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第二章
第41話 自然の摂理
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アグネロの頭上には、以前ファイに向かってぶちかました時の3倍はあるであろう特大の炎球が、轟々と音を鳴らし、燃え盛っていた。
対して、イバラの目の前には、炎球と同じ程の大きさの、水で形成された阿修羅像が悠然と構えていた。顔が3つで腕が6本も生えている。10m超えの大仏が立っている様だ。
「何よあれ……。ロイヤルブラッドの力って本当に異常ね」
ヒマレは、目の前で起きている事に驚きを隠せずにいた。そして、ロイヤルブラッドの力の凄さを改めて実感した。その横にいるキリナは、真顔で試合を見つめ、少しも動じていなかった。
「俺の魂の全てをくらいやがれ」
アグネロはそう言って、天に掲げた右手を、思いっきりイバラに向けて振り下ろした。
「阿修羅、水連撃だ。炎なんて鎮火してやれ!」
イバラも、負けじと声を張り上げ、アグネロに向かって手を突き出した。そして、メラメラと燃え盛る炎球は、阿修羅に向かって突っ込んでいき、向かってくる炎球に対して、阿修羅は6本の腕を思いきり後ろに振り上げ、パンチを繰り出した。
そして、互いがぶつかり合う瞬間、会場には耳を破くほどの轟音が鳴り響いた。
「ハァァァ!! お前なんかに負けてたまるかー!!」
アグネロはそう言うと、右手を前に挙げたまま、イバラとの距離を少しずつ詰めていく。
「舐めてもらっては困る。水が炎に負ける訳ない。自然の摂理からして、アグが僕に勝てるはずないだろ!」
だがしかし、目の前で起きている事はその逆であった。
誰もが目を疑ったが、これは現実。炎球が阿修羅を押し続け、阿修羅の姿はジワリと消滅していっているではないか。
会場が、ざわめき出す。あの男の炎はなんなんだと、何故水で消せないのかと。アグネロはそのまま少しずつ前進し、炎球は阿修羅を完全に消し去ったではないか。
そして炎球はそのまま止まることなく、イバラの元へ突っ込んでいき、イバラそのものを燃やし包もうとしていた。
「何っ!? 何故僕の阿修羅が消えて、アグの炎が生き残る。このままじゃマズイ……。武装、タイプ硬」
イバラは、炎球に飲み込まれる直前に、自らの身体に水の鎧を纏った。そして、鎧を纏ったイバラに、とてつもない衝撃で炎球が攻め込む。イバラは、両手で抑えるが、炎球の勢いは止まることはなかった。
必死に歯を食いしばり、耐え凌ぐイバラだが、ジリジリと後退し、壁際まで押されると、炎球と水壁の間に挟まり、ものすごい圧力で、潰されてしまった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
一気にフルパワーを使ったアグネロも、かなり体力を消費したようで、息を切らしていた。
次第に炎は、壁の水によって小さくなっていき、完全に無くなると、白い水蒸気が辺りを包み込んだ。
「何故だ、何故なんだ……。教えてくれよアグ……」
数十秒後、水蒸気が晴れると、中からアグネロの元へ向かって歩くイバラが出てきた。その姿は、焼かれた服に、焦げた髪の毛で、既にボロボロだった。
イバラは、水の阿修羅が、炎に力負けした事が未だに理解出来ずにいた。
「お前さ、水が上だとか炎が下だとか、決めつけんのやめろよ。どんだけ自分の力を過信してんだ、油断するなって言っただろがよ」
「僕が決めつけてるとでも言いたいのか。火は水で消える、これが自然の摂理だろ!」
「さっきから、摂理摂理ってうるせんだよ。だったら、教えてやるけどな……。水は熱で蒸発すんだぜ?」
アグネロは、疲れながらも、余裕の笑みを見せた。
「くっ、僕とした事が盲点だった……。昔、アグの炎に触れた時は、そこまでの火力は無かったはず。だが、それならば戦い方を変えるまでだ。僕は絶対に負けない」
火は水で消せるという、ごく普通の考えに縛り付けられていたイバラ。歳下のアグネロにしてやられ、プライドが傷付き、再び闘志を燃やした。
