19 / 51
第一章
第18話 羽ばたけ
しおりを挟む
「みんなに、もう1つ、謝らなきゃいけないことがある!」
アグネロは、先程と同じぐらいのボリュームで声を上げた。そして、従業員の何人かは、眉間にシワを寄せた。誰も思い当たる節が無いのだ。
「俺はこれから、旅をする!そして……ヒマレを連れていく!」
アグネロが、そう言った瞬間、その場が凍りついたように時が止まった。眉間に寄せていたシワが無くなり、目が点になっていた。
「「「えーーー!!!」」」
一瞬の沈黙が過ぎ、ヒマレ以外の従業員達は、目玉が飛び出るほどに驚いた。そして、ヒマレは列から離れると、アグネロの隣へと戻った。
「みんな、ごめんね。みんなの事は一生忘れないよ」
涙を堪えているような表情のヒマレは、無理につくった笑顔でそう言った。
「やっぱり、彼氏なんかよ!」
「彼氏ちゃうわ!」
従業員の男の問いかけに、ヒマレは鋭いツッコミを入れた。
「私は、ここのみんなが、美里町のみんなが大好きだよ! だから、いつか……いつか必ず戻ってくるから……元気でいてください。あとね、思い出したら悲しくなるから、ずっとずっと触れてこなかったけど、イルミさんのこと私は諦めない。必ずどこかに居るって、死んでないって、いつか会えるって本気で思うから。だから、前に進みたい!」
ヒマレは、堪えていた涙を抑えることが出来なかった。そんな熱い気持ちを伝えたヒマレの元へ、工場長が歩みを寄せた。そして、ヒマレの右手を両手で握り締め、口を開いた。
「ヒマレちゃん、俺達はもう自由だ。ヒマレちゃんは、ヒマレちゃんの道を進んでほしい、応援してるよ。俺達はこれから誰かの為に、そして……自分達の為にワインを作り続けるよ。今までとは違う、1つ1つ丁寧に作り上げる、そして、世界的に有名なワインの町へと発展させるから。そして、イルミさんは必ず生きている。そう信じよう」
「はい、ありがとうございます、工場長。私、楽しみにしてます。 どこか、遠い国で、美里町のワインを飲める日を楽しみにしてます」
「うん、期待しててくれ。そしてアグネロ君、ヒマレちゃんをよろしく頼むね」
工場長は、そう微笑んで、ヒマレの手をそっと離した。
「おう。本当に申し訳ないけど、ヒマレを悲しませるような事はしないから、心配しないでくれ」
アグネロはそう言って、右手の親指を立てて、みんなにグーサインを向けた。そんなかっこいいアグネロの肩を工場長は無言で軽く2回叩いた。
「よーし! それじゃあ、みんな! 作業始めるぞ!」
「「「おー!」」」
アグネロの方を向いていた工場長は、振り返り、従業員達を鼓舞した。そして、従業員達の返事は、今までには無かった、やる気と勇気に満ち溢れていた。
「じゃあなーヒマレ、元気でな!」
「うん、ありがとう。みんなも元気でね!」
従業員達は、ヒマレに別れを告げると、それぞれの生産ラインに着いた。そして、ヒマレとアグネロは従業員達に背を向け、出口へと歩き出した。
工場長は、段々遠ざかる2人の勇姿を見つめていた。工場を出ていくその背中は、とても逞しく勇ましかった。
「羽ばたけ、ヒマレ」
工場長はそう呟き、作業を始めるのであった。
アグネロは、先程と同じぐらいのボリュームで声を上げた。そして、従業員の何人かは、眉間にシワを寄せた。誰も思い当たる節が無いのだ。
「俺はこれから、旅をする!そして……ヒマレを連れていく!」
アグネロが、そう言った瞬間、その場が凍りついたように時が止まった。眉間に寄せていたシワが無くなり、目が点になっていた。
「「「えーーー!!!」」」
一瞬の沈黙が過ぎ、ヒマレ以外の従業員達は、目玉が飛び出るほどに驚いた。そして、ヒマレは列から離れると、アグネロの隣へと戻った。
「みんな、ごめんね。みんなの事は一生忘れないよ」
涙を堪えているような表情のヒマレは、無理につくった笑顔でそう言った。
「やっぱり、彼氏なんかよ!」
「彼氏ちゃうわ!」
従業員の男の問いかけに、ヒマレは鋭いツッコミを入れた。
「私は、ここのみんなが、美里町のみんなが大好きだよ! だから、いつか……いつか必ず戻ってくるから……元気でいてください。あとね、思い出したら悲しくなるから、ずっとずっと触れてこなかったけど、イルミさんのこと私は諦めない。必ずどこかに居るって、死んでないって、いつか会えるって本気で思うから。だから、前に進みたい!」
ヒマレは、堪えていた涙を抑えることが出来なかった。そんな熱い気持ちを伝えたヒマレの元へ、工場長が歩みを寄せた。そして、ヒマレの右手を両手で握り締め、口を開いた。
「ヒマレちゃん、俺達はもう自由だ。ヒマレちゃんは、ヒマレちゃんの道を進んでほしい、応援してるよ。俺達はこれから誰かの為に、そして……自分達の為にワインを作り続けるよ。今までとは違う、1つ1つ丁寧に作り上げる、そして、世界的に有名なワインの町へと発展させるから。そして、イルミさんは必ず生きている。そう信じよう」
「はい、ありがとうございます、工場長。私、楽しみにしてます。 どこか、遠い国で、美里町のワインを飲める日を楽しみにしてます」
「うん、期待しててくれ。そしてアグネロ君、ヒマレちゃんをよろしく頼むね」
工場長は、そう微笑んで、ヒマレの手をそっと離した。
「おう。本当に申し訳ないけど、ヒマレを悲しませるような事はしないから、心配しないでくれ」
アグネロはそう言って、右手の親指を立てて、みんなにグーサインを向けた。そんなかっこいいアグネロの肩を工場長は無言で軽く2回叩いた。
「よーし! それじゃあ、みんな! 作業始めるぞ!」
「「「おー!」」」
アグネロの方を向いていた工場長は、振り返り、従業員達を鼓舞した。そして、従業員達の返事は、今までには無かった、やる気と勇気に満ち溢れていた。
「じゃあなーヒマレ、元気でな!」
「うん、ありがとう。みんなも元気でね!」
従業員達は、ヒマレに別れを告げると、それぞれの生産ラインに着いた。そして、ヒマレとアグネロは従業員達に背を向け、出口へと歩き出した。
工場長は、段々遠ざかる2人の勇姿を見つめていた。工場を出ていくその背中は、とても逞しく勇ましかった。
「羽ばたけ、ヒマレ」
工場長はそう呟き、作業を始めるのであった。
45
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
黒いモヤの見える【癒し手】
ロシキ
ファンタジー
平民のアリアは、いつからか黒いモヤモヤが見えるようになっていた。
その黒いモヤモヤは疲れていたり、怪我をしていたら出ているものだと理解していた。
しかし、黒いモヤモヤが初めて人以外から出ているのを見て、無意識に動いてしまったせいで、アリアは辺境伯家の長男であるエクスに魔法使いとして才能を見出された。
※
別視点(〜)=主人公以外の視点で進行
20話までは1日2話(13時50分と19時30分)投稿、21話以降は1日1話(19時30分)投稿
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる