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第二章
第28話 王子様
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白を基調とした、綺麗な家が軒並み続いている。住宅地を見ただけでも、街の住みやすさが感じられ、水郷街はかなり栄えている街だと分かる。
「綺麗な街並みねー、まさか私がこんな素敵な街の王様の運転に乗ってるとは」
「ん?僕は王様じゃないよ。僕はこの街の王子様。王様は僕の父さんさ」
「あ、そっか。アグネロが唯一のバロンドームだから、勝手にイバラもそうなのかと思っちゃったの、ごめんね」
ヒマレは申し訳なさそうにそう言うと、とある事が頭によぎった。それは、アグネロの家族の事である。アグネロが、7歳の時までは父親は存在したが、今は亡くなっていると予測がついた。
「アグのお父さんは、アグが12歳の時に亡くなってるから、それからずっと独りぼっちだったんだ。だから、すごく寂しい思いをしてきたと思うよ。お母さんも3歳の時に病気で亡くしてるしね」
「そうなんだ……。私、アグネロの事何も知らなかった。それなのに、アグネロはいつも元気で、他人の為に一生懸命で……。頼ってばかりじゃなくて、私も何か役に立たなきゃ」
ヒマレは、隣で呑気に寝ているアグネロの過去を全く知らなかった。その過去は、とても辛く寂しいものであった事が分かり、これまでたった1人で歩んできたアグネロの力になりたいと強く感じた。
「でもね、ヒマレちゃん。自分を責めてはいけないよ。現に、アグは君と一緒に居る。それは、アグにとって君が必要不可欠な存在だからなんじゃないかな。だから、決して焦ってはいけない、今ヒマレちゃんに出来ることを1つずつやっていけばいんだよ」
「うん、ありがとう」
自分を追い込もうとしていた、ヒマレに、イバラは優しく声をかけた。その言葉はヒマレの胸の中へと温かく溶け込んだ。それから住宅街を抜けると、王宮が目の前まで迫っていった。ド迫力が尋常ではない。
「王宮ってすごいわね。もちろんだけど、イバラはここに住んでるのよね」
「当たり前だよ、僕は一応王子様なんだから、君を姫に迎え入れても良いよ?」
「結構です」
ヒマレのイバラに対する温度差も尋常ではなかった。
そして、車は王宮の玄関の前へと到着した。玄関といっても、そんじょそこらの家のものとは別物だ。車のまま入れそうな程に大きな玄関だ。もちろん、観音開きの2枚扉である。
「おい、アグ! 着いたぞ、起きて!」
イバラは、運転席から後ろを振り返り、アグネロを起こす。
「んぁ? もう着いたのか。ふぁーあ、よく寝た」
アグネロは、気持ちよさそうに背伸びをして、大きな欠伸をした。
「よく眠れた? 良かったわね。さっ、早く降りましょう」
にこやかにアグネロに話すヒマレ。普段なら、寝すぎとか、呑気とか、罵声の1つや2つ、浴びせるヒマレだが、家族の事を知ってからか、強く当たれなかったのだ。
そして、3人は車を降りた。そこに、メイド服を着た若い女が、駆け寄ってきた。
「「でけーー」」
アグネロと、ヒマレは王宮を見上げて、開いた口が塞がらない。アグネロに関しては、初めてではないのにだ。
「おかえりなさいませ、イバラ様」
メイド服の女は、見るからにして、この王宮に仕えるメイドである。イバラより、歳は上に見えるが、しっかりと、敬語を遣っている。
「あぁ、ただいま。悪いんだけど、この車、ガレージまでお願いできる? 自動操縦にしといたから」
「はい、かしこまりました。御二方は、イバラ様のご友人でいらっしゃいますか? ごゆっくり休んでくださいね。では失礼致します」
メイドの女は、アグネロとヒマレに頭を軽く下げ、車に乗り込んだ。
「「さすが、王子。格が違う」」
