤黒ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!なんでぇぇぇぇなのよぉぉぉぉおおおおおおおおおおお????!!!!高血圧なのぉぉぉぉおおおおおおおおおお???!!!高血糖なのぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお???!!!人間の恥なのかぁぁぁぁああああああああああおんまぁぁぁえぇぇぇぇえええええええええはああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ガッキャァァァァアアアン
パレットで力の限り殴りつける。
「ぎゃぁっ?!」
倒れ込む中年。だが女性は止まらない。馬乗りになって殴り続ける。
ガッガッガッガッ
ドガドガドガドガドガドガドガドガ
「あんたのせいで!!!あんたのせいでぇぇぇえええええ赤が崩れたあぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!せっかく上手くいってたのにぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!ぜぇぇぇええんぶぅずぅぅぅうううううううえええええええええええええんんぶぅぅぅぅぅうううううううう無駄になったぁぁぁぁああああっっっっとぅぅぅぅうううううううううううああああああああああああああああああああああ!!!!!!あんたぁぁぁあああああああのすぅぅぅううううううううえええええええええええどぅぅぅううううううううえええええええええええええええええ!!!!!!!!んんぬぅぅぅうううううううううううあああああああああああああああんんにぃぃぃぃいいいいいいむぅぅぅううううううううううううおおおおおおおおおおお描ぁぁぁぁあああああああああああああああくぅぅぅうううううぇぇぇええええええええええええええええええええぬぅぅぅううううああああああああああああっっっくぅぅぅううううううううううううううううぬぅぅぅうううううううううううううううあああああああああああああああっっっっっっとぅぅぅぅぅうううううううううううううううあああああああああああああああああああ!!!!!!!おおおおおおおおおっっっしぃぃぃいいいいいいむぅぅぅううううううううああああああああああああいいいいいどぅぅぅううううううううううあああああああああああああああああああああああっっっはぁぁぁあああああああああっっっはぁぁぁああああああああああっっっはぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああんあんあんあんあんあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ドガァボォッチュゥゥウウン
殴られに殴られた中年は人型を留めないミンチにまですり潰され、ピンクっぽい赤に染まった塊になった。
「…ん?んん、んんんんっほぉぉぉおおおおおっっっほぉぉぉおおおおおおおお~~~~~~???」
女性が急に床に這いつくばり、さっきまで中年だった塊をガン見する。
「この色はぁぁぁ~~~?意外とぉぉぉ~~~?悪くないかもぉぉぉおおおお~~~~~~???味見しましょっかぁ。」
ちゅっ
塊に口をつけ、
じゅぞぉぉぉおおおおっ
ちょっとばかし吸引、味わう。
ごっくん
「………ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ???!!!ああああああああああああああああああああ????!!!!」
ピィィィイイイイッッッシャァァァアアアアアアアン
女性に電撃が走った。
「んんん~~~!!!!これこれぇ、これよぉぉぉぉおおおおお!!!!今私が欲しいのはぁぁぁぁああああああ!!!!見てぇぇぇぇええええんん!!!!この目が釘づけになる赤ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!若輩とぉ、粗暴とぉ、怒髪とぉ、恐怖とぉ、希望とぉ、恋心とぉ、そしてそしてぇ、人間の生命の全てぇぇぇぇえええがぁ、こんのぉあっかにぃぃぃいいいいい、ちゅまっっっっってぇぇぇえええええええるぅぅぅぅうううううううう!!!!!!ちょぉぉぉ~~~~~~~~うううぅぅぅ、エェェェッッッッッキィィィィイイイイイイイイイイイスゥゥゥゥウウウウウウアアアアアアアアアァァァァッッッッィィィイイイイイイイティィィイイイイイイィィィイイイイイイイィィィッッッッッンンンッッッッッッグゥゥゥウウウウウウウウウウアアアアアアアァァァァッッッッァァァァァアアアアアアアアアアァァァァッッッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!!!!!」
ビクンッ、ビクンッ
女性は白目を向いて泡を吹いている。
そこへ部屋の隅から腰の低いスーツの男がどこからともなく現れ、すごすごと声を掛ける。
「あ、あのぉ~~~…妖顕天貫先生ぃ…?」
妖顕天貫銛峯子。人体を素材として扱うサイケデリックな芸術家。ごくごく一部の層にウケが良く、大金を稼いでいる。
「…なぁにぃ、高橋ぃ。私のエックスタシィタイムを邪魔するんじゃあないわよぉ。ねぇ、それで続きが描けなくなったらどうするのぉ?責任、取れるのぉ?」
針を持って近づく。
「んんんねぇぇぇぇえええええええ!!!!!!せっきにぃぃぃいいいいんん、とっっっっれるぅぅぅぅううううんんのぉぉぉおおおおおおおおお????!!!!」
「ひぃぃぃいいいいっ!!!い、いや、私はただ…」
「そう言えばぁぁぁ、白も足りなくなってきたのよねぇぇぇえええええ???高橋ぃぃぃ???あぁーたぁの目を潰せばぁぁぁ、きぃぃぃっっっとぉ、綺麗ぃーなぁ白がぁ、取れるわぁよぅぬぅぅぅぇぇぇぇぇえええええええあああああああ!!!!!」
