ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第45話 不幸の産物

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___話は戻り、チャペル。偽物花嫁に、ゴンドロフ居なくなる騒動で、新郎側の親族は、騒然としていた。


    「みんな、ごめんよ。僕も今回の結婚は賛成出来なくて、綺麗な花嫁さんには逃げてもらいました」


   ゲンは、自分の親族にニコやかな表情で謝罪した。


    「皆さん、これは全て、兄の私が企てました。心より謝罪申し上げます。本当に申し訳ございませんでした!」


    イバラは、これ以上にない程に深く深く頭を下げた。


    「気にしないでください、王子様。事情は何となくではございますが、分かります。今回はこれにてお開きと致しましょう」


    そう口を開いたのは、最前列に座る、新郎ゲンの母親のようだ。ゲンの母親は、仏のような表情を見せ、その場は丸く収まった。この親ありきの、この子ありという感じだ。そして、他の親族も納得の表情を見せていた。


    「さて、帰りますか」


    「本当にありがとうございます。いつか必ず、お礼をさせていただきます」


    そうして、ゲン率いる新郎親族一同は、チャペルを出ていった。


    「ねぇイバラ……」


    「ん?なんだいヒマレちゃん」


    「ドレス似合うかしら?」


    「ああ、もちろんさ!とても素敵だよ……。結婚しよう」


   「うふふ……。ばーか!」


    純白のドレスに身を包んだヒマレは、まさに天使だ。


    「あとは頼んだよ、アグ」


   イバラは、和ましい表情で呟いた___



___場面は代わりアグネロ&キリナシーン。


    「うぉー、これ結構運転難しいな!キリナ、しっかりつかまってろよ!」


    広い住宅街をおぼつかない運転で駆け抜けるウィジー。アグネロの後ろにキリナが乗っている。


    「ネロちゃん、ウチが運転した方が上手だよー!」


    「それじゃあ意味ねーだろっての。俺がお前を連れ去るんだからよ!でもなんだか速度が段々落ちてんな」


    「そりゃそうだよ!術者と離れていってるんだもん、力はどんどん出なくなるよ!」



     ウィジーは、イバラと離れるにつれて、徐々にスピードが落ちていた。



    そして、走る事20約分。ようやく水壁のトンネルが見えてきた。


    「よーし、このままトンネルを抜けていくぜー!」


    2人を乗せたウィジーが、トンネルへ入ろうとしたその時、後方から尋常ではないスピードでゴンドロフが近付いてくるではないか。


    「待てぇぇええ!このクソ小僧がぁあ!!」


    「やべっ、もうバレたのか!もう止まれねぇ!このままトンネルを突っ切るぞ!」


    アグネロがそう言うと、ウィジーはトンネルへと侵入した。


    「逃がしてたまるかぁあ!」


    ゴンドロフは、鬼の形相で叫ぶと、右手を前に突き出し、開いた掌を思い切り握った。そして、その手を自らの方へと引っ張った。


    「ダメだ、ネロちゃん。このままじゃ飲まれる、ウチらの負けだ」


    ゴンドロフが拳を握ったと同時に、トンネルの穴はみるみる塞がれていき、アグネロとキリナを水流が飲み込んだ。水壁の中をもがく2人は、水の流れによって、壁の内側へと放り投げられた。


    「がはっ……がはっ。大丈夫かキリナ」


    「ウチは大丈夫……」


    地面に転がる2人の目の前には、怒り狂った表情のゴンドロフが仁王立ちしていた。


    「この街でワシから逃げれるわけがなかろう。おい、クソ小僧!イバラに負けたくせに、こんな姑息な手に出るとは、貴様には人道心ってもんがないのか!あぁ!?」


    「おう、約束を破った事は本当に悪かった。だけどよ、なんでそこまでしてキリナの結婚に執着すんだよ。教えてくれ、俺には全く理解できねぇ!」


    その場に座り込んだままのキリナに対して、アグネロはゴンドロフの前に立ちはだかった。


    「しつこい奴じゃ……。そこまで言うなら教えてやろう。 貴様、スイナを知っておるな、キリナとイバラの姉じゃ」


    「おう、知ってる」


    「あやつはな、18歳の時にワシの反対を押し切ってこの街を出ていった。そして、どうしようもない小さな村の男と恋に落ち、結婚したんじゃ」


    そばでうずくまるキリナは、ゴンドロフの話を聞いて、涙を流し始めた。


    「街を出てから、再びワシの前に顔を見せたのは、2年程経った頃じゃった。まだ産まれて数ヶ月のチサキを連れて、その男と3人で現れたんじゃ。そして、その直後に忘れ物をしたと言ってチサキをワシに預け、2人はその小さな村へと戻っていった」