アグネロとヒマレは、なんだか息が揃っている。
「それじゃあ、入ろうか」
イバラはそう言って、玄関を開け、2人を王宮の中へと招き入れた。
「綺麗な街並みねー、まさか私がこんな素敵な街の王様の運転に乗ってるとは」
「ん?僕は王様じゃないよ。僕はこの街の王子様。王様は僕の父さんさ」
「あ、そっか。アグネロが唯一のバロンドームだから、勝手にイバラもそうなのかと思っちゃったの、ごめんね」
ヒマレは申し訳なさそうにそう言うと、とある事が頭によぎった。それは、アグネロの家族の事である。アグネロが、7歳の時までは父親は存在したが、今は亡くなっていると予測がついた。
「アグのお父さんは、アグが12歳の時に亡くなってるから、それからずっと独りぼっちだったんだ。だから、すごく寂しい思いをしてきたと思うよ。お母さんも3歳の時に病気で亡くしてるしね」
「そうなんだ……。私、アグネロの事何も知らなかった。それなのに、アグネロはいつも元気で、他人の為に一生懸命で……。頼ってばかりじゃなくて、私も何か役に立たなきゃ」
ヒマレは、隣で呑気に寝ているアグネロの過去を全く知らなかった。その過去は、とても辛く寂しいものであった事が分かり、これまでたった1人で歩んできたアグネロの力になりたいと強く感じた。
「でもね、ヒマレちゃん。自分を責めてはいけないよ。現に、アグは君と一緒に居る。それは、アグにとって君が必要不可欠な存在だからなんじゃないかな。だから、決して焦ってはいけない、今ヒマレちゃんに出来ることを1つずつやっていけばいんだよ」
「うん、ありがとう」
自分を追い込もうとしていた、ヒマレに、イバラは優しく声をかけた。その言葉はヒマレの胸の中へと温かく溶け込んだ。それから住宅街を抜けると、王宮が目の前まで迫っていった。ド迫力が尋常ではない。
「王宮ってすごいわね。もちろんだけど、イバラはここに住んでるのよね」
「当たり前だよ、僕は一応王子様なんだから、君を姫に迎え入れても良いよ?」
「結構です」
ヒマレのイバラに対する温度差も尋常ではなかった。
そして、車は王宮の玄関の前へと到着した。玄関といっても、そんじょそこらの家のものとは別物だ。車のまま入れそうな程に大きな玄関だ。もちろん、観音開きの2枚扉である。
「おい、アグ! 着いたぞ、起きて!」
イバラは、運転席から後ろを振り返り、アグネロを起こす。
「んぁ? もう着いたのか。ふぁーあ、よく寝た」
アグネロは、気持ちよさそうに背伸びをして、大きな欠伸をした。
「よく眠れた? 良かったわね。さっ、早く降りましょう」
にこやかにアグネロに話すヒマレ。普段なら、寝すぎとか、呑気とか、罵声の1つや2つ、浴びせるヒマレだが、家族の事を知ってからか、強く当たれなかったのだ。
そして、3人は車を降りた。そこに、メイド服を着た若い女が、駆け寄ってきた。
「「でけーー」」
アグネロと、ヒマレは王宮を見上げて、開いた口が塞がらない。アグネロに関しては、初めてではないのにだ。
「おかえりなさいませ、イバラ様」
メイド服の女は、見るからにして、この王宮に仕えるメイドである。イバラより、歳は上に見えるが、しっかりと、敬語を遣っている。
「あぁ、ただいま。悪いんだけど、この車、ガレージまでお願いできる? 自動操縦にしといたから」
「はい、かしこまりました。御二方は、イバラ様のご友人でいらっしゃいますか? ごゆっくり休んでくださいね。では失礼致します」
メイドの女は、アグネロとヒマレに頭を軽く下げ、車に乗り込んだ。
「「さすが、王子。格が違う」」
アグネロとヒマレは、なんだか息が揃っている。
「それじゃあ、入ろうか」
イバラはそう言って、玄関を開け、2人を王宮の中へと招き入れた。
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