「ひぇぇぇえええええ!!!!駄目ですぅぅぅううううう!!!潰してもぉ、透明な液体しかでない気がしますぅぅぅうううううううう!!!!」
「あら、それもそうね。」
身を離す。
「はぁ、はぁ、あの方への贈り物の進捗が心配なんですよ、私は。」
「分かってるわよぉ。私だってぇ、あの人怒らせたくないものぉ。若いくせに、妙ぉにオーラがあるのよねぇ。見えるのよぉ、私。」
「そ、そうなんですか。」
「明るいようで、黒い光、そんな感じぃ。表じゃ人の良い顔しといて、裏じゃ何を抱えてるか分からない、いやぁ、とんでもないものを隠してそうなんだものぉ。怖くてしょうがないわぁ。」
「じゃ、じゃあ、とにかく、急ぎませんと。」
「分かってるってばさぁ。今日から急ぐわよーう。」
「はぁ、それと、これも言っておかないと。またあのサイトに先生が載っちゃってました。」
『驚天動地☆滅殺撃滅闇サイト』
「はいはい、またね。才能があるのも罪よね。上手くいかない人たちの欲望のはけ口になっちゃうんだもの。」
「は、はぁ、それで…」
「何なのよ。また適当に誤魔化して消しといてよ。いつも通りでしょお?」
「い、いや、それが…」
「何よぉ、はっきりしなさいよぉ…?」
スマホ画面を見る。
『妖顕天貫銛峯子』
『芸術家気取りのアラフィフババア』
『¥150,000,000』
「…」
「ほらぁ、これぇ、一億、越えちゃってるんですぅぅぅううううう!!!!今まで数百万、よくて二千万ぐらいだったのにぃぃぃいいいいい!!!!ここまできたら、身代わりと適当な業者用意して誤魔化すの無理ですよぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!何度も何度も同じ誤魔化し、もう限界なんですぅぅぅうううううう!!!!!やっぱり最近の人攫いを派手にやり過ぎたんですよおおおおおおおお!!!!!!!世間はぁ、許してくれませんよぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
「…」
「せ、先生ぇ…?」
ビキビキビキィ
こめかみの血管がはち切れんばかりに膨張し、
スッ
拳を振り上げ、
ドッカァァァアアアアアン
渾身の台パン。
「せんせっ、」
「っっっっrrrrrrrrrるるるるぅぅぅぅうううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!んんんぬぅぅぅぅううううううあああああああああにぃぃぃいいいいいいいいぐぅぅぅうううううああああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああ、あっ、アアッ、アラフィッ、フッ、じゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!あっ、たっ、しゃぁ、まっ、まっだぁ、よんっ、じゅぅぅうう、ごぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!バッバッバッバッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアじゃぁぁぁぁあああああああああぁぁぁ、ぬぅぅぅぅぇぇぇぇぇぇぇえええええええあああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいぃぃぃぃぃいいいいいいいいあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「世間はそれをアラフィフと言うんです…」
「???????!!!!!!っっっとぅぅぅっっっっくぅぅぅうううううふぅぅぅぁぁぁぁあああああっっっっっっすぃぃぃいいいいいいいいいい?????!!!!!んんんんぬぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああにぃぃぃぃいいいいいいいっっっっっっとぅぅぅぅううううぇぇぇぇえええええええんんんぬぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ???????!!!!!!おんっっっっっめぇぇぇぇぇええええええのぉぉぉぉおおおおおおおおおおお生ぃぃぃいいいいーーーいいいぃぃぃ気ぃぃぃいいいいっっっをぉぉぉおおおおおおおおおおおお、すぅぅぅぅぅうlぃぃぃいいいいいいいいいいとぉぉぉおおおおおおおおおおうううううううっっっっっっとぅぅぅううううええええええええええええええええええええぇぇぇっっっっっゆぅぅぅぅぁぁああああああっっっっっとぅぅぅぅうううううううえええええええええええむぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおあああああ、ああああああいいいいいいいぃぃぃんんんどぅぅぅぅううううううあああああああああずぅぅぅううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!!ごべんばざぁぁぁああああああああああああいいいいいい!!!!!」
ふぅー、ふぅー
妖顕天貫、クールダウン。
「あったしゃあ、永遠の美魔女ぉ、『美』の体現者ぁ、なぁのぉよぉ。」
「そうです、その通りですぅ。」
「それで、一億五千万だから何よぅ。ほっとけばいいでしょうが。」
「いや、これだけ高額になると、あの、悪魔が来てしまうかも、と…」
「悪魔ぁ?」
ピクッ
興味を示す。
「何よぉ、それぇ。」
「噂になってるんですよ。このサイトで高値がついた途端、一日も経たずして、その、殺っちゃう人がいるらしいです。それも片っ端から。有名企業の社長さんも重役も、政治家も官僚も、もう皆んなやられちゃってるんです。しかも周り中の建物壊しまくって。もしそんなのが来たら…」
