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私はよく犬に吠えられる
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これは、ある人物の長年にわたる日記を一部抜粋し、まとめたものである。
<20XX年 6月7日>
今日は雨だった。雨は小さいころから嫌いだ。そして今日は昼まで大学で、終わったらいつも通り歩きで帰っていたのだが、公園の前に差し掛かったぐらいのところで、犬を散歩させているおじさんとすれちがった。犬は一丁前にレインコートを着ていた。
その犬、チワワだったが私とすれ違うタイミングで、私の方にガっと迫ってきてムチャクチャ吠え始めた。とんでもない勢いで。おじさんの方はリードを引きながら「すみませんすみません」と繰り返していた。私は怖くなって速足でその場を去った。チワワはある程度距離が離れてもこっちを向いて吠え続けていた。
何というか、今日は少し気疲れした。今日も含めて小さい時から私は犬によく吠えられる。どこでも、どんな犬種でもそうだ。ほかの人が普通に触っている性格のやわらかそうな犬でも私には吠える。だから私は軽く犬がトラウマになっている。
別に僕は、犬の前で変なことをしてるわけじゃない。ガン見しているわけでもない。なのになんでだろう。ちょっと今日は長くなってしまった。これぐらいにしておこう。
<20XX年 3月8日>
犬にかまれた。外回りの最中だった。道の向こうから老夫婦が柴犬を連れて歩いてきて、また僕に対して吠えだすんだろうなという気はしていたが、その柴犬が激烈に吠えだしたあとにご婦人が驚いてリードを離してしまってそのまま……、っていうのは想定外だった。
すぐに近くの病院に行って処置してもらった。傷はあるものの感染症とかの可能性はなかったし、まあ、大事には至らなかった。飼い主とは念のため連絡先を交換した。ご夫婦は何度も何度も頭を下げてあやまっていた。その後旦那さんの方が奥さんをしかりつけていたのを見て心苦しい気持ち。
家に帰って今は安静にしている状態だ。まあ大変な一日である。犬がより一層怖くなってしまった。なんか届けとか出したりするのかなぁ。
<20XX年 3月20日>
今日は休みで、一日ダラダラしていた。すると、先日の柴犬の飼い主のご夫婦が菓子折りをもってわざわざ私の家まで訪ねてくださった。なんというか自分ちなのにいたたまれない気持ちになった。
そういえば、犬にかまれてから変な夢をたびたび見るようになった。夢の内容は、巨大な犬みたいなのがこちらに口をあけながら迫ってくるというような内容だ。その周りは、崩壊したビルとかそんな感じ。よほど犬自体がトラウマになっているのだろう。夢は見るたびリアリティが増していくのだから怖いものだ。
===そこから数十年後、同氏の日記より===
<21XX年 5月20日>
あの、審判の日が訪れて長い月日がたった。忌々しき”奴ら”はもはや地上を支配している。あの日、飛来した巨大な隕石から複数現れた、謎の巨大四足歩行生物「アウンド」は我々の世界を完全に破壊した。各国の軍が死力を尽くしても、奴らにはかなわなかった。
奴らが恐ろしいのはその攻撃能力だけではない。真の脅威は奴らがまき散らすウィルスにあるのだ。ウィルスは犬に感染した場合、その個体を狂暴化させ、しまいにはアウンドの味方、勢力下についてしまうのだ。かつて人間の飼い犬だったものであっても、ウィルスに感染すれば途端に飼い主に牙を向き、新たな飼い主、「アウンド」にひざまずいてしまう。いまやこの地球上のほとんどの犬が野犬となり、奴らの偵察部隊と化している。
ウィルスは犬だけに影響を及ぼすのではない。人間に感染すれば、瞬く間に全身が麻痺して死に至る。その主な感染源は、やはり奴らの眷属となった犬からである。そうして人類は大きく数を減らしたのだ。
各国の正規軍が消滅してしまった今、奴らに抵抗できるのは、かろうじて生き残ってきた我々しかいない。審判の日以降、私自身も自分にとっての愛する人をたくさんなくしてしまった。そして、流浪の果てに、蜂起の覚悟を決めた。
西部では今日も10名の仲間が犠牲になったと報告があった。しかしながら我々は、これによって折れてはいけない。我々、”抵抗文明戦線”が、最後には勝利をつかむのだ!
<21XX年 日付不明>
たった今、緊急で部下から報告が入った。この、我々のアジトに向けて、クソアウンドどもと野犬の大部隊が急速接近しているという。私たちは急いで防衛体制を整えなければならない。絶対にここを乗り越えなければならないのだ!
思えば、私自身、若き日はよく犬に吠えられていた。噛まれたこともある。ついには犬に関する悪夢まで見た。しかし今思えば、あれは来たるべき時を示すビジョンだったのだ。天命が、幼き時から決まっていたのである。犬が私に対して異常なほど吠えてきたのは、将来相対する宿敵だと奴らが感じ取っていたからだろう。
私は絶対に生き残り、ここから攻勢を仕掛ける。そして戦いは抵抗文明戦線が勝ちをつかむ!
私は絶対に、負け犬の遠吠えを聞くまでは死ねない!
