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第一章
第5話 絶望
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___翌朝、午前4時。外はまだ暗く、太陽が顔を出す前に、ヒマレは目を覚ました。
『わー寝過ぎたな。10時間以上は寝たな。寝すぎも良くないけど、なんだかスッキリ』
ヒマレは、ベッドから上半身だけ起こし、軽く背伸びをしてから床に足を下ろした。そして、立ち上がり、ゆたゆたとお風呂場へと向かうと、シャワーを浴びだした。
『ふふん~ふ~ん♪』
シャワーを浴びながら鼻歌を歌うのが、ヒマレの日課であり、特別これといって、何の曲かは本人も分からないらしい。
15分程して、お風呂場から出て来くると、お気に入りの洋服を身にまとい、ドレッサーの前に座るとドライヤーで髪を乾かし始めた。
淡い黄色のカーディガンに白のスラックス。どうやら今日は仕事は休みのようだ。
『そうだ!もう看板出来上がってるはず。見に行っちゃおっと』
外はまだ薄暗いが、どうしても子ども食堂の名前が気になるようで、ウズウズしている。それから、ヘアセットと軽いメイクを済ますと、玄関横の姿鏡に写る可愛い自分をチェックし、家を飛び出して行った。
鳥のさえずりも聞こえない時間で、外を歩く人はまだ1人も居ない中、子ども食堂へと向かって歩みを進めるヒマレだった。その表情は、薄暗がりでも分かる程の笑みを浮かべている。
『いよいよご対面か。名前はイルミ食堂とかかな。いや、イルミさんはそんな傲慢タイプじゃないか』
余程嬉しいのか、しばらくの間、独り言を唱えながら歩いている。いつもより少しだけ歩くペースが早くなっているのも本人は気付いていないだろう。たまにスキップなんかしてみたりして、ウキウキ気分が隠しきれてないヒマレ。最後の角を曲がると、500m程先に、お待ちかねの食堂が見える。
はずだったのだが、ヒマレの目には、想像と違う光景が飛び込んできた。
『え、燃えてる。どうして』
昨日まで夢や希望を輝かせながら建っていた子ども食堂となる予定だった建物は、ヒマレの目の前で轟々と燃え盛っている。驚きが大きすぎて、何が起きているのか理解が追いつかないヒマレは考えるより先に、火の元へと走り出していた。
距離が近くなるにつれて、熱気がヒマレを襲ったが、怒りや悲しみ、様々な思いで混乱しているせいか、熱さをあまり感じていないようだ。火傷しないギリギリ数メートルまで近付いた。
他にも、近隣の住民が20人程、食堂が燃えていく様子を見ていた。呆然と立ち尽くすしかなく、為す術がなかった。
その中の1人が震えた声を絞り出しながら、ヒマレに近付いてきた。その声の主はイルミである。
『ヒマレー、信じられないよ。ようやくだよ。ようやく完成したんだよ?もう私どうしたら良いか』
『イルミさん、とりあえず出来ることをしましょう!消防は呼びましたか?』
今にも泣き崩れそうなイルミの両肩に手を添えて、ヒマレは冷静な判断を告げた。本当は自分も動揺しているはずなのだが、イルミの気持ちを考えたら、自分が冷静にならねばと、自分自身に言い聞かせるヒマレだった。
『うん、消防は呼んだよ。あと5分位で来ると思う。だけど、今更消火してももう無理だよ。こんなに燃えてちゃ、跡形も無くなるよ』
『イルミさん……』
さすがのヒマレも、現実を受け止めきれずに憔悴し、ネガティブ思考になっているイルミに、なんて声をかけたら良いのか分からなくなってしまっていた。そこにいる数人が、呆然と立ち尽くし、消防が来るのを待ち続けるしかなかった。
その他何名かは、熱さに耐えきれず、その場を離れ安全な場所へと避難しに向かった。
そんなパニック状態が続く中、どこからか、大きな声が響き渡る。