「いいじゃなぁい、いるのならぜひ来てほしいわぁ。」
「せ、先生、でもぉ、」
「でもだってじゃないのぉ。高橋ぃ、芸術家にとって一番大切なのはぁ、何か分かるぅ?」
「は、はぁ?何でしょうか?」
「昇天死するほどの刺激よぉ。それを経験して乗り越えた人間だけが、きょ~~~れつな魂の顕現を経て、絶世の作品を生み出すのぉ。分かるぅ?」
「はぁ、分かる気も、します…?」
「悪魔があたしゃあの命を刈り取りにくるぅ???そんなシッチュエェェェーーーショォン、そうそう経験できるものじゃあないわぁぁぁぁあああああ!!!!これは大大大大、大大大大チュゥゥァァァアアアアンスゥゥゥウウウウよぉぉぉぉ、あったしゃあがさらに一段上に昇華するためのぉぉぉねぇぇぇ。さぁぁぁてぇ、どんなのが来る、かし、らぁぁぁぁああああ???想像しただけで、濡れてきちゃうぅぅぅ…♡」
じんわり
「せ、先生ぇ…」
高橋の何かがムクムクッとクる。
「来るなら来てみなさいよぉ。あたしゃはウルトラプゥゥゥァァァーーーフゥゥゥェェェエクトォな芸術家ぁ、護身の心得だってあるのよぉ。あと一日でぇ、この家をトラップハウスに作り替えて見せるわぁ。」
「先生ぇ、ホントに大丈夫ですかぁ?大人しく身を隠してた方が…」
「んなぁぁぁああああに言ってんのぉぉぉぉおおおお。こぉぉぉおおおんなに昂ってるのはひっっっさしぶりぃだわぁ。そぉ、あの人に初めて作品を褒められたときくらいねぇ。」
がしっ
ひょいっ
妖顕天貫が高橋を抱える。
「今夜は長くなるわよぉ、覚悟しなさぁい。」
「そんな、先生ぇ…♡」
男女が二人、密室へと消えていく。
灯りもまばらな東京の夜、それぞれがそれぞれの思惑を持って時を過ごす。
神は誰に微笑み、悪魔は誰に宿るのか。
次回へ続く。
「はぁっ?」
シュキィィィン
「じぃっ?」
シュッキィィィン
「まぁっ?」
シュッキィィィイイイイン
「りぃっ?」
高田馬場からの帰り道でサラっと四人、薙ぎ倒した。
「社長ぉぉぉぉおおおおおお!!!手当たり次第過ぎますってぇぇぇぇえええええええ!!!私の掃除が追いつきまぁっせぇぇぇぇええええええええんん!!!!!」
ヒナが清掃用具を戻し、合流してきた。
「しょうがねえだろおい。俺ちゃあんだってえ落ち着きてえよ?でもなあ?こいつがなあ、俺に囁いてくんだよお、『僕と契約して皆んなぶち殺しちゃいなYO☆』ってなあ。だからどうしようもおねえんだあよい。」
「それでも自重してほしいけどね。このバット手に入れちゃってからバーサーカーぶりに拍車かかっちゃって。結局業者の料金そこそこかかっちゃってるから、数をこなしても利益率が下がってコスパタイパ悪くなっちゃってるよ。」
「っっったくう、いっまどおきの若モンはあ、すうーぐタイパやら利益やらポリコレやらLGBTQやらの横文字でおっ騒ぎたてやがるう。いいかあ?生きるのに大事なのはあ、こーこ♡心なのよう。てんめえの心に従って生きるのがあ、一番幸せになある道なのせえい。」
「はぁ、皆んな自分の勝手気ままに生きれたら苦労しないよ。そーいうのはできる人しか言えないの。」
「ホントですよぉぉぉぉぉぉ!私みたいなのは社長みたいな巨人の肩の下でコソコソ生きるしかないんですぅぅぅぅぅぅ!でもそれでもいいですぅぅぅぅぅぅお金さえ貰えればぁぁぁぁぁぁぁ。」
「なああああに言ってんだかあ。試し打ちいいいもおおおもおおおう飽きたしい、けえええるぜえええええ」
「そうしよう、そうして。」
並んでアジトに戻ろうとした、そのとき。
ザッザッザッ
「んん?何か向こうから何か来ません?」
「本当だ。誰だろ。」
道の向こうに見える白い軍服の男たち。
綺麗に横一列で正面からやってくる。
ザッザッザッ
「うっわぁ、皆んな手と足が揃ってますよ。軍隊アリみたいで気持ち悪いですねぇ。」
「…ああ、気持ちわりいことこの上ねえなあ。」
「え、待って待って、ちょっと待ってぇ!!!ねぇ、これ、治安じゃない?しかもさぁ、勇壮じゃない?!ねぇこれマズいってぇ!!!逃げようよぉ!!!」
「勇壮?!あの勇壮ですかぁ?!マズいですよ社長ぉ!!!あの勇壮ですってよぉ!!!それで勇壮って、何でしたっけ?!」
「もぉぉぉぉ!!!Tokyo、」
「小生が説明いたしましょお!Tokyo Peace Security Force Assault Courageous Kickers!治安で一番強い方々ですなぁ!彼らが市内パトロールに出ることなんて滅多にありません、ラッキーですぞぉ!ややっ、ややややぁっ?!しかもしかもしかも?!先頭にはおられますのはひょっとすると、あの東宮寺隊長ではございませぬかぁ???!!!うっっっひょぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!こいつはウルトラアンビシャスラッキィーーーですぅ!!!式典以外で見かけることはほぼありませぬからなぁ!!!こんなとこでお目にかかれた幸運に、感謝感激雨あられぇ!!!!」
「あぁ思い出したぁ!ファックの人たちだぁ!解説ありがとぉございますぅ!で、あなた誰ですかぁ?!」
「名乗るほどではございませんが、小生は海洩綿太郎と申します!治安、特に勇壮に好意があり、追っかけ出待ちをするほどのファンでございまする!以後お見知りおきを!」
「なるほど!見ず知らずの人の名前を憶えてあげるほど私はお人好しではありませんから!帰ってくださぁい!!!」
「ひょー!こいつは手厳しい!」
「サカぁ!!!横のボケどもほっといて、早く逃げようよぉぉぉぉ!!!!!」
サカは勇壮を真っ直ぐ見つめ返す。
「いんやあ、逃げなくていいぜえい。」
「そうだよ逃げようよ…えぇぇぇ???逃げなくていいって、言った?言った?今?」
「んあああそのとおーりい、ここにいりゃあいい。堂々としてやがれい。」
「ええええぇぇぇぇ???!!!ウッソでしょぉぉぉぉおおおおおお???!!!」
ザッザッザッ
数は七人、中央の男は背に、それ以外は腰に武器を携帯している。
