ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第34話 葛藤

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    数十分走行し、楽しんだ後に2台のウィジーは、王宮の前まで到着していた。そして、3人ともウィジーから降ると、イバラは、2台のウィジーのシート部分を軽く叩いた。


    【還元!】


    イバラが、還元と言うとウィジーが、シュルシュルと形を崩し、イバラの手の中へと戻っていった。


   「戻るの!?   凄いわねぇ」


   ヒマレは、またもや目の前で起きている事に驚きを隠せなかった。


    「ああ、血は水から出来ているから、1度出した水も、戻して再び血として再生出来るのさ。この点は、アグより強いかもね」


   「なるほどー。本当に凄い」


    「そんなに褒めないでくれよ。あんまり褒めると、僕はまた君を怒らせる言葉を言ってしまいそうになるよ」


    イバラは、ベタ褒めするヒマレに、愛という言葉をかけたくてうずうずしていた。


    「はいはい」


    「と、とりあえず中に入ろう」


    イバラは、変な汗を大量にかきだし、動揺を隠そうとした。そして、3人は王宮へ入っていった。


    「チサキ、自分の部屋に戻るかい?    それとも、父さんの所にいくかい?」


    エレベーターに向かいながら、イバラはチサキに問いかけた。


    「じぃじに、ただいまする!」


    「そっか、チサキは本当に父さんが好きだね」


    「うん!大好き!」


    そんな会話をしているうちに、エレベーターの前まで到着すると、イバラは上の階のボタンを押した。


    そして、数秒して扉が開くと、3人はエレベーターに乗り込み、ゴンドロフの部屋がある10階へと向かった。


    「じぃじにただいま♪じぃじにただいま♪」


    チサキが鼻歌を奏でると、数秒でエレベーターは10階まで到達し、扉が開くと一目散にチサキが飛び出して行った。


    「チサキ、走ったら危ないよー」


    イバラの呼びかけに、聞く耳も持たず、チサキはゴンドロフの部屋へと駆けていった。


    「チサキちゃん、本当に元気ね」


    「あぁ、父さんがチサキだけは絶対に幸せにするって、大事に大事に育ててるから、あんなにおおらかな子になったんだよ、きっと」


    「そっか……」



    どこか遠くを見つめるように、チサキの事を語るイバラの表情を見て、ヒマレはこれ以上触れてはいけない、そう感じた。


    そうして、イバラとヒマレもゴンドロフの部屋の前まで着いた。イバラが、部屋の扉をノックしようとしたその時、部屋の中から、男の叫ぶ声が聞こえた。


    「お願いします、この通りです!」


    どうやらアグネロの声のようだ。その声を聞いたイバラはすぐに扉を開けると、ヒマレと一緒に中へ入っていった。


    そして、イバラの目線の先に映りこんだのは、ゴンドロフに向かって土下座するアグネロだった。


    「何やってるんだ、アグ! 父さんも何させてるの!」


    イバラはそう言うと、アグネロの元へと駆け寄り、右腕を掴んで体を起こさせた。


    「この馬鹿者が、生意気にキリナの結婚を取りやめろって言ってきやがったんじゃ!」


    ゴンドロフの顔は額に血管が浮き出る程、怒っていた。そして、その横で話が何も分からないチサキがゴンドロフの事を見ていた。


    「アグ、本当かい?」


    イバラは、アグネロの顔をじっと見つめて真顔で問いかけた。


    「おう、本当だ」


    「僕は、余計な詮索はするなって言ったよね……キリナに会ったのか!?答えろアグ!」


    真顔だったイバラは、ゴンドロフと同じ程に熱くなり、アグネロを責め立てた。


    「会ったよ……あいつ、たった1人で苦しんでたんだぞ。お前ら家族が、ちゃんとあいつの気持ち考えてやらねーからだろ!」


    アグネロも、抑えていた感情を露わにして、ゴンドロフとイバラに訴えた。


    「もう一度言ってみろアグ。部外者のお前に何が分かるんだ!これは、父さんがキリナの為に決めた事だ!これ以上父さんの事を悪く言ったら、いくらアグでも許さないからな!」


    「何度でも言ってやらぁ!この自己中クソ親父に、ファザコン兄貴が!」


    「テメェ……」


    アグネロの悪意のある発言に対し、イバラは今にも殴り掛かりそうだ。


    「まぁ待て。それなら、お前らで決闘してもらおうじゃないか。そんでじゃクソ小僧、お前がもしイバラに勝てたら、お前の条件を飲んでやる。だがもし負けたら、一生ここで働け」

    ゴンドロフは、沸騰した感情を少し抑え、アグネロに条件を呈した。


    「望むところじゃねぇか……俺は昔の俺とは違うぜ。こんな王宮のお坊ちゃまに負ける訳ねぇ」


    「言ってくれるな……いいかいアグ、僕はいくら相手がアグだろうと、家族を悪く言う奴は絶対に許さない」


     睨み合う2人の間には、バチバチに電気が走っていた。


    「ちょっと待ってよ2人とも!あんた達が喧嘩するなんて、おかしいわよ!あんなに仲良かったのに……何があってもアグの味方って言ってたじゃない!」


    ヒマレは、涙目になりながら必死に説得した。ただ、その声虚しく、興奮状態の2人の耳には入っていかないようだ。


    さっきまで、笑っていたチサキも、決して良くない雰囲気であることは感じ取り、泣きそうな顔になっていた。



    「時間は明日の午前10時、場所はコンブ闘技場じゃ!クソ小僧、逃げるなよ」


    「誰が逃げるかってんだ。おいヒマレ行くぞ」


    怒ったままのアグネロは、ヒマレの手を引き部屋を出ていった。


    「父さん、僕は絶対に負けませんよ。僕がアグなんかに、負ける訳がない」


    「お前はワシの血を引く、ロイヤルブラッドじゃ。あんな炎のガキなんざ、鎮火してやれ」


    「わかってるよ。 それじゃあ、僕も部屋に戻る……チサキ、驚かしてごめんよ。じゃ」


    怖がるチサキに気を遣ったイバラは、ゴンドロフに背を向け、部屋から出ていった。そして、エレベーターで11階に上り、自分の部屋に入るとベッドへ倒れ込んだ。


    「僕は……何がしたいんだ」


    悔しさなのか、悲しさなのか、自分の中の葛藤と戦うイバラは、そう呟いてただ一点を見つめていた。
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