ロイヤルブラッド

フジーニー

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第一章

第6話 理不尽に負けるな

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『はいはい、降りてきましたけど、何する気?僕を殺す気かな?無理だから辞めておきなー』

 その男は、スラッと長身でサラサラのロングヘアである。どこか気の抜けた、ヘラヘラした喋り方で相手を挑発しているような態度だ。
  

『あんた誰よ!何故こんな酷いことをした!!!』
  

 鬼の形相をしたイルミは、男の胸ぐらを掴み、腹の底から声を張り上げた。


『そんな血相変えて、レディは怖いねぇ。人に名前を聞く時は、先に名乗るって教わらなかったのかい?まあいいや。僕の名前は、ファイ・バロンドーム。聞いたことあるよね?』


 バロンドーム___
 この辺りに暮らしている者ならば、1度は聞いた事のある名だ。数多あるロイヤルブラッドの中で、火を使いこなす一族というぐらいの認識は、誰しも持っていてると言っても過言では無い。
  
 名を聞くまで、怒りが煮えたぎっていたイルミだが、バロンドームという名家に怖気付いたのか、掴んでいた胸ぐらから手を離し、力が抜けたかのように地面に座り込んでしまった。


『バロンドーム……。王族が、ロイヤルブラッドが、何の用なのよ』


『何の用かって聞かれたら、用なんてないんだけどね。支配だね。支配こそが強さの証明。僕の器の大きさを証明する為だけにこの町が選ばれましたー!』


 その時ヒマレは、数m離れたところに立っており、じっとその様子を見つめることしか出来ず、唇を噛み、拳を握りしめながら震えていた。ロイヤルブラッドとは、名実共にそれだけの力があるということだろう。
 その他、そこで見ている町民も、口出ししたら自分に危害が加わるのではないかと思い、何も出来ずにいる。


『ところで、僕の目の前にしゃがみ込む君ぃい、僕に逆らったら死刑っていうのは聞いてたかな?』


『えっ、聞いてたけど……。えっ辞めて!!お願いだから殺さないで……ください!!さっきは、ロイヤルって知らなかったから、もう逆らわないから、許してください!!お願いします!!』


 命の危険を感じ取ったイルミは、泣きじゃくり、目の前のファイにしがみつき、命乞いをした。その様子は、その場にいた他の者の目にしっかりと焼き付き、二度と忘れられない光景となる。


『知らなかったとか、関係ありません。死ね』


 先程まで、陽気な喋り方だったファイは、急に真顔になり、冷酷な言い草で台詞を吐き捨てた。すると、おもむろに右腕をイルミに向かって真っ直ぐに延ばし、掌を広げた。


 死ぬ。
 今ここで、人生が終わる。
 そう悟ったイルミは、腹を決めた。
 涙を拭い、立ち上がり、空気をいっぱい吸い込み、最期の言葉を発す。




  『理不尽に負けるなぁあ!!生き続けろぉお!!!』



 その言葉は、そこにいた全ての者の胸に鳴り響いた。そして、これからも忘れられない言葉となっていく。



『イルミさぁぁああん!!!!』


 イルミの元へ、駆け寄るヒマレだったが、時既に遅し。一歩踏み出した段階で、ファイの掌からは、火の球が発砲され、イルミを燃やし包んだ。そして、イルミは、ファイに片手で担がれ、燃え盛る建物へと勢い良く投げ捨てられた。一瞬の出来事であったが、ヒマレにはどこかスローモーションの様に映った。


 目の前で大切な人を失い、膝から崩れ落ちたヒマレを見下ろしながらファイは口を開く。


『残念でした。無力で低俗な人間は、この世には要らないんだよ。強さこそが身分の象徴。逆も然り、身分こそが強さなんだよ』



『どうして、どうしてよ。強さを証明する方法なんて、いくらだってある。人を殺すことが強さなんて間違ってる。身分が高ければ……ロイヤルブラッドだったら、何をしたって許されるっていうの!?』


『あぁ、そうだ』


 ファイの言葉に、怒り、憎しみ、悲しさ、様々な感情が入り交じり、大粒の涙を流しながら訴えかけるヒマレの声も突き刺すような眼差しも、ファイには響かない。


『私は絶対に許さない』



『お前も口だけね。そんなに悔しかったら、座り込んでないで、今からでも助けに行けば良いのにー』



『黙れ!!』



 挑発されて怒り狂ったヒマレは、立ち上がると同時に燃え盛る建物に向かって走って行ったが、側に居た他の人々に、危ないからと、無理矢理押さえつけられた。振り返ると、もうそこにファイの姿は無く、ヒマレは、感情をぶつけることすらも、助けることも叶わなかった。

 そして、数分後に消防車が到着し、消火活動を開始。その間に、太陽が朝の訪れを告げ、騒ぎを聞きつけた人々で溢れたが、ヒマレを含め、そこにいた人々は皆、即座に強制的に安全な場所に避難させられた。



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