中央の男が、一際鋭い眼光でこちらを睨む。
サカは道の真ん中で仁王立ち。少しも動じる気が無い。
「あぁ、あぁ、ああああああああ!!!!もおおおおおおおお!!!その辺に隠れてるからねぇ!!!後はサカが何とかして!!!ヒナさん、隠れるよ!!!ほら、さっさとしやがれぇぇぇえええええ!!!!」
「はいはああああああい!!!!隠れまああああああす!!!」
「小生もぉぉぉぉ!!!!想像以上の迫力でぇ、ちょっとちびってしまいましたぞぉぉぉぉぉ!!!!」
「きゃぁぁぁああああああ!!!!近寄らないでぇぇぇぇええええええ!!!!!」
ザッ
サカ、勇壮と相対す。
ザシュ、ザシュ
中央の男が前に出る。
「うぅ、真ん中の人、目が怖いですぅ。社長とは違う怖さ、お堅い人の怖さがプンプンしますぅ。」
「あれが弱冠二十代にして勇壮の隊長を務める、東宮寺慧弥隊長ですぞぉ。高身長黒髪塩顔イケメン、小顔で脚が長いスタイルの良さ、そしてクールさから、女性人気も高いのです。もっちろん実力ももんのすごい!背負ってらっしゃるあの刀!あれはメカニカルソードと申しまして、勇壮隊長だけに許される特注武器!えーと、名前が、えーと…あ、そう!『戦巧高周波義装刀二〇八号・神肌』!妙に男心をくすぐる見た目と名前ですなぁ!これ一薙ぎで、敵はすべからく一刀両断!まさに敵無し!らしいです!直接見たことなんてないので噂でしかないですが!はぁぁぁ、まさに雲の上のお方でありますぅ。眼福眼福ぅ。」
「一刀両断ですってぇ。社長とおんなじですねぇ。」
「サカ…大丈夫なの…?」
ヒュゥゥゥゥウウウウウウ
風が鳴いている。
「久しいな。」
東宮寺が口を開く。
にぃぃぃいいいっ
「おうおうおーーーう、ケイちゅわぁぁぁああああん。しばらく見ねえうちにいだあああーーーいぶ大きくなったあじゃあねえのお。ケツの穴ファックし隊のテッペン張るようになっちゃってえ。さぞ気分がいいだろおなあ。」
はっ
「お前こそ随分好き放題やってるじゃないか。ゲームを隠された小学生みたいに壊して殺して。相も変わらず思考回路が幼稚だな。むしろ退化したんじゃないか?赤ん坊から人生、やり直した方がいいんじゃないか?」
「だから前から言ってるだろお。俺に世間一般常識を当てはめるんじゃねえってなあ。俺の思考も言葉も行動もぜんぶう、ただの人間じゃあ理解も及にゃあいところまできちゃってるのよーう。苦しいなあ?人間のままでいるしかねえーやつはよお?」
「そのまま人間辞めて獣に成り下がってくれれば、あっさり殺処分できたものを。ひどく口惜しい。いっそのこと全裸で四つん這いになって糞尿垂れ流しながら皇居を散歩でもしてくれたらありがたいんだがな。」
「口がお悪いことお。そんんんな口きいちゃっちゃってえええるとおおお、まあああた柔術の演習のときみてえええにぃ、泣っかしてえやろおおおおかああああああ???!!!んんんなぁっっっつぅぅぅかぁぁああああしぃぃぃいいいいいなぁぁぁあああああああ????!!!」
「そうだな、また剣術の演習のときみたいにお前をコロコロ転がして、『ふぇぇぇ、東宮司さぁぁぁん、許してくださぁぁぁい』って泣きべそを拝んでやりたいものだ。」
きっしっしっ
はっはっはっ
「全く、お前のご両親もどこで育て方を間違えたんだろうな。今のお前を見たら泣いて失神するだろうよ。」
「いやはや全くその通りい。きっとお墓の下でシク四苦八苦ぅ、骨壺濡らしてるだろおおおおなあああああ?!」
「何でサカが勇壮の隊長とレスバしてるんだ…?」
「何でしょおなぁ。話から察するに、古い知り合いのようですがぁ。」
「うーん、じゃあ聞いてみますかぁ。よいしょ。」
「は?」
「ほ?」
「しゃっっっちょぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!その人っとをぉぉぉぉおおおおおお、おっっっっ知り合いぃ、なぁぁああああんんんですかぁぁぁあああああああああ????!!!!!」
「隠れた意味ぃぃぃいいいいいいいいい????!!!!!」
「おおーん?気になるう?なっちゃうかあ。そうさあなあ、」
ピッピッ
自分と東宮寺を指差し、
「同期♡」
「”元”、な。」
「へー、そうなんですねぇ。」
「いや驚かないの?結構大事なポイントだと思うけど?サカ、治安だったの?」
「いやぁぁぁあああああああ!!!小生は驚きますぞぉぉぉおおおおお!!!!まっさかあの方が東宮寺隊長と同期だったとはぁぁぁああああああ!!!くぅぅぅうううう、痛恨の極みぃぃぃいいいい!!!!やはり過去の事情も知り尽くしてこそ、真のフアンと言えるのですなぁぁぁぁあああああ!!!!」
「え、じゃあじゃあそれじゃあ、なぁぁあああんでファックやめちゃってぇ、こぉおおおんなバッカみたいなことぉぉおおおお、やっっっってぇぇええええるぅぅぅうううううんんでぇぇぇえええすかぁぁああああああ???!!!」
「なあんでだっけえなあ。方向セーの違いってやつだったあーかあ?」
「お前の気が狂っただけだろうが。」
ヒュゥゥゥゥウウウウウウ
「…なぁ、もういーいいい、だろお。」
スッ
バットの先を東宮寺に向ける。
ババババババッ
六人、戦闘態勢。
「わわわっ、急に勢いづきましたよぉ、後ろの人たちぃ。」
「ほらこうなるんだもぉぉぉぉおおおおおんん!!!!なのにこっちの居場所ばらしちゃってぇさぁぁぁああああああ!!!!ヒナ馬鹿ぁぁぁああああああんん!!!!」
「しょぇぇええええええ!!!!しょ、小生は関係無いですぞぉぉぉおおおおおお???!!!!」
「いい、やめろ。」
ススススススッ
東宮寺の一言で全員、警戒を解く。
「おぉ、隊長っぽぉい。」
「すんばらしいぃぃいいい!隊長のご威光、しかと網膜に焼き付けましたぞぉぉぉ!!!」
サカが続ける。
「なああああんの用でえ、来ったんだあああああ???殺しに来たにしちゃああああ、ああああーーーああああ、なんっっっの殺意もねえええ。まっっっかああああさああああ、昔話いをしにいきたあわけじゃあああ、ねえええだろうなあああああ???!!!」