===日記、ここでついえる。===
<20XX年 6月7日>
今日は雨だった。雨は小さいころから嫌いだ。そして今日は昼まで大学で、終わったらいつも通り歩きで帰っていたのだが、公園の前に差し掛かったぐらいのところで、犬を散歩させているおじさんとすれちがった。犬は一丁前にレインコートを着ていた。
その犬、チワワだったが私とすれ違うタイミングで、私の方にガっと迫ってきてムチャクチャ吠え始めた。とんでもない勢いで。おじさんの方はリードを引きながら「すみませんすみません」と繰り返していた。私は怖くなって速足でその場を去った。チワワはある程度距離が離れてもこっちを向いて吠え続けていた。
何というか、今日は少し気疲れした。今日も含めて小さい時から私は犬によく吠えられる。どこでも、どんな犬種でもそうだ。ほかの人が普通に触っている性格のやわらかそうな犬でも私には吠える。だから私は軽く犬がトラウマになっている。
別に僕は、犬の前で変なことをしてるわけじゃない。ガン見しているわけでもない。なのになんでだろう。ちょっと今日は長くなってしまった。これぐらいにしておこう。
<20XX年 3月8日>
犬にかまれた。外回りの最中だった。道の向こうから老夫婦が柴犬を連れて歩いてきて、また僕に対して吠えだすんだろうなという気はしていたが、その柴犬が激烈に吠えだしたあとにご婦人が驚いてリードを離してしまってそのまま……、っていうのは想定外だった。
すぐに近くの病院に行って処置してもらった。傷はあるものの感染症とかの可能性はなかったし、まあ、大事には至らなかった。飼い主とは念のため連絡先を交換した。ご夫婦は何度も何度も頭を下げてあやまっていた。その後旦那さんの方が奥さんをしかりつけていたのを見て心苦しい気持ち。
家に帰って今は安静にしている状態だ。まあ大変な一日である。犬がより一層怖くなってしまった。なんか届けとか出したりするのかなぁ。
<20XX年 3月20日>
今日は休みで、一日ダラダラしていた。すると、先日の柴犬の飼い主のご夫婦が菓子折りをもってわざわざ私の家まで訪ねてくださった。なんというか自分ちなのにいたたまれない気持ちになった。
そういえば、犬にかまれてから変な夢をたびたび見るようになった。夢の内容は、巨大な犬みたいなのがこちらに口をあけながら迫ってくるというような内容だ。その周りは、崩壊したビルとかそんな感じ。よほど犬自体がトラウマになっているのだろう。夢は見るたびリアリティが増していくのだから怖いものだ。
===そこから数十年後、同氏の日記より===
<21XX年 5月20日>
あの、審判の日が訪れて長い月日がたった。忌々しき”奴ら”はもはや地上を支配している。あの日、飛来した巨大な隕石から複数現れた、謎の巨大四足歩行生物「アウンド」は我々の世界を完全に破壊した。各国の軍が死力を尽くしても、奴らにはかなわなかった。
奴らが恐ろしいのはその攻撃能力だけではない。真の脅威は奴らがまき散らすウィルスにあるのだ。ウィルスは犬に感染した場合、その個体を狂暴化させ、しまいにはアウンドの味方、勢力下についてしまうのだ。かつて人間の飼い犬だったものであっても、ウィルスに感染すれば途端に飼い主に牙を向き、新たな飼い主、「アウンド」にひざまずいてしまう。いまやこの地球上のほとんどの犬が野犬となり、奴らの偵察部隊と化している。
ウィルスは犬だけに影響を及ぼすのではない。人間に感染すれば、瞬く間に全身が麻痺して死に至る。その主な感染源は、やはり奴らの眷属となった犬からである。そうして人類は大きく数を減らしたのだ。
各国の正規軍が消滅してしまった今、奴らに抵抗できるのは、かろうじて生き残ってきた我々しかいない。審判の日以降、私自身も自分にとっての愛する人をたくさんなくしてしまった。そして、流浪の果てに、蜂起の覚悟を決めた。
西部では今日も10名の仲間が犠牲になったと報告があった。しかしながら我々は、これによって折れてはいけない。我々、”抵抗文明戦線”が、最後には勝利をつかむのだ!
<21XX年 日付不明>
たった今、緊急で部下から報告が入った。この、我々のアジトに向けて、クソアウンドどもと野犬の大部隊が急速接近しているという。私たちは急いで防衛体制を整えなければならない。絶対にここを乗り越えなければならないのだ!
思えば、私自身、若き日はよく犬に吠えられていた。噛まれたこともある。ついには犬に関する悪夢まで見た。しかし今思えば、あれは来たるべき時を示すビジョンだったのだ。天命が、幼き時から決まっていたのである。犬が私に対して異常なほど吠えてきたのは、将来相対する宿敵だと奴らが感じ取っていたからだろう。
私は絶対に生き残り、ここから攻勢を仕掛ける。そして戦いは抵抗文明戦線が勝ちをつかむ!
私は絶対に、負け犬の遠吠えを聞くまでは死ねない!
===日記、ここでついえる。===
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