それから互いに一歩も譲らない展開が続き、十数分間の攻防が繰り広げられる。
対して、イバラの目の前には、炎球と同じ程の大きさの、水で形成された阿修羅像が悠然と構えていた。顔が3つで腕が6本も生えている。10m超えの大仏が立っている様だ。
「何よあれ……。ロイヤルブラッドの力って本当に異常ね」
ヒマレは、目の前で起きている事に驚きを隠せずにいた。そして、ロイヤルブラッドの力の凄さを改めて実感した。その横にいるキリナは、真顔で試合を見つめ、少しも動じていなかった。
「俺の魂の全てをくらいやがれ」
アグネロはそう言って、天に掲げた右手を、思いっきりイバラに向けて振り下ろした。
「阿修羅、水連撃だ。炎なんて鎮火してやれ!」
イバラも、負けじと声を張り上げ、アグネロに向かって手を突き出した。そして、メラメラと燃え盛る炎球は、阿修羅に向かって突っ込んでいき、向かってくる炎球に対して、阿修羅は6本の腕を思いきり後ろに振り上げ、パンチを繰り出した。
そして、互いがぶつかり合う瞬間、会場には耳を破くほどの轟音が鳴り響いた。
「ハァァァ!! お前なんかに負けてたまるかー!!」
アグネロはそう言うと、右手を前に挙げたまま、イバラとの距離を少しずつ詰めていく。
「舐めてもらっては困る。水が炎に負ける訳ない。自然の摂理からして、アグが僕に勝てるはずないだろ!」
だがしかし、目の前で起きている事はその逆であった。
誰もが目を疑ったが、これは現実。炎球が阿修羅を押し続け、阿修羅の姿はジワリと消滅していっているではないか。
会場が、ざわめき出す。あの男の炎はなんなんだと、何故水で消せないのかと。アグネロはそのまま少しずつ前進し、炎球は阿修羅を完全に消し去ったではないか。
そして炎球はそのまま止まることなく、イバラの元へ突っ込んでいき、イバラそのものを燃やし包もうとしていた。
「何っ!? 何故僕の阿修羅が消えて、アグの炎が生き残る。このままじゃマズイ……。武装、タイプ硬」
イバラは、炎球に飲み込まれる直前に、自らの身体に水の鎧を纏った。そして、鎧を纏ったイバラに、とてつもない衝撃で炎球が攻め込む。イバラは、両手で抑えるが、炎球の勢いは止まることはなかった。
必死に歯を食いしばり、耐え凌ぐイバラだが、ジリジリと後退し、壁際まで押されると、炎球と水壁の間に挟まり、ものすごい圧力で、潰されてしまった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
一気にフルパワーを使ったアグネロも、かなり体力を消費したようで、息を切らしていた。
次第に炎は、壁の水によって小さくなっていき、完全に無くなると、白い水蒸気が辺りを包み込んだ。
「何故だ、何故なんだ……。教えてくれよアグ……」
数十秒後、水蒸気が晴れると、中からアグネロの元へ向かって歩くイバラが出てきた。その姿は、焼かれた服に、焦げた髪の毛で、既にボロボロだった。
イバラは、水の阿修羅が、炎に力負けした事が未だに理解出来ずにいた。
「お前さ、水が上だとか炎が下だとか、決めつけんのやめろよ。どんだけ自分の力を過信してんだ、油断するなって言っただろがよ」
「僕が決めつけてるとでも言いたいのか。火は水で消える、これが自然の摂理だろ!」
「さっきから、摂理摂理ってうるせんだよ。だったら、教えてやるけどな……。水は熱で蒸発すんだぜ?」
アグネロは、疲れながらも、余裕の笑みを見せた。
「くっ、僕とした事が盲点だった……。昔、アグの炎に触れた時は、そこまでの火力は無かったはず。だが、それならば戦い方を変えるまでだ。僕は絶対に負けない」
火は水で消せるという、ごく普通の考えに縛り付けられていたイバラ。歳下のアグネロにしてやられ、プライドが傷付き、再び闘志を燃やした。
それから互いに一歩も譲らない展開が続き、十数分間の攻防が繰り広げられる。
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