「…」
「もっしもよお?もっっっし、ほんっっっとに、そんっっっなあくっっっだらねえええ理由できたんだったらああああああ???」
ザッシュ、ザッシュ
一歩二歩、近づく。
「お前に失望する。それから、この場で俺が殺してやるよ。」
赤い瞳と、青い瞳が交錯する。
「…半分、昔話だ。」
「あああん?!」
「もう半分は、警告だ。お前も分かっているだろう。お前は正義のヒーロー気取りなのかもしれんが、やり方がとても目に余る。人も建物も滅茶苦茶。決定打になる痕跡はなんとか消してるようだが、もはやそんな小細工も関係無い。上がお前に目を付け始めた。令状が出るのも時間の問題だろう。勿論、」
スッ
東宮寺の瞳の青が深くなる。
ズゥゥゥウウウウウウ
冷たい空気が辺りを満たす。
ヒナと海洩の背筋が凍る。
「生死は問わず、だ。」
きひっ、きひひひひ
「やればあできんじゃあねえのお。令状なんてかったくるせえんのぬっきでよお、最初からそれえでかかってこりゃあいいのによおおお。」
「俺はこっち側の人間だ。外道に堕ちたくないんでな。」
くるっ
ザシュ、ザシュ
東宮寺が踵を返す。
「けえんのかあ?」
「今日はもういい。だが、次会ったときは…」
「おお、どっちかが死ぬな。」
「ああ、それでいい。」
「戻るぞ。」
ザッザッザッ
行きと同じく帰りも綺麗に並んで、勇壮が去って行く。
ヒナとソートがサカに駆け寄る。
「はぁぁぁーーーー。まっっったく、生きた心地が微塵もしなかったよ。」
「おかしな人たちでしたねぇ。真ん中の人、東宮寺さんでしたっけ?以外、だぁれも喋らなかったし。それに真っ白なお洋服。食べるとき気使いそうですねぇ。」
「それにい土埃や汗染みも目立つぜえ。ほら見ろお一番左端のやつう。襟が灰色に見えるだらあ?汗染みが取れずに黒ずんでんだあよ、みっともねえ。」
(え?マジで?)
一番左端のやつがしきりに襟を気にしだす。
(馬鹿、やめろ。)
隣のやつが頭をはたく。
(ごめんて。でも、気になるなぁ。)
(帰ったら後できちんと洗ってやるから。今はやめろ。)
(えっ…♡お、おう。)
勇壮の姿が見えなくなった。
「それにしても社長のお友達が勇壮の隊長さんだったなんてぇ、なぁんで教えてくれなかったんですかぁ?」
「ホントホント。僕も知らない過去がいっぱいなんだね。」
「べっっっつにい。あえてえ言うことでもおなかろうよお。」
「でも、仲良さそうで、仲良さそうでもなかったというかぁ。なんかピリピリしてませんでした?雰囲気。」
「殺す殺すって言ってたけど、え、まさか勇壮と戦うことになったりする?まさかだよね?」
「おおおーーーんおお、つうぎ会ったらあ、まあ、そうなるだろおおおなあああ。」
「はっっっっぁぁぁぁぁあああああああーーーーーーーああああああああーーーーーーーああああああああああああーーーーーー」
ドローンから過去一の溜息が。
「おうおう、ながあい溜息だこと。幸せダダ漏れ液漏れで不幸になってえ、死が向こうの方からやってえきちまうずえ?」
「…いつかこうなるとは思ってたんだよね。思ってたんだけど…」
「へえええぇぇぇ?社長、あの人たちとも戦うんですかぁ?悪い人ではなさそうでしたけどねぇ。え、勝てるんですかぁ?」
サカはほんの少し遠い目をした後、
「ううーーーんん、そおーさあなあ、勝てないことは無いしい、負けることも、考えたかねえがあ、現実ってやったあをしっっっかり見るとお、ありえちゃあうにゃあああ。ケイやん一人だけならあ、まあ六割方勝てる、自信があらあな。でもお、あんの取り巻き連中が邪魔だあああよお。あれぜええええんぶお掃除してからあだとおおお…三割があああだとおおおかもなああああ。」
三割。サカで、三割。
「…そんなの聞きたくなかったよ。負けるかも、だなんて。」
「はああああああんん???脳死で勝てる勝てるとだけおもーてえる方があ阿呆ちゃあんだあろおがあい。クレバーなやっちゃあ、きっちいんと現実みてえ、どうやったらあ勝てるかあを地に足つけてえ考えええるのおよお。」
「そうなんですねぇ。でもあの人たち、警察みたいな立ち位置なんですよね?勝てたところで、結局大犯罪者じゃないですかぁ?そんなになってまで戦う意味ぃ、あるんですかぁ?」
「そりゃあ、ねえかもしれねえわな。」
「だったら…!」
「でえええええもおおおよお、」
サカが振り返る。日の光と笑顔が眩しい。
「売られた喧嘩はあ、ぜえんぶぜええええんぶ買い取ってえ転売するまあでえがあ、この俺ちゃあんなあのおよお。だからよお、そんときにゃあなあ、お前らもお、頼りにしてるぜえええ?」
「えええぇぇぇぇぇええええ???!!!社長ぉが頼りにしてるぅ、なんて初めて聞きましたよぉぉぉぉおおおおおお????!!!!めっっっっっずらしいいいぃぃぃいいいいいい!!!!!明日はモンスーンですかね?」
「頼りに、ねぇ。ほんっっっとに都合がいいんだから。」
「社長ぉ、負けて捕まっちゃうギリギリまで給料はくださいねぇ。それで負けそうになったら全力で逃げますからぁ。」
「同じくね。」
「へいへいへえーーーーい。勝手にするがあいいさあ。」
四人、新たな決意を胸に帰路につく。
「んでえ?おめえはあいっつまでえ、ついてくるあああつんもりでえええああああああ???」
「んはっ?!小生でございまするか?!いやそれはもう、東宮寺隊長の過去を根掘り葉掘り聞かせていただこうかと!旧知の仲の方がいらっしゃるとは、知りませんでしたからなぁ?!」
「サカが怖くない人だと思ってるの?鬱陶しいよ。消えて。」
「そうですぅ。部外者は大人しく退いた方が身のためですぅ。」
「まあーーーまあーーーまあーーー、落ち着けえええってえ、おんめえらあ。せっっっかくなんだあ、いいこと一個お教えてやらああああなあ。それから消えろお、なあ?」
「はい、はい!一個で構いませぬ!」
