ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第39話 いざ出陣

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 ___翌朝7時。遂に決闘の日が来た。そんな事とは知らない太陽が、窓の外から眩しい光を注ぎ込み、鳥たちは楽しそうに歌っている。そして、3人とも自然のアラームで目を覚ました。

    ってか寝すぎじゃね?まぁ良いか。疲れているということにしておこう。


    「おはよう、ヒマレ、キリナ。よく眠れたか?俺は寝違えたぜ」


     ソファで何時間も寝続けたアグネロはその場で立ち上がると、首を押さえながらそう言った。


    「そりゃ、ソファで座りながら寝てたからね。ごめんなさいね、今日戦うのに」


     そう答えたのは、ヒマレだ。ヒマレとキリナもベッドから出て、思い切り背伸びをした。そして、ヒマレはメイクルームへ顔を洗いに行った。


    「ネロちゃん……無理しないでね。お兄ちゃんは、強いから」


    「ああ、分かってる。キリナは何も心配するな。俺が勝って、お前を自由にしてやる、それだけだ!」


    アグネロは、笑顔でそう答えた。そして、その笑顔に安心しているキリナだった。


     「うん、信じてるからね。負けたら許さないぞ!」


    「おう、任せとけ。モズク闘技場ごと吹っ飛ばしてやる!」


    「コンブね」


    コンブをモズクと間違えるアグネロに勝機はあるのだろうか。だが、アグネロと話している時のキリナは心の底から楽しそうである。


    「とりあえず、昨日話せなかったことを話します。お兄ちゃんのスタイルについて。2人共座って」



    キリナはそう言って、ベッドの昨日と同じ位置に腰を下ろした。アグネロと顔を洗い終えたヒマレも、同様に座った。


    「スタイルたって、水を使う事ぐらい知ってるし、他になんかあんのか?」


    「いいから聞いて。ウチらナイテッドが、水の血法を使うのは知ってるよね。お兄ちゃんはその中でも、形成を得意とする戦法」


    「形成?」


    キリナの隣に座るヒマレは、不思議そうに尋ねた。


    「うん、形成。お兄ちゃんとは逆に、ウチは波動というスタイル。簡単に言うと、波動は水を飛ばしたりして、大きな衝撃を与える戦い方の事を言うの」


    「俺は炎だから分かんねーけど、多分その波動スタイルだな」


    「その通りだと思う。攻撃血法には、属性関係無く、基本的には波動と形成のどちらかのスタイルに分かれる。お兄ちゃんは、水を使って何かの物を作り出す。例えば、水の剣、水の鎧、水のバイク、そういった水で作り出した道具で戦うのが得意。逆に、衝撃波を飛ばしたりするのは威力やコントロール共に苦手なはず」


   「なるほどね、同じ血法でも使い方はそれぞれなのね」


   「確かに、イバラはそんな感じかもな。昔の記憶だと、水のミニカーとか作って遊んでたわ」


    アグネロは、キリナの説明を聞いて、イバラの血法の使い方を再確認した。


    「そして、お兄ちゃんの弱点と思われる所が1つ」


    「あいつに弱点なんてあんのか!?」


    「うん、あるよ……。お兄ちゃんの弱点はね、実戦経験が極めて少ないってこと。恐らく経験値で言えば、ネロちゃんの方が勝ってるはず。その経験の差をどう活かせるかが、ポイントになってくると思うよ」


    「へぇー、なんかキリナちゃん、かなり分析してて凄いわ。観察力高い」


    「まあね、外に出れない分、家の事ばかり気にしてたからね!」


    キリナはそう言って、グーサインをした。


    「イバラ、まだ王宮の中にいるかな……。今から戦う奴が、同じ屋根の下にいるって、なんか変な感じだな」


    アグネロは、やはり心の片隅の方に、イバラを思う気持ちがあるのかもしれない。本当にこれで勝てるのだろうか。



    「さっ、準備が出来たら行こう。ウチの人生の岐路へと!」


    キリナは、そう言ってベッドから勢いよく立ち上がった。2人のおかげでかなり前向きになれたみたいだ。


    「キリナちゃん、自分の人生が掛かってるのに、随分と前向きね。なんだか、かっこいいわ」


    「あたぼうよ!ネロちゃんが絶対に勝つって約束してくれたから、自由になるのが楽しみで仕方ないぜ!」


    「よっしゃあ、そうと決まれば、行くか!ワカメ闘技場に!」


    「「コンブ!」」


    威勢よく立ち上がったアグネロに、2人のツッコミはキレッキレに決まった。今この部屋には、とても良い空気感が出来ている。ただ、アグネロはマジでわざとやってる?


    そうして3人は準備を済ますと、部屋を後にし、エレベーターで1階に降り立つと、勇み足で王宮を出ていった。


    今日のアグネロは特に勇ましく見える。守る者が出来るとアグネロは力を発揮する、そういうタイプなのだ。外に出たアグネロからまず一言どうぞ。


    「んで、コンブ闘技場はどっちだ」


    勇ましく思えたアグネロだが、やる気が空回りしそうなところは通常運転である。


    「闘技場は、ここから西に15分ぐらい歩けば着くから、ウチに付いてきて。 それでね、お父さんの事だから、もしかしたら、ギャラリーが沢山いるかも」


    そうして、3人は闘技場に向かって歩みを進めた。


    「なんだギャラリーって、宝石か?」


    アグネロはやはり通常運転だ。


    「本当に馬鹿ねあんた。それはジュエリー。あんたとイバラの試合を、野次馬がぞろぞろ見に来るかもってことよ」


    呆れるヒマレは、わかり易く説明してあげた。


    「そゆこと、ありがとうヒマレ。だから、ネロちゃんは完全なるアウェイの中で戦う覚悟をしといて」


    「おう、任せとけ!で、アウェイってなんだ?」


    「はぁ、先が思いやられるわ本当」


    ヒマレはアグネロのアホっぷりにため息が止まらないのであった。緊張感がまるでない、こんなんで良いのか。キリナの人生がかかってるというのに。


    「この街の人達は皆、お兄ちゃんの味方ってことだよ。だから、戦いにくいかもしれない」


    「味方つっても、手出しする訳じゃないだろ? 」


    「そりゃそうだよ、あくまでも2人の決闘だから、手は出さないけど、声援はお兄ちゃんに持っていかれるし、ネロちゃんには野次が飛ぶ可能性もあるよ」


    「声援も野次も心配いらねぇよ。そんなんで、俺は負けねぇし、俺にはヒマレとキリナの声援があれば、それだけで力になる」


    アグネロは、清々しい表情でそう言うと、右手で拳を握った。


    「あらあんた、たまには良い事言うじゃないのよ。見直したわ」


    「えっへん!だから、ヒマレとキリナは精一杯応援してな!」


    「「うん!」」



    アグネロの呼びかけに、ヒマレとキリナは声を揃えて、笑顔で返事をした。
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