ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第32話 ヤケクソとの再会

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___翌朝。外の天気は快晴、ギラギラと照り付ける太陽が窓から差し込み、とても良い1日の始まりだ。最初に目を覚ましたのはアグネロだ。意外だわ。


「あーお腹すいたなぁ」 



    理由は意外じゃなかった。



「起こすのもアレだし、どっか行くか。腹が減ってはなんとかって言うし、ご飯は早く食べた方が良い!」


    なんか変なことを言ってるアグネロは、2人を起こさずに部屋を出ると、エレベーターで1階に降り、外へと出て行った。



「あそーだ!銀行に行かなきゃなんだった!どっかにあるかな」


    キョロキョロと周りを見渡しているアグネロは、その辺に歩いているオジサンを見つけ、話しかける。


「あのーすいません、近くに銀行ってありますか?」


「この道を真っ直ぐ行って、2つ目の交差点を右に曲がると着くよ。歩いたら15分ぐらいかな」


「おっ、オジサンありがとう!助かった!」


    ちょっと本当に理解したか心配だけど、オジサンの言う通りに歩みを進めるアグネロ。


「ペルペルリン~♪ペルペルリンリン~♪Yo!俺の花嫁っ♪」


    訳分からない歌を口ずさみながら歩くこと15分、街の住民に変な目で見られながらもちゃんと銀行に着けたアグネロだった。偉い偉い。

    入口から中へ入ると、目線のすぐ先にあるATMのような機械まで進み、なにやらいじり始めた。



  「カードの再発行っと……カードに新機能なんて付いたんだ……よく分かんね」


    アグネロは、慣れない手つきで機械を操作していた。そして、一通り入力し終えると機械からレッドカードが飛び出してきた。


   「お、出てきた。これでよしと」


    アグネロはレッドカードを受け取り、ズボンの右ポケットにしまった。そんな所に入れるから失くすのである。


     そして、店を出ようとしたその時だった。


    「やめてください!」


    何やら窓口の方で騒ぎが起きていた。銀行員の女が大声で叫んでいた。


    「んあ?   なんだ、なんだ、強盗か?」


    アグネロは、騒ぎのする方へ視線を向けた。


    「やめてください、ナイテッド様!」


  銀行員の口から出たのはナイテッドの名だった。


    「早く、ありったけのお金をこのバックに詰めなさい!   さもないと、ここの全員を殺しますよ!」



    そう叫びながら、バッグを窓口の銀行員へと押し付けているのは、女だった。青い髪の女だ。


    「おい、お前!何やってんだ!」


    アグネロはそう言うと、一瞬で青髪の女に距離を詰め女の腕を掴むと、顔を覗いた。


    「何やってんだ、おま」


   アグネロは、口を半開きにさせて固まった。


    「え……ネロちゃん?」


    女は驚いた表情で口を開いた。



    「あ、ああ、ネロちゃんだ。お前、こんな所で何してんだキリナ」



    女は、イバラの妹のキリナだった。



    それから、キリナを落ち着かせたアグネロは、銀行に居る人全員に頭を下げ、騒動はどうにか収まった。


    そして、アグネロがキリナの手を引きながら、2人は銀行を出て行った。



     「お前、何やってんだよ!王家の人間が金に困る訳ないだろ!とりあえず、話聞かせろ!  行くぞ!」


    アグネロは、ヒートアップしていた。そして5分ほど歩き、銀行に来る間に見つけた、お洒落なカフェへと入っていった。


    そして2人は、向かい合わせで、テーブル席に着き、アイスコーヒーを2つ注文した。


    「さてと……キリナ、お前昔と変わんねーな。顔みてビックリしたぜ。んで、なんで強盗なんかしたんだ?」


    アグネロは、キリナの顔をじっと見つめて問いただす。


    「ネロちゃん……久しぶりに会えたのに、こんなとこ見られちゃって。ウチ、最低だね……ヤケクソになってたの。もうこんなつまんない人生から逃げたくて」


    キリナは、アグネロから視線を逸らし、俯きながら答えた。


    そしてアグネロは、イバラに言われた事が脳裏をよぎった。それは詮索してはいけないということ。


    「ヤケクソになる程嫌な事でもあったのか?ネロちゃんが聞いてやるよ」


    そこへ、アイスコーヒーが運ばれてきた。そして、キリナはアイスコーヒーに手を掛け、グビグビとビールを飲むように一気飲みすると、グラスをテーブルに力強く置き、アグネロの目を見つめた。


