ロイヤルブラッド

フジーニー

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第一章

第18話 羽ばたけ

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    「みんなに、もう1つ、謝らなきゃいけないことがある!」



    アグネロは、先程と同じぐらいのボリュームで声を上げた。そして、従業員の何人かは、眉間にシワを寄せた。誰も思い当たる節が無いのだ。



    「俺はこれから、旅をする!そして……ヒマレを連れていく!」



    アグネロが、そう言った瞬間、その場が凍りついたように時が止まった。眉間に寄せていたシワが無くなり、目が点になっていた。



    「「「えーーー!!!」」」



    一瞬の沈黙が過ぎ、ヒマレ以外の従業員達は、目玉が飛び出るほどに驚いた。そして、ヒマレは列から離れると、アグネロの隣へと戻った。



    「みんな、ごめんね。みんなの事は一生忘れないよ」



    涙を堪えているような表情のヒマレは、無理につくった笑顔でそう言った。



    「やっぱり、彼氏なんかよ!」



    「彼氏ちゃうわ!」



    従業員の男の問いかけに、ヒマレは鋭いツッコミを入れた。


    「私は、ここのみんなが、美里町のみんなが大好きだよ!  だから、いつか……いつか必ず戻ってくるから……元気でいてください。あとね、思い出したら悲しくなるから、ずっとずっと触れてこなかったけど、イルミさんのこと私は諦めない。必ずどこかに居るって、死んでないって、いつか会えるって本気で思うから。だから、前に進みたい!」


    ヒマレは、堪えていた涙を抑えることが出来なかった。そんな熱い気持ちを伝えたヒマレの元へ、工場長が歩みを寄せた。そして、ヒマレの右手を両手で握り締め、口を開いた。


    「ヒマレちゃん、俺達はもう自由だ。ヒマレちゃんは、ヒマレちゃんの道を進んでほしい、応援してるよ。俺達はこれから誰かの為に、そして……自分達の為にワインを作り続けるよ。今までとは違う、1つ1つ丁寧に作り上げる、そして、世界的に有名なワインの町へと発展させるから。そして、イルミさんは必ず生きている。そう信じよう」


    「はい、ありがとうございます、工場長。私、楽しみにしてます。 どこか、遠い国で、美里町のワインを飲める日を楽しみにしてます」



     「うん、期待しててくれ。そしてアグネロ君、ヒマレちゃんをよろしく頼むね」


     工場長は、そう微笑んで、ヒマレの手をそっと離した。



    「おう。本当に申し訳ないけど、ヒマレを悲しませるような事はしないから、心配しないでくれ」


    アグネロはそう言って、右手の親指を立てて、みんなにグーサインを向けた。そんなかっこいいアグネロの肩を工場長は無言で軽く2回叩いた。



    「よーし!   それじゃあ、みんな!  作業始めるぞ!」


    「「「おー!」」」


    アグネロの方を向いていた工場長は、振り返り、従業員達を鼓舞した。そして、従業員達の返事は、今までには無かった、やる気と勇気に満ち溢れていた。



    「じゃあなーヒマレ、元気でな!」


    「うん、ありがとう。みんなも元気でね!」



    従業員達は、ヒマレに別れを告げると、それぞれの生産ラインに着いた。そして、ヒマレとアグネロは従業員達に背を向け、出口へと歩き出した。


    工場長は、段々遠ざかる2人の勇姿を見つめていた。工場を出ていくその背中は、とても逞しく勇ましかった。



    「羽ばたけ、ヒマレ」



    工場長はそう呟き、作業を始めるのであった。
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