ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第36話 水ゼリー

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    3人は、4人掛けのテーブル席へ案内されると、アグネロとヒマレは隣に座り、キリナは向かい側に腰を下ろした。


    「なぁ、キリナ。実はお前に謝らなきゃいけないことがあるんだ」


    神妙な面持ちで、切り出したのはアグネロだ。



    「どうしたの、ネロちゃん」


    「お前の結婚を無しにしてくれってお前の父ちゃんに頼んだ。そしたらイバラと戦って、勝ったら許してくれる事になってさ……。俺我慢出来なくてよ。ごめん、勝手な事して」


    「えおえおあぁー!そっかそっか!ありがとう、ネロちゃん……。急展開で少しビックリだけど、ウチは、どんな結果でも飲み込むから!それは、ネロちゃんがウチの為にしてくれた事だもん、今更責めたりしないぜ!」



    「キリナ……」


    頭を下げるアグネロに対し、キリナは笑顔で答えた。アグネロは、予想外の答えに驚きながらも、キリナの心の広さに惹かれていた。キリナも同様に、アグネロのまさかの行動に驚きと嬉しさと複雑な気持ちが葛藤したが、アグネロの優しさに惹かれた。


    「キリナちゃん、私は部外者だから余計な事は言って嫌な気持ちにさせたら申し訳ないんだけど、自由を奪われる苦しみは痛い程分かるよ。確かに、アグネロとイバラが戦わなきゃいけないのは悲しいけど、キリナちゃんはたまにぐらい、自分の気持ちを尊重してあげても良いんじゃないかな」


     ヒマレは、キリナの目をじっと見つめ、温かい表情でそう諭した。


    「うん、ありがとうヒマレさん。どっちが傷付いても嫌だけど、やるからにはネロちゃんに勝ってもらわなきゃね、 ウチは自由になるのだ!」


    「その意気だ、キリナ!あとは俺に任せとけっての!もしもの時は、ヒマレの能力でイバラを助けてやるから、心配すんな!」


    「そうよ、キリナちゃん!こう見えても私もあなたと同じロイヤルブラッドなのよ!しかも治癒能力!何故かは良く分からないけどね」


    「ヒマレさん、治癒の血法使うの!?すごーい!もしも、2人がボロボロになったらよろしくね」


     キリナは、ヒマレの能力に驚きながらも、アグネロとイバラが傷付いた時の治療を頼んだ。



    「今日は、俺の奢りだ!好きな物頼めーい」


    アグネロは、懐の深さを見せつけると、テーブルの上にメニューを広げた。


    「わーい、ネロちゃん太っ腹!じゃあウチは、ケチャカツ丼」


    「俺も!」


    キリナは、メインメニューのページのケチャカツ丼を指さした。それに乗っかって、アグネロは手を挙げた。


    「ケチャカツ丼がメニューにあるの!?」



     「当たり前だよヒマレさん。定番じゃん」



     「そうだぞ、ヒマレ。お前もタクシーの中で食ったろ」



    「定番なのっ!?私、タクシーの中で初めて耳にしたし、口にしたわよ」


    ヒマレは、以前に初めて食べたケチャカツ丼がメジャーな物だと知り、驚いた。そりゃそうだ。


    「いいから、どうすんだよ。早く決めろ」


    「じゃあ、私もケチャカツ丼で」


    「「結局かい!」」



     そうして、注文を終え、数分後にケチャカツ丼が3つ運ばれてきた。


      「うわー、美味そう」


    アグネロは、目の前に運ばれてきた、ケチャカツ丼のタレの香りとケチャップの酸味に、ヨダレを垂らしていた。


     「それじゃあ、明日のアグネロの勝利を願って、勝負にカツ!と言うことで……いただきます!」


    「「いただきます!」」


    ヒマレの号令を合図に、3人は箸を進めた。ガツガツと丼にかじりつく様子は、なんだかとても和ましかった。そこへ、ウェイターさんがカートを押しながら寄ってきた。


    「失礼致します。こちら、サービスの水ゼリーでございます」


    ケチャカツ丼にがっつく3人の目の前に、水郷街名物の水ゼリーが運ばれてきた。


     「「「あひやほうほはいはふ!」」」


    3人は、口いっぱいにご飯を詰め込みながらお礼を言った。


    いち早く食べ終えたアグネロは、目を輝かせながら、スプーンを持ち、水ゼリーを一口食べた。


    「う、うまい……信じられねーぐらい水だ。それなのになぜこんなに甘いのか」


    水ゼリーに魅了されたアグネロは、一口、もう一口と食べ進め、あっという間に完食した。


    その頃合で、ヒマレとキリナもケチャカツ丼を食べ終え、水ゼリーを口に運ぶ。


    「何よこれ……この世の食べ物なの……。口の中で香りだけ残して消えたわ」


    「本当に美味しいよね、ウチも初めて食べた時の衝撃は忘れられないよ。これは、この街でしか食べられないからね」


    それから夢中で食べ続ける2人は、同じタイミングでゼリーの皿を空にした。


     「「「ごちそうさまでした」」」


    3人は、合掌しながら、食材とシェフに感謝の気持ちを述べた。そして、会計を済ませ、店を後にした。
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