「じゃあああ言うぞおおおお、ケイやんなああああ、実はなあああああ?」
「実は?」
「実は?」
「実は?」
「めっっっちゃあロリコン。携帯の待ち受け画面とかあ妹キャラの萌え絵だあしい、宿舎のベッドの下にも同人誌があもおおおどっっっさりだったあああのよおおお。」
「なっ、なるほどぉ?ロリコンで、ございましたか?」
「何だかイメージ崩れですねぇ。犯罪者予備軍でしたとは。」
「まぁ軍人なんてストレスまみれだろうし、それくらいいいんじゃない?」
「いっ、いやっ、なるほどなるほど!あのクールな鉄仮面の下に、そんな情熱があったとはぁ!!!この海洩、感銘の極みぃぃぃ!!!こうしてはいられませぬ、早速ネット記事にして同志らに伝えねばぁ!!!では、失礼いたしますぅ!!!」
バビュン
厄介ファンは消え去った。
「そういう暴露記事って、余計にファンから叩かれません?」
「あーいうマスコミ気取りの一般人が下手な記事を書くもんだからマスゴミなんて呼ばれるんだよ。」
「ほっとけい、どーせ本当なんだしよお。」
くちっ
東宮寺が鼻をすする。
「んん、また誰かが俺の噂でもしてるのか。」
手にする携帯の待ち受けには半裸の二次元幼女の絵に、
『変態撲滅革命家☆ロリロリアマガミ橙華ちゃんは今日もゼッタイ☆負けないんだからね!』
の文字があった。
一方そのころ。
東京、荻窪。
とある豪邸、その一室で。
「んんん~~~♪んんん~~~♪んんん~~~んっふっふっひぃ~~~やぁ~~~~~~♪」
毒々しく色が塗られたキャンバスの前で筆を持つ女性。
長身で七色の髪を持ち、かなーり薄着。全裸にワンピース巻いたくらい。
キャンバスには何が描いてあり何を意味するのか、素人には見当もつかない。
「んんん~~~…んんん?!あっらぁ、赤色が足りないわぁ。純粋な赤がぁ~~~♪足りないっわぁ~~~♪」
キャンバスから離れ、パレットと針を手に取る。
「やっぱりぃ、色っていうのは、人体の神秘から生み出されるのが至高よねぇ?そう、思うでしょおおおおおお????!!!!」
目の前には、全裸で手足を拘束された人々が。目も隠され口も塞がれている。老若男女様々。床には血の跡がちらほらと。
「そうねぇ、とりあえずぅ、採れるだけありったけぇ、採っていきましょうかぁ。」
キラァン
ナイフを取り出して、
シュパッ
「っ?!」
少女の腕を切り裂く。
ツゥー
切れ目からふつ、ふつと血が流れてくる。
「んっんっんんん~~~♪これよこれぇ~~~♪生の搾りたてほど情熱滴るものはないのよねぇ~~~♪」
金属の針で傷口から血を掻き出し、パレットに溜めてうっとり眺める。
「~~~!」
少女は悶え苦しむが、彼女は全く気にしない。
「もっと必要だけどぉ、鮮度が大事だからぁ、急ぐわよぉ~~~???」
もう一度ナイフを構え、
「きぃぃぃいいいいいいいいいいいいいええええええええええああああああ!!!!!!」
シュパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァァァァアアアアン
老若男女を滅多切り。額、鼻、耳、顎、首、肩、腕、胸、腹、性器、太もも、ふくらはぎ、脛、足にどんどん切り傷が刻まれていく。
「あぁっ?!」
「いぃっ?!」
「うぅっ?!」
「えぇっ?!」
「おぉっ?!」
言葉にならない悲鳴が漏れる。
「そんでもってぇ、きちんと回収しないとねぇ。」
パッパッパッと、傷口に雑に針を挿し込んで血を集める。
そんな時、
ピタッ
中年の血を集めていて手が止まる。
「…あんたぁ…」
「…?」
不安そうに顔を上げる中年。
わな、わなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわなわな
女性はパレットを握り締め、怒りに震える。
「あんたぁぁぁぁああああの血ぃぃぃいいいいいい!!!!!ちぃぃぃいいいいいいいいいょぉぉおおおおおおおおおおおっっっっっとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお赤黒ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!なんでぇぇぇぇなのよぉぉぉぉおおおおおおおおおおお????!!!!高血圧なのぉぉぉぉおおおおおおおおおお???!!!高血糖なのぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお???!!!人間の恥なのかぁぁぁぁああああああああああおんまぁぁぁえぇぇぇぇえええええええええはああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ガッキャァァァァアアアン
パレットで力の限り殴りつける。
「ぎゃぁっ?!」
倒れ込む中年。だが女性は止まらない。馬乗りになって殴り続ける。
ガッガッガッガッ
ドガドガドガドガドガドガドガドガ
「あんたのせいで!!!あんたのせいでぇぇぇえええええ赤が崩れたあぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!せっかく上手くいってたのにぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!ぜぇぇぇええんぶぅずぅぅぅうううううううえええええええええええええんんぶぅぅぅぅぅうううううううう無駄になったぁぁぁぁああああっっっっとぅぅぅぅうううううううううううああああああああああああああああああああああ!!!!!!あんたぁぁぁあああああああのすぅぅぅううううううううえええええええええええどぅぅぅううううううううえええええええええええええええええ!!!!!!!!