   「ネロちゃん、私ね……結婚するの!!」


    「はぁ!?     結婚!!??」


    アグネロは目が飛び出る程に驚いた。


    「うん……結婚」


    「結婚ってお前、まだ16だろ!? さすがに早すぎるだろ」


    アグネロの驚く大声に周りのお客さんもビックリして、2人を見ている。


    「そうだよね。ウチも結婚なんてしたくないよ。でもこれは、お父さんが決めた事だから」


    「なんだよそれ、親に結婚相手を決められて、好きでもねー奴と一緒になるのか!? お前はそれでいいのかよ!」



    「仕方ないよ、お父さんの言ったことは絶対だから……ウチだって、好きな人と結婚したいし、外の世界にも遊びに行きたいよ」


    キリナの瞳は、潤んでいた。涙を、感情を必死に堪えているようだ。


    「それで、ヤケクソになって強盗をしたって訳か……そんな事しても意味ないだろってのに。んで、その外の世界ってなんだよ」


    「悪い事して、騒ぎを起こせば、誰もウチを嫁に貰ってくれないっていう安易な考えでやりました……。外の世界は、この街の外へ出て色んな所に行ってみたいってこと」


    「この街から出たいって、昔俺と遊んでた時は、何度も脱走したじゃねーか」


    「あの頃はね……。お姉ちゃんが死んじゃってから、ウチはこの街の外に出てない。もう5年もだよ。式を挙げたら、ウチはもう好きでもない人に尽くさなきゃいけない。自由なんてなくなる。抗いたいけど、心の何処かでは諦めてた。だって相手がお父さんじゃ、何言っても聞かないもの」


   「なんでだよ、あのクソ親父。ひでぇ奴だな。んで、いつ結婚すんだ」


    「あさってだよ」


    「あさってぇえー!!??」


    アグネロは、再び目ん玉を飛び出して驚いた。そして、更に大声を出すアグネロを見る周りの目がどんどんきつくなっていた。


  「本当は辛いよウチ……」


    「キリナ……」


    アグネロは、なんて言葉をかけたら良いのかが分からずにいた。



    「それなのに……それなのに、なんでこんな時にネロちゃんは、ウチの目の前に現れるんだ……ネロちゃんの顔見ちゃったらさ……昔みたいに、どうにかしてくれるんじゃないかって、希望を持っちゃうじゃん」


    キリナは、堪えていた涙を雨のようにこぼした。


    「よし、わかった。キリナ、俺がなんとかしてやる!だからもう泣くな!俺を信じろ!」


    アグネロは、キリナの頭を撫でながら仏のように温かい笑顔で宣言した。


    「うん……ありがとう。ウチ、ネロちゃんを信じる!やっぱネロちゃんはウチのヒーローだ!」


    キリナは、俯く顔を上げ、泣き腫らした目のまま笑った。


    「さて!それじゃあ、とりあえず帰るとするか」


   そうして、アグネロは、再発行したてのレッドカードで支払いを済まし、2人は店を後にした。



    「あっそうだ!ウチ、オアシスに行かなきゃいけないんだった。前からチサキと遊ぶ約束しててさ。あっチサキって姪っ子なんだけど、あの子最近前もって約束してからの現地集合にハマってて、2回に1回はすれ違って合流出来ないのよね。ネロちゃんも来る?」  


「なんだオアシスって。チサキなら昨日会ったぞ、お前にそっくりで、ちっちゃくて可愛かったな!悪ぃけど俺はちょっと行くとこあるから、時間があったら後で行くよ」


「了解です!それじゃあまたね」



 先程再会したばかりの2人は、それぞれの目的の為にここで別れる。お互いに背を向けて歩いていった。

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