ロイヤルブラッド

フジーニー

文字の大きさ
上 下
24 / 51
第二章

第23話 花火

しおりを挟む
「僕もう焦ったよーガロ君」


 アグネロを撃ったキャスという男は、小柄で若い青年だ。おかっぱ頭で可愛らしい印象である。少しづつ、ガロの元へと歩いている。


「ていうか、お前なにやってたんだよ」


「いやー、そこで倒れてる男を乗せたんだけど、そいつ睡眠ドリンクを飲んだフリして寝る演技よ。わざとここまで来たんだよ。んで、着いたら急にムクっと起きて、逆に僕が無理矢理飲まされて寝てました。ごめんね」


「本当に馬鹿だなてめぇは」


 キャスは倒れるアグネロとヒマレの横を通り過ぎ、ガロの側に近付いた。そして、倒れているバゲットを見つけるやいなや指を差して笑い出した。


「あれれ~、バゲ君伸びちゃってるやん。弱いねぇ。で、ガロ君も殺られそうだったよね」


「うるせぇよ。眠らされてだろうがてめぇは。俺はまだ一発しか食らっ」


 何故か急に喋りが止まったガロ。一瞬の出来事だったが、キャスがサイレンサーピストルで左の胸を撃ち抜いたのだった。アグネロを撃った銃とは別のもののようだ。


「あれれ~、ガロ君も弱いねぇ。バイバイ」


「てめぇ……」


 どういう事か仲間割れを起こした2人。ガロは最後の言葉を言い残し、その場に倒れて息絶えた。一方のアグネロはギリギリで意識を保っている状態であった。うつ伏せで倒れるアグネロの腰辺りにヒマレは手を当てていた。その手は光り輝いている。


「アグネロ……アグネロ」


 ガロを殺したキャスは、目線をアグネロ達に向けて口を開く。


「えーなになにぃ、手が光ってるねぇ!まだそいつに戦ってもらおうと思ってんの?無理でしょもう」



「無理……じゃねぇ」


 どうにか気を保ってるアグネロは、ゆっくりと立ち上がると戦闘態勢に入った。まだまだ心は折れない。ヒマレによるほんの数分の手当てで少々回復したようだ。ただ、重症であることは変わりない。



「おお強いね、その身体でまだ戦えるのね」


「ヒマレ、ありがとう。あとは任せろ、お前は少し下がっててくれ」


「あうん、負けないで……アグネロ」


 アグネロに思いを告げたヒマレは、その場から距離を置いて戦いの様子を見つめる。


「本当は、君達2人とも売り飛ばした方が良いけど、男の方はボロボロだから殺すね。女の方は可愛いから売り飛ばすね」


 不敵な笑みでそう告げたキャスは、銃口をアグネロに向けた。先程アグネロを撃ち抜いた銃である。


「死ね」


 キャスが引き金を引いたのと同時にアグネロは大きく息を吸い込んで、技を繰り出す。



「俺は負けねぇ。血炎暴砲けつえんぼうほうォォオ!!」


 アグネロは口から激しい炎を吐き出した。口から流れている血が炎に変わって相手を包み込んだという表現が適当であろう。その炎は、発砲された鉛弾をも溶かし、工場内が燃え盛った。


「はぁ……はぁ……」


 炎の中、気力だけでギリギリ立っているアグネロ。背後に避難しているヒマレは炎に巻き込まれずに無事である。キャスの姿は見えず、炎の中で焼かれていることだろうと思ったその時、アグネロの頭上からキャスの声が聞こえてきた。


「僕が銃だけだと思うなよぉ、死ねぇえ!」


 炎の中、アグネロの遥か頭上から現れたキャスは手に持った短剣をアグネロに向かって振りかざした。しかし、野生の勘がはたらいたアグネロは、キャスの声が聞こえた方に右手を伸ばした。


血炎大花火けつえんおおはなび!」


 アグネロの手から発射された炎の球は、キャスを確実に捉えるとそのまま天井を突き破り、轟音と共に爆破すると夕空に真っ赤なドデカイ炎の花火を咲かせた。


 勝者アグネロ。


「勝ったぜ」


 最後の力を使い果たしたアグネロはその場に倒れ込み、気を失った。


「アグネロッ!熱っ!」


 目の前でぶっ倒れたアグネロを助けに行こうとしたヒマレだったが、燃えさかる炎の熱さに邪魔され、アグネロの本へ近づく事が出来ずにいる。


「アグネロ……、今助けを呼んでくるから少しだけ待ってて」


 そう言って倉庫の外へ飛び出そうとしたヒマレは、目眩を起こして足取りがフラフラになり、出口の手前で倒れて気を失ってしまった。慣れない血法を使い過ぎたのだろう。アグネロとヒマレ2人が気を失い倒れてしまった。最悪の状況である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...