『どーもー、ただの人間の皆さーん!今日からこの町は僕のものにしまーす。逆らうものは皆死刑ねー!』
声の主は男だが、姿がどこにも見当たらない。
そこにいる全員が声の在処を探した。
『誰よ!どこにいるの!姿を見せなさいよ!!』
痺れを切らしたヒマレは男と同じ程のボリュームで叫び返した。
『ここでーすよー、今メラメラと燃えちゃってる建物の上に立ってますよー。僕が、この建物を燃やした犯人でーす!』
その声が聞こえた人々は一斉に建物の上へと目線を上げた。するとそこには、この辺りでは見慣れない男が立っていた。その男を見つけた瞬間に、怒り狂った態度のイルミが呼び掛ける。
『降りてこぉぉおい!!!』
我慢の限界が来ているイルミが、腹の底から声を張り上げたその瞬間に、その男はイルミの目の前まで素早く移動した。目で追えぬその速さに、更に緊張感が増した。
『わー寝過ぎたな。10時間以上は寝たな。寝すぎも良くないけど、なんだかスッキリ』
ヒマレは、ベッドから上半身だけ起こし、軽く背伸びをしてから床に足を下ろした。そして、立ち上がり、ゆたゆたとお風呂場へと向かうと、シャワーを浴びだした。
『ふふん~ふ~ん♪』
シャワーを浴びながら鼻歌を歌うのが、ヒマレの日課であり、特別これといって、何の曲かは本人も分からないらしい。
15分程して、お風呂場から出て来くると、お気に入りの洋服を身にまとい、ドレッサーの前に座るとドライヤーで髪を乾かし始めた。
淡い黄色のカーディガンに白のスラックス。どうやら今日は仕事は休みのようだ。
『そうだ!もう看板出来上がってるはず。見に行っちゃおっと』
外はまだ薄暗いが、どうしても子ども食堂の名前が気になるようで、ウズウズしている。それから、ヘアセットと軽いメイクを済ますと、玄関横の姿鏡に写る可愛い自分をチェックし、家を飛び出して行った。
鳥のさえずりも聞こえない時間で、外を歩く人はまだ1人も居ない中、子ども食堂へと向かって歩みを進めるヒマレだった。その表情は、薄暗がりでも分かる程の笑みを浮かべている。
『いよいよご対面か。名前はイルミ食堂とかかな。いや、イルミさんはそんな傲慢タイプじゃないか』
余程嬉しいのか、しばらくの間、独り言を唱えながら歩いている。いつもより少しだけ歩くペースが早くなっているのも本人は気付いていないだろう。たまにスキップなんかしてみたりして、ウキウキ気分が隠しきれてないヒマレ。最後の角を曲がると、500m程先に、お待ちかねの食堂が見える。
はずだったのだが、ヒマレの目には、想像と違う光景が飛び込んできた。
『え、燃えてる。どうして』
昨日まで夢や希望を輝かせながら建っていた子ども食堂となる予定だった建物は、ヒマレの目の前で轟々と燃え盛っている。驚きが大きすぎて、何が起きているのか理解が追いつかないヒマレは考えるより先に、火の元へと走り出していた。
距離が近くなるにつれて、熱気がヒマレを襲ったが、怒りや悲しみ、様々な思いで混乱しているせいか、熱さをあまり感じていないようだ。火傷しないギリギリ数メートルまで近付いた。
他にも、近隣の住民が20人程、食堂が燃えていく様子を見ていた。呆然と立ち尽くすしかなく、為す術がなかった。
その中の1人が震えた声を絞り出しながら、ヒマレに近付いてきた。その声の主はイルミである。
『ヒマレー、信じられないよ。ようやくだよ。ようやく完成したんだよ?もう私どうしたら良いか』
『イルミさん、とりあえず出来ることをしましょう!消防は呼びましたか?』
今にも泣き崩れそうなイルミの両肩に手を添えて、ヒマレは冷静な判断を告げた。本当は自分も動揺しているはずなのだが、イルミの気持ちを考えたら、自分が冷静にならねばと、自分自身に言い聞かせるヒマレだった。
『うん、消防は呼んだよ。あと5分位で来ると思う。だけど、今更消火してももう無理だよ。こんなに燃えてちゃ、跡形も無くなるよ』
『イルミさん……』
さすがのヒマレも、現