ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第42話 軍配

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     その後、しばらく続いた拮抗状態を打開する一手をボロボロのイバラが打つ。掌を天に向け、攻撃の姿勢をとった。


     「ハァー!これで終わらせてやる」



    (次が来る、油断できない)


    イバラの雄叫びに警戒したアグネロは、体力をかなり消耗しつつも臨戦態勢を崩さず、一切の油断を見せない。



    「超硬化水流槌ちょうこうかすいりゅうづち!」



    技を唱えたイバラの頭上には、アグネロの炎球と同じ程の大きな水のハンマーが形成されていた。


     「 終わりだー、アグーー!!!」


    イバラはそう言って、右手を100%の力で振りかざした。すると、それと同時に水のハンマーがアグネロに向かって、勢いよく振り下ろされた。その迫力、スピード、全てが今までの技とは段違いだ。


    「やべ!」


    潰されると危機を感じたアグネロは、右手を水流槌に向け唱える。


    「血炎業連弾けつえんごうれんだん


   新しい技名を唱えたアグネロの掌からは、水流槌に向かって複数の炎弾がズドズドとぶち当たっていく。燃え盛るバレーボールと言うのがイメージしやすいであろう。


    「オルァー!蒸発しやがれくそハンマー!」


    先程と同様に、炎弾が水流槌に当たる度に、その部分はジワリと蒸発していっている。


    「図に乗るなアグ、タイプなん


    イバラが、軟という言葉を口にすると、それまで硬かった水流槌の形成が解除され、大量の水がアグネロに降りかかる。


    「うわっ!こんにゃろ」


    思いっきり水を被ったアグネロは、数秒だけ顔を拭った。そしてその瞬間をイバラは見逃さなかった。一気に距離を縮め、アグネロの目の前まで現れると、振り上げた右手をアグネロの頬に豪快にねじ込んだ。


    「グワッッ!」


    イバラに殴られたアグネロは、勢いよく吹っ飛ぶと、空中で回転しまくり、地面に叩き転がった。



    会場は、イバラの逆転劇に大盛り上がり。試合のペースは完全にイバラのものとなっていった。


    「アグネロー!!負けんじゃないわよ!!早く立ちなさーい!!」


    観客席から、一際目立つ声で応援するのはヒマレだった。座席から立ち上がり、前のめりで試合を見ていた。



    「……わかってら」


    ヒマレの声が耳に届いたアグネロは、ゆっくりと膝に手を付きながら立ち上がった。



    「アグ……もう降参してくれないか。君は僕より弱い。勝てないのに戦う必要があるかい」


    「弱いのは……てめぇだろ」


    傷だらけのアグネロはイバラを睨みつけると、虚勢を張っているのか、強気な発言をした。ただその表情からは、とてつもない怒りが伝わってくる。


    「何を言ってるのさ、この試合はもう僕の勝ちだろ、君に勝ち目なんてない」


    「んなこたぁどうだっていい。てめぇが弱ぇのはハートだ……。どんなに、喧嘩が強くても、妹を守るハートの強さがなきゃ、その力は必要ねぇだろ!」



    アグネロのその言葉はイバラの胸に深く深く突き刺さり、動揺を誘った。



    「黙れ……。黙れ黙れ!アグには関係ないだろ!ナイテッド家の事にいちいち口出しするな!結婚は父さんが決めたんだ、父さんの気持ちがアグに分かるものか!キリナの結婚はキリナの為なんだ!」


    感情が抑えきれず爆発したイバラは、かなり取り乱していた。


    「そんなにキリナが心配なら、いつでもどこでも、てめぇで守ってやればいいだろっての。守る根性もねぇ、親父に歯向かう勇気もねぇ、そういう所が弱ぇってんだよ!」


    「仕方ないだろ、もう後には戻れない。僕だって何度も悩んださ。だけど、こうするしかないだろ!」



     「ぅるっせーー!!!」


    アグネロの雄叫びは、尋常ではないボリュームで会場に響き渡った。なんと、あんなに盛り上がっていた観客席が静まり返ったではないか。


    「おい、イバラ。お前の話を聞いてっとイライラすんだよ……。さっきからよ、父さんがとか、キリナの為とか、仕方ないとか……。どこを探してもよ、お前の気持ちが入ってねーじゃねーかよ」


     アグネロの言葉は、再びイバラの胸に突き刺さった。先程よりも更に深く。



    「僕の……気持ちか、考えた事もなかった。だからって、今すぐにどうしたいかなんて分からない。とりあえず今は、君を倒す、後はそれから考えるさ」


    取り乱していたイバラは、身体の力が抜けたように落ち着きを取り戻した。


    「俺の言ったこと、少しは伝わったかっての。まずは決着を付けようじゃねーの」



   「武装、タイプ激硬げきこう


    またもや先に仕掛けたのはイバラ。技を唱え、全身に水の鎧を纏わせた。序盤で見せた物よりも強力だと思われる。そして、瞬時に動き出す。



    「ウォォー!」


    イバラは、叫びながらアグネロとの距離を一瞬で詰め、みぞおちに重い一撃をぶち込んだ。


    「ガファッ!」


    イバラからの一撃をくらい、口から血を吐き出したアグネロは、ただやられるだけではなく、イバラの右腕を両手でガッチリ掴んだ。


    「捕まえたぞ……」


    「何っ!?今のをくらって」


   「血炎轟燃滅尽けつえんごうねんめつじん


    アグネロがまたも新たな技を唱えると、イバラの水の鎧に対して、炎の鎧と呼ぶべきか、轟々と燃え盛る炎が2人を包み込んだ。周りからは炎の中の様子は見えない。


    「俺は、自分の炎なら熱くもなんともねぇ。お前のその鎧が全て蒸発して消えるまで燃やし続けてやらぁ」


    「そうきたか……それならば、タイプ軟!溺琉できりゅう



    イバラの身体を覆う水の鎧が硬から軟へ性質を変え、極限まで薄くなった。そして、その水は少しずつ集まりアグネロの顔を覆った。



    「アグの息と、僕の鎧。先に限界がきた方が負けさ」


    (く、苦しい……)


    そして、燃え盛る炎の中でアグネロの顔に水槽を被さっているような奇妙な光景になった。2人は、最後の力で我慢比べを始めた。イバラの鎧はジワジワと蒸発していき、アグネロの息は段々と苦しくなっていく。




    それから3分程が経ち、遂に決着の時が来た。



    それまで燃え盛っていた炎が一瞬にして消え去り、アグネロはその場で気を失い、ぶっ倒れた。立っているのはただ1人、身体中を火傷したイバラだけだった。


    軍配はイバラに上がった。
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