    アグネロは、ゴンドロフの話を真剣な眼で聞いている。



    「だが、2人はそれから待てど暮らせど、帰ってくることはなかった。丁度その頃、この辺りでは雷は落ち、豪吹雪が舞う異常気象が起きていた。そしてその異常気象は、その小さな村を跡形も無く消し去った」


    「まさか……スイナさん達はそれで」


    「ああ、そのまさかじゃ。後日、降り積もる雪の中から、焼け焦げたスイナは発見された。あやつは、20歳の若さで命を落としたんだ。この街に居れば、この水壁が天災から身を守ってくれたはず……死ぬ事なんてなかったはずじゃ……」


    スイナの過去を語るゴンドロフは、肩を震わせながら、拳をきつく握りしめていた。


    「若くしてこの世を去ったスイナは本当に不幸者じゃ。小さな村の男と結婚して、良いことなんて1つも無かった。だから、キリナには同じ道を辿って欲しくない、姉と同じ不幸者になって欲しくない、そう思うのは親として当たり前なんじゃ。子を持つ親の気持ちなど、貴様のようなクソ小僧に分かるわけなかろうが!」


    「うぉぉおりゃぁあ!!!!」


    先程まで、真剣に話を聞いていたアグネロだが、急に血相を変えて、ゴンドロフの顔面をぶん殴ったではないか。


    「何をする貴様」


    吹っ飛びはしなかったものの、不意に殴られた事にゴンドロフは激怒した。


    「分からねぇし、分かりたくもねぇよ。おいクソジジイ!   てめぇイバラの100倍強ぇんだろ。今度はあんたが俺とタイマン張れよ。ボコボコにぶん殴ってやるからよ」


    「くだらない……。貴様がワシに勝てるわけなかろうが。ワシの話が貴様には響かなかったようじゃな。この非人道的野郎が。相手にするだけ無駄じゃ、行くぞキリナ」


    ゴンドロフはそう言うと、キリナの手を引き、アグネロに背を向けると、その場から立ち去ろうとした。


    「逃げんじゃねーよ、クソジジイ!てめぇ自分で言ったこと、もう一度確かめてみろ!」


    「ふん、相手にするだけ無駄じゃ」


    キリナを連れていくゴンドロフは、アグネロの呼びかけに耳も傾けず、歩いていく。



    そして、一瞬空気が張り詰めたその時、アグネロは大きく息を吸い込み、口を開く。



    「本当に良いことなんて1つもなかったのかよ!あんたにとって、チサキが産まれたのは良いことじゃねぇのか!」


    アグネロが心の底からの叫びをぶつけると、ゴンドロフは足を止めた。アグネロの言葉が胸に刺さったのだろう。


    「大事な大事な孫が、不幸の産物みてぇな言い方すんじゃねぇ!」


    歩みを止めたゴンドロフは、アグネロの方へ振り返ると、膝から崩れ落ち、涙が頬を伝った。


    「ワシは、なんて事を……。すまなかった!」


    ゴンドロフはその体制から、土下座をした。


    「謝る相手は俺じゃねぇよな」


    「キリナ、本当にすまんかった。ワシはスイナを失った悲しさのあまり、お前を縛り付けてしまっていたのかもしれない。キリナの本当の幸せなど、考えてもいなかった。情けない父親ですまん」


    「お父さん……。お父さん……。もういいから、顔を上げて」


    涙が止まらないキリナは、ゴンドロフの身体を無理矢理起こした。


   「言えば分かんじゃねーかよ、ジジイ」


    アグネロは爽やかに微笑んだ。


    「アグネロよ、貴様にも酷い暴言を吐いた。本当にすまん。そして、感謝する」


    「俺の事は大丈夫だ、それより結婚はどうするつもりだ」


    「もちろん、今回の結婚は取りやめじゃ。向こうの親族にはワシが謝っておく、お前達はとりあえず王宮で待っててくれ」


    ゴンドロフはそう言うと、指をパチンと鳴らした。その瞬間に、イバラのより2倍はあるウィジーが1台現れた。しかもサイドカー付きだ。


   そして、ゴンドロフはウィジーに跨り、アグネロはサイドカーへ、キリナはゴンドロフの後ろに乗った。キリナのその腕は、父親をギュッと抱きしめていた。3人を乗せたウィジーは、王宮へと走り出した。

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