んんぬぅぅぅうううううううううううあああああああああああああああんんにぃぃぃぃいいいいいいむぅぅぅううううううううううううおおおおおおおおおおお描ぁぁぁぁあああああああああああああああくぅぅぅうううううぇぇぇええええええええええええええええええええぬぅぅぅううううああああああああああああっっっくぅぅぅううううううううううううううううぬぅぅぅうううううううううううううううあああああああああああああああっっっっっっとぅぅぅぅぅうううううううううううううううあああああああああああああああああああ!!!!!!!おおおおおおおおおっっっしぃぃぃいいいいいいむぅぅぅううううううううああああああああああああいいいいいどぅぅぅううううううううううあああああああああああああああああああああああっっっはぁぁぁあああああああああっっっはぁぁぁああああああああああっっっはぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああんあんあんあんあんあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
ドガァボォッチュゥゥウウン
殴られに殴られた中年は人型を留めないミンチにまですり潰され、ピンクっぽい赤に染まった塊になった。
「…ん?んん、んんんんっほぉぉぉおおおおおっっっほぉぉぉおおおおおおおお~~~~~~???」
女性が急に床に這いつくばり、さっきまで中年だった塊をガン見する。
「この色はぁぁぁ~~~?意外とぉぉぉ~~~?悪くないかもぉぉぉおおおお~~~~~~???味見しましょっかぁ。」
ちゅっ
塊に口をつけ、
じゅぞぉぉぉおおおおっ
ちょっとばかし吸引、味わう。
ごっくん
「………ぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ???!!!ああああああああああああああああああああ????!!!!」
ピィィィイイイイッッッシャァァァアアアアアアアン
女性に電撃が走った。
「んんん~~~!!!!これこれぇ、これよぉぉぉぉおおおおお!!!!今私が欲しいのはぁぁぁぁああああああ!!!!見てぇぇぇぇええええんん!!!!この目が釘づけになる赤ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!若輩とぉ、粗暴とぉ、怒髪とぉ、恐怖とぉ、希望とぉ、恋心とぉ、そしてそしてぇ、人間の生命の全てぇぇぇぇえええがぁ、こんのぉあっかにぃぃぃいいいいい、ちゅまっっっっってぇぇぇえええええええるぅぅぅぅうううううううう!!!!!!ちょぉぉぉ~~~~~~~~うううぅぅぅ、エェェェッッッッッキィィィィイイイイイイイイイイイスゥゥゥゥウウウウウウアアアアアアアアアァァァァッッッッィィィイイイイイイイティィィイイイイイイィィィイイイイイイイィィィッッッッッンンンッッッッッッグゥゥゥウウウウウウウウウウアアアアアアアァァァァッッッッァァァァァアアアアアアアアアアァァァァッッッハァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンン!!!!!!!!!!!!」
ビクンッ、ビクンッ
女性は白目を向いて泡を吹いている。
そこへ部屋の隅から腰の低いスーツの男がどこからともなく現れ、すごすごと声を掛ける。
「あ、あのぉ~~~…妖顕天貫先生ぃ…?」
妖顕天貫銛峯子。人体を素材として扱うサイケデリックな芸術家。ごくごく一部の層にウケが良く、大金を稼いでいる。
「…なぁにぃ、高橋ぃ。私のエックスタシィタイムを邪魔するんじゃあないわよぉ。ねぇ、それで続きが描けなくなったらどうするのぉ?責任、取れるのぉ?」
針を持って近づく。
「んんんねぇぇぇぇえええええええ!!!!!!せっきにぃぃぃいいいいんん、とっっっっれるぅぅぅぅううううんんのぉぉぉおおおおおおおおお????!!!!」
「ひぃぃぃいいいいっ!!!い、いや、私はただ…」
「そう言えばぁぁぁ、白も足りなくなってきたのよねぇぇぇえええええ???高橋ぃぃぃ???あぁーたぁの目を潰せばぁぁぁ、きぃぃぃっっっとぉ、綺麗ぃーなぁ白がぁ、取れるわぁよぅぬぅぅぅぇぇぇぇぇえええええええあああああああ!!!!!」
「ひぇぇぇえええええ!!!!駄目ですぅぅぅううううう!!!潰してもぉ、透明な液体しかでない気がしますぅぅぅうううううううう!!!!」
「あら、それもそうね。」
身を離す。
「はぁ、はぁ、あの方への贈り物の進捗が心配なんですよ、私は。」
「分かってるわよぉ。私だってぇ、あの人怒らせたくないものぉ。若いくせに、妙ぉにオーラがあるのよねぇ。見えるのよぉ、私。」
「そ、そうなんですか。」
「明るいようで、黒い光、そんな感じぃ。表じゃ人の良い顔しといて、裏じゃ何を抱えてるか分からない、いやぁ、とんでもないものを隠してそうなんだものぉ。怖くてしょうがないわぁ。」
「じゃ、じゃあ、とにかく、急ぎませんと。」
「分かってるってばさぁ。今日から急ぐわよーう。」
「はぁ、それと、これも言っておかないと。またあのサイトに先生が載っちゃってました。」
『驚天動地☆滅殺撃滅闇サイト』
「はいはい、またね。才能があるのも罪よね。上手くいかない人たちの欲望のはけ口になっちゃうんだもの。」
「は、はぁ、それで…」
「何なのよ。また適当に誤魔化して消しといてよ。いつも通りでしょお?」
「い、いや、それが…」
「何よぉ、はっきりしなさいよぉ…?」
スマホ画面を見る。
『妖顕天貫銛峯子』
『芸術家気取りのアラフィフババア』
『¥150,000,000』
「…」
「ほらぁ、これぇ、一億、越えちゃってるんですぅぅぅううううう!!!!今まで数百万、よくて二千万ぐらいだったのにぃぃぃいいいいい!!!!ここまできたら、身代わりと適当な業者用意して誤魔化すの無理ですよぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!何度も何度も同じ誤魔化し、もう限界なんですぅぅぅうううううう!!!!!やっぱり最近の人攫いを派手にやり過ぎたんですよおおおおおおおお!!!!!!!世間はぁ、許してくれませんよぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」
