ロイヤルブラッド

フジーニー

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第二章

第21話 信じる

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「へぇ、中々肝が据わった女だな。おいガロ、俺はちょっくら昼寝するから、この女傷付けない程度に好きにしろ」


 バゲットは近くの壁に寄りかかり、胡座をかきながら腕を組んで目を閉じた。そして、自分勝手なバゲットの姿を見て、ガロは軽くため息を吐いた。


「全くいつも自己中な野郎だな。俺は歳上にしか興味ねーって言ってんだろって」


 そんなガロに対して、ヒマレが問いただす。

「ねぇ、起きてるあんた。あんた達の目的って何なのよ。人をさらって何をする気?」


「まぁそう焦んなって。そのうち、ちゃんと迎えが来るから焦んな焦んな」


「迎え?何よ迎えって。そうね、アグネロが助けに来てくれるかも知れないわね!」


「随分と信頼してるみてぇだな、そのアグネロとかいうガキのこと」


「そりゃあね。あんた達がどれだけ強いか知らないけど、アグネロが来ればワンパンよ」


「嬢ちゃんさ、そうやって今までも他力本願で生きてきたんか?自分で何も出来ないくせに虚勢張って、結局は人任せ。不憫で仕方ねぇよ」


「うるさい!確かに私は何も出来ないわよ、あんた達には敵わない。だってか弱い女の子だもの。でも、だから、今出来るのはアグネロを信じる事だけ」


「そうかい、そうかい。まぁ信じるのは自由だ。俺達は裏社会のブローカーで有名でな、人を人に売ってんだよ。お前は商品。今まで、数え切れねぇ程の人を売ってきたけど、ここまでなって、折れないのは嬢ちゃんが初めてだ。逃げるチャンスをやる」


 終始乱暴だったガロは、突然に手のひらを返したかの様な空気感を出てきた。そしてヒマレは思わぬ展開に、テンションが上がった。


「えっ、本当に!?」


「おぅ。そこのシャッターの横にシャッターを開けるスイッチがある。見て分かる通りそのスイッチはカバーが着いてて今は鍵が閉めてある。その鍵をこの部屋の中から探して、シャッターを開けれたら出てって良いぞ。制限時間は30分だ」


「分かった。絶対に出てってやるわ」


 ヒマレの根性が、運命を少しだけ変えた瞬間であった。血眼になって、鍵を探し始めたヒマレを見て、ガロは不敵な笑みを浮かべた。



「まぁ無理だろうが、せいぜい頑張れ」


「言われなくとも」




 それから必死に探すも鍵は中々見つからず、10分、20分と時間は経過していき、制限時間まで残り10分となった。



「もう諦めたら?俺がもう飽きてきたわ」

    

「絶対に諦めない。アグネロに恩を返すまでは、私の人生を諦めない」


「馬鹿だな。俺はよ、お前みたいに他人を信じて頑張るみたいな奴がキショくて1番嫌ぇなんだよ!」


「はぁ?あんたの価値観押し付けないでもらえる?そっちの方がキショいわ」


 元々ヒマレは相手によってはズバッと言える性格であった。意外と怖い。ヒマレがキレ返した直後に、シャッターの外から車のクラクションらしき音が4回聴こえてきた。その音で、先程まで爆睡していたバゲットも目を覚まし、言葉を発する。



「んー、多分ディスティネードさんだ。おいガロ、シャッター開けてやれ」


「また指図しやがって。まぁ仕方ねぇ、今日の獲物はお前が釣ってきたからな。おい嬢ちゃん、頑張って鍵を探してるとこ申し訳ないけど、シャッターは遠隔操作でリモコンは俺が持ってっから。希望を持たせて絶望に突き落とす俺の趣味に付き合ってくれてありがとう~。鼻っから助ける気なんてありませんでした~!」


 ガロは、これみよがしにリモコンを見せびらかすと、シャッターを開けるスイッチを押した。すると、シャッターはガタガタと音を立てながらゆっくりとせり上がり始めた。騙されたヒマレの表情は一変、怒りの眼へと変わり、我慢の限界に来ていた。



「ふざけるなっ!」


 怒り狂ったヒマレは、ガロの胸ぐらを掴んだ。その手はぶるぶると震えているのが分かる。


「俺に触んじゃねぇ!」


 今度はガロがキレた。ヒマレの怒りに負けない程の声量で言い返すと、ヒマレの右腕をガッと掴み、片手で思いっきりヒマレをぶん投げた。ヒマレの華奢な体は、壁に衝突すると、そのまま地面に倒れ込んだ。


「悔しい、悔しいよ」


 ヒマレの目からは、涙が静かに流れ始めていた。そして数秒後、シャッターが開ききると、ヒマレが乗せられてきた車の隣に同じ車が停まっていた。その車を見て、ガロが口を開く。


「なんだディスティネードさんじゃねぇのか。ありゃキャスの車だ」


 先程の会話からして、バゲットとガロ以外にもキャスという名の仲間がいる様だ。そこに居る3人がその車をじっと見つめる中、運転席からキャスであろう人物が降りて、大きく息を吸って、声を上げた。


「ヒマレェェエ!!!」


 なんと運転席から降りてきたのは、キャスという人物ではなく、紛れもなくアグネロだった。ヒマレのアグネロを信じる気持ちが届いたのかもしれない。
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