ロイヤルブラッド

フジーニー

文字の大きさ
上 下
15 / 51
第一章

第14話 好き

しおりを挟む
  「お前の火、本当に中々だぜ?   俺の炎と互角なんてよ。一発で決められなくて悪いな」


    「褒めてくれてありがとうー。こちらこそ、一発で殺すって嘘ついちゃったよ。てかさ、火とか炎とかこだわるの辞めな、別に変わらないでしょ。火が広範囲燃えてれば炎なんでしょ」


   「まあそれも間違ってはないけど、火と炎は決定的な違いがある。炎は火を2つ重ねてるから、広範囲の火を示してるように思える。だが、本来の意味は違う。 お前の周りを見てみろ」


    「は?」


    ファイは言われた通り、自分の周りをキョロキョロと見渡した。



    「そして、俺の周りを見てみろ」


    アグネロの方を見るファイは、面白いことに気が付いた。ファイの周りは燃えているのに、アグネロの周りはほとんど燃えていなかった。


    「なーるほどね、少々驚き」


    「気付いた?」


    「火をも燃やす火ってことで炎ね、オモロい魔法。そんなインチキトンチが通用するとか、ロイヤルはおっかないわ」


    少々驚いたというファイ。自分の火が火によって燃やされるという発想は無かったようだ。


    「さすが気付いたか、俺の炎は火をも焼き尽くすんだぜ?  あーカッチョイイ。あともう1つ勘違いしてるから教えてやる。俺の炎はな、魔法じゃない。血法ちほうだ」


  「血法は初耳すぎ。君、今殺すには惜しいわ。面白いから、今回は生かしてあげる」



 「え?逃げる気?」



 「逃げるって捉えて貰って良いよ。じゃあね、もうこの町に用はないから」



    足の裏からの火のブーストで、宙に浮いたファイは、天井を破ってどこかへ消えていった。

    ファイにどんな思惑があり、何のために美里町に来て、何のためにワインを上納させたのか、何故支配という恐怖で縛り付けたのか、何も分からなかった。ただ1つ言えることは、アグネロのお陰で町が解放されたということ。


  「うっわ、男のくせにずりぃ奴ー。てか偽物かぁ。ここにも無かったかぁ」


    アグネロは、少々不貞腐れた表情で唇を尖らせて意味深な言葉を呟いた。


  「でもでも、これでヒマレ達は少し救われるかな。それだけでも嬉しいや」


    不貞腐れ顔から、清々しい笑顔に変わったアグネロの表情は、人の良さが滲み出ている。そんな良い人のアグネロは、出口から外に出て行った。



    「アグネロ!」


    アジトから出てきたアグネロに向かって、ヒマレは心の奥底から叫びをぶつけた。



    「なんだヒマレ、また俺を殺しに来たか。この俺、アグネロ・バロンドーム様を」



    「もういいよ、アグネロ。  全部見てた…… ありがとう……本当にありがとう」



    ヒマレの頬を雫がスーっと流れ落ちる。



   「ばれたか、騙してごめんな」



    アグネロは照れくさそうに苦笑いして答えた。


    「でも、どうして……どうして、わざわざ自分から怨みを買うようなことしたの。初めから私達の味方になって、普通に助けてくれたら良かったのに」



    ヒマレの言う通りである。初めから偽物バロンドームを倒すつもりなら、自ら名を晒して悪者になる必要ないはずだ。



    「なんかさ、この町の淀んだ空気を変えたかったんだ。目の前でワインを飲まれて、危機的状況になったら、みんながもっともっと団結するんじゃないかなってさ」



    「アグネロ…」



    「それが、バロンドームの仕業だと分かれば、余計に闘士が燃えるかなって。そして、みんなで俺を殺しに来たら潔くやられた振りをする、そうすれば勇気と自信が湧くかなって思ってさ、勝手なやり方だけど」


    アグネロの優しさに、涙が止まらないヒマレ。


    「あとはね、君の事が人として好きになったから。俺と一緒に来て欲しくなっちゃって。 でも君は、ここの町の人が温かいって言ってた、君にも町の人が必要だし、町にも君は必要な人だと思った。だから、嫌われれば、諦めがつくかと……」


    「馬鹿だね、アグネロは。私が命を助けた人物がそんな酷い奴だったって分かったら、その時の私の気持ちはどうなるのよ」


    「あっ、ごめん。確かにそうだ、考えてなかった、ごめん」


     アグネロは、ヒマレに頭を深く下げた。


   「私は、真実を知ったんだから、もう逃がさないから。工場まで一緒に来て。みんなに伝える」



    「はい、わかりました」



    アグネロは頭を下げたまま答えた。


   (どうしよ、好きって言われたよね私、言われたよね、女として好きって言われたよね)


    人としてである。ヒマレは意外にも乙女チックな心の持ち主なの〝かも〟しれない。


    そうして、2人は工場へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黒いモヤの見える【癒し手】

ロシキ
ファンタジー
平民のアリアは、いつからか黒いモヤモヤが見えるようになっていた。 その黒いモヤモヤは疲れていたり、怪我をしていたら出ているものだと理解していた。 しかし、黒いモヤモヤが初めて人以外から出ているのを見て、無意識に動いてしまったせいで、アリアは辺境伯家の長男であるエクスに魔法使いとして才能を見出された。 ※ 別視点(〜)=主人公以外の視点で進行 20話までは1日2話(13時50分と19時30分)投稿、21話以降は1日1話(19時30分)投稿

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

処理中です...