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第一章
第14話 好き
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「お前の火、本当に中々だぜ? 俺の炎と互角なんてよ。一発で決められなくて悪いな」
「褒めてくれてありがとうー。こちらこそ、一発で殺すって嘘ついちゃったよ。てかさ、火とか炎とかこだわるの辞めな、別に変わらないでしょ。火が広範囲燃えてれば炎なんでしょ」
「まあそれも間違ってはないけど、火と炎は決定的な違いがある。炎は火を2つ重ねてるから、広範囲の火を示してるように思える。だが、本来の意味は違う。 お前の周りを見てみろ」
「は?」
ファイは言われた通り、自分の周りをキョロキョロと見渡した。
「そして、俺の周りを見てみろ」
アグネロの方を見るファイは、面白いことに気が付いた。ファイの周りは燃えているのに、アグネロの周りはほとんど燃えていなかった。
「なーるほどね、少々驚き」
「気付いた?」
「火をも燃やす火ってことで炎ね、オモロい魔法。そんなインチキトンチが通用するとか、ロイヤルはおっかないわ」
少々驚いたというファイ。自分の火が火によって燃やされるという発想は無かったようだ。
「さすが気付いたか、俺の炎は火をも焼き尽くすんだぜ? あーカッチョイイ。あともう1つ勘違いしてるから教えてやる。俺の炎はな、魔法じゃない。血法だ」
「血法は初耳すぎ。君、今殺すには惜しいわ。面白いから、今回は生かしてあげる」
「え?逃げる気?」
「逃げるって捉えて貰って良いよ。じゃあね、もうこの町に用はないから」
足の裏からの火のブーストで、宙に浮いたファイは、天井を破ってどこかへ消えていった。
ファイにどんな思惑があり、何のために美里町に来て、何のためにワインを上納させたのか、何故支配という恐怖で縛り付けたのか、何も分からなかった。ただ1つ言えることは、アグネロのお陰で町が解放されたということ。
「うっわ、男のくせにずりぃ奴ー。てか偽物かぁ。ここにも無かったかぁ」
アグネロは、少々不貞腐れた表情で唇を尖らせて意味深な言葉を呟いた。
「でもでも、これでヒマレ達は少し救われるかな。それだけでも嬉しいや」
不貞腐れ顔から、清々しい笑顔に変わったアグネロの表情は、人の良さが滲み出ている。そんな良い人のアグネロは、出口から外に出て行った。
「アグネロ!」
アジトから出てきたアグネロに向かって、ヒマレは心の奥底から叫びをぶつけた。
「なんだヒマレ、また俺を殺しに来たか。この俺、アグネロ・バロンドーム様を」
「もういいよ、アグネロ。 全部見てた…… ありがとう……本当にありがとう」
ヒマレの頬を雫がスーっと流れ落ちる。
「ばれたか、騙してごめんな」
アグネロは照れくさそうに苦笑いして答えた。
「でも、どうして……どうして、わざわざ自分から怨みを買うようなことしたの。初めから私達の味方になって、普通に助けてくれたら良かったのに」
ヒマレの言う通りである。初めから偽物バロンドームを倒すつもりなら、自ら名を晒して悪者になる必要ないはずだ。
「なんかさ、この町の淀んだ空気を変えたかったんだ。目の前でワインを飲まれて、危機的状況になったら、みんながもっともっと団結するんじゃないかなってさ」
「アグネロ…」
「それが、バロンドームの仕業だと分かれば、余計に闘士が燃えるかなって。そして、みんなで俺を殺しに来たら潔くやられた振りをする、そうすれば勇気と自信が湧くかなって思ってさ、勝手なやり方だけど」
アグネロの優しさに、涙が止まらないヒマレ。
「あとはね、君の事が人として好きになったから。俺と一緒に来て欲しくなっちゃって。 でも君は、ここの町の人が温かいって言ってた、君にも町の人が必要だし、町にも君は必要な人だと思った。だから、嫌われれば、諦めがつくかと……」
「馬鹿だね、アグネロは。私が命を助けた人物がそんな酷い奴だったって分かったら、その時の私の気持ちはどうなるのよ」
「あっ、ごめん。確かにそうだ、考えてなかった、ごめん」
アグネロは、ヒマレに頭を深く下げた。
「私は、真実を知ったんだから、もう逃がさないから。工場まで一緒に来て。みんなに伝える」
「はい、わかりました」
アグネロは頭を下げたまま答えた。
(どうしよ、好きって言われたよね私、言われたよね、女として好きって言われたよね)
人としてである。ヒマレは意外にも乙女チックな心の持ち主なの〝かも〟しれない。
そうして、2人は工場へと向かった。
「褒めてくれてありがとうー。こちらこそ、一発で殺すって嘘ついちゃったよ。てかさ、火とか炎とかこだわるの辞めな、別に変わらないでしょ。火が広範囲燃えてれば炎なんでしょ」
「まあそれも間違ってはないけど、火と炎は決定的な違いがある。炎は火を2つ重ねてるから、広範囲の火を示してるように思える。だが、本来の意味は違う。 お前の周りを見てみろ」
「は?」
ファイは言われた通り、自分の周りをキョロキョロと見渡した。
「そして、俺の周りを見てみろ」
アグネロの方を見るファイは、面白いことに気が付いた。ファイの周りは燃えているのに、アグネロの周りはほとんど燃えていなかった。
「なーるほどね、少々驚き」
「気付いた?」
「火をも燃やす火ってことで炎ね、オモロい魔法。そんなインチキトンチが通用するとか、ロイヤルはおっかないわ」
少々驚いたというファイ。自分の火が火によって燃やされるという発想は無かったようだ。
「さすが気付いたか、俺の炎は火をも焼き尽くすんだぜ? あーカッチョイイ。あともう1つ勘違いしてるから教えてやる。俺の炎はな、魔法じゃない。血法だ」
「血法は初耳すぎ。君、今殺すには惜しいわ。面白いから、今回は生かしてあげる」
「え?逃げる気?」
「逃げるって捉えて貰って良いよ。じゃあね、もうこの町に用はないから」
足の裏からの火のブーストで、宙に浮いたファイは、天井を破ってどこかへ消えていった。
ファイにどんな思惑があり、何のために美里町に来て、何のためにワインを上納させたのか、何故支配という恐怖で縛り付けたのか、何も分からなかった。ただ1つ言えることは、アグネロのお陰で町が解放されたということ。
「うっわ、男のくせにずりぃ奴ー。てか偽物かぁ。ここにも無かったかぁ」
アグネロは、少々不貞腐れた表情で唇を尖らせて意味深な言葉を呟いた。
「でもでも、これでヒマレ達は少し救われるかな。それだけでも嬉しいや」
不貞腐れ顔から、清々しい笑顔に変わったアグネロの表情は、人の良さが滲み出ている。そんな良い人のアグネロは、出口から外に出て行った。
「アグネロ!」
アジトから出てきたアグネロに向かって、ヒマレは心の奥底から叫びをぶつけた。
「なんだヒマレ、また俺を殺しに来たか。この俺、アグネロ・バロンドーム様を」
「もういいよ、アグネロ。 全部見てた…… ありがとう……本当にありがとう」
ヒマレの頬を雫がスーっと流れ落ちる。
「ばれたか、騙してごめんな」
アグネロは照れくさそうに苦笑いして答えた。
「でも、どうして……どうして、わざわざ自分から怨みを買うようなことしたの。初めから私達の味方になって、普通に助けてくれたら良かったのに」
ヒマレの言う通りである。初めから偽物バロンドームを倒すつもりなら、自ら名を晒して悪者になる必要ないはずだ。
「なんかさ、この町の淀んだ空気を変えたかったんだ。目の前でワインを飲まれて、危機的状況になったら、みんながもっともっと団結するんじゃないかなってさ」
「アグネロ…」
「それが、バロンドームの仕業だと分かれば、余計に闘士が燃えるかなって。そして、みんなで俺を殺しに来たら潔くやられた振りをする、そうすれば勇気と自信が湧くかなって思ってさ、勝手なやり方だけど」
アグネロの優しさに、涙が止まらないヒマレ。
「あとはね、君の事が人として好きになったから。俺と一緒に来て欲しくなっちゃって。 でも君は、ここの町の人が温かいって言ってた、君にも町の人が必要だし、町にも君は必要な人だと思った。だから、嫌われれば、諦めがつくかと……」
「馬鹿だね、アグネロは。私が命を助けた人物がそんな酷い奴だったって分かったら、その時の私の気持ちはどうなるのよ」
「あっ、ごめん。確かにそうだ、考えてなかった、ごめん」
アグネロは、ヒマレに頭を深く下げた。
「私は、真実を知ったんだから、もう逃がさないから。工場まで一緒に来て。みんなに伝える」
「はい、わかりました」
アグネロは頭を下げたまま答えた。
(どうしよ、好きって言われたよね私、言われたよね、女として好きって言われたよね)
人としてである。ヒマレは意外にも乙女チックな心の持ち主なの〝かも〟しれない。
そうして、2人は工場へと向かった。
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