「…」
「せ、先生ぇ…?」
ビキビキビキィ
こめかみの血管がはち切れんばかりに膨張し、
スッ
拳を振り上げ、
ドッカァァァアアアアアン
渾身の台パン。
「せんせっ、」
「っっっっrrrrrrrrrるるるるぅぅぅぅうううううううあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!んんんぬぅぅぅぅううううううあああああああああにぃぃぃいいいいいいいいぐぅぅぅうううううああああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああ、あっ、アアッ、アラフィッ、フッ、じゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!あっ、たっ、しゃぁ、まっ、まっだぁ、よんっ、じゅぅぅうう、ごぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!バッバッバッバッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアじゃぁぁぁぁあああああああああぁぁぁ、ぬぅぅぅぅぇぇぇぇぇぇぇえええええええあああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいぃぃぃぃぃいいいいいいいいあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「世間はそれをアラフィフと言うんです…」
「???????!!!!!!っっっとぅぅぅっっっっくぅぅぅうううううふぅぅぅぁぁぁぁあああああっっっっっっすぃぃぃいいいいいいいいいい?????!!!!!んんんんぬぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああにぃぃぃぃいいいいいいいっっっっっっとぅぅぅぅううううぇぇぇぇえええええええんんんぬぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ???????!!!!!!おんっっっっっめぇぇぇぇぇええええええのぉぉぉぉおおおおおおおおおおお生ぃぃぃいいいいーーーいいいぃぃぃ気ぃぃぃいいいいっっっをぉぉぉおおおおおおおおおおおお、すぅぅぅぅぅうlぃぃぃいいいいいいいいいいとぉぉぉおおおおおおおおおおうううううううっっっっっっとぅぅぅううううええええええええええええええええええええぇぇぇっっっっっゆぅぅぅぅぁぁああああああっっっっっとぅぅぅぅうううううううえええええええええええむぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおあああああ、ああああああいいいいいいいぃぃぃんんんどぅぅぅぅううううううあああああああああずぅぅぅううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!!ごべんばざぁぁぁああああああああああああいいいいいい!!!!!」
ふぅー、ふぅー
妖顕天貫、クールダウン。
「あったしゃあ、永遠の美魔女ぉ、『美』の体現者ぁ、なぁのぉよぉ。」
「そうです、その通りですぅ。」
「それで、一億五千万だから何よぅ。ほっとけばいいでしょうが。」
「いや、これだけ高額になると、あの、悪魔が来てしまうかも、と…」
「悪魔ぁ?」
ピクッ
興味を示す。
「何よぉ、それぇ。」
「噂になってるんですよ。このサイトで高値がついた途端、一日も経たずして、その、殺っちゃう人がいるらしいです。それも片っ端から。有名企業の社長さんも重役も、政治家も官僚も、もう皆んなやられちゃってるんです。しかも周り中の建物壊しまくって。もしそんなのが来たら…」
「いいじゃなぁい、いるのならぜひ来てほしいわぁ。」
「せ、先生、でもぉ、」
「でもだってじゃないのぉ。高橋ぃ、芸術家にとって一番大切なのはぁ、何か分かるぅ?」
「は、はぁ?何でしょうか?」
「昇天死するほどの刺激よぉ。それを経験して乗り越えた人間だけが、きょ~~~れつな魂の顕現を経て、絶世の作品を生み出すのぉ。分かるぅ?」
「はぁ、分かる気も、します…?」
「悪魔があたしゃあの命を刈り取りにくるぅ???そんなシッチュエェェェーーーショォン、そうそう経験できるものじゃあないわぁぁぁぁあああああ!!!!これは大大大大、大大大大チュゥゥァァァアアアアンスゥゥゥウウウウよぉぉぉぉ、あったしゃあがさらに一段上に昇華するためのぉぉぉねぇぇぇ。さぁぁぁてぇ、どんなのが来る、かし、らぁぁぁぁああああ???想像しただけで、濡れてきちゃうぅぅぅ…♡」
じんわり
「せ、先生ぇ…」
高橋の何かがムクムクッとクる。
「来るなら来てみなさいよぉ。あたしゃはウルトラプゥゥゥァァァーーーフゥゥゥェェェエクトォな芸術家ぁ、護身の心得だってあるのよぉ。あと一日でぇ、この家をトラップハウスに作り替えて見せるわぁ。」
「先生ぇ、ホントに大丈夫ですかぁ?大人しく身を隠してた方が…」
「んなぁぁぁああああに言ってんのぉぉぉぉおおおお。こぉぉぉおおおんなに昂ってるのはひっっっさしぶりぃだわぁ。そぉ、あの人に初めて作品を褒められたときくらいねぇ。」
がしっ
ひょいっ
妖顕天貫が高橋を抱える。
「今夜は長くなるわよぉ、覚悟しなさぁい。」
「そんな、先生ぇ…♡」
男女が二人、密室へと消えていく。
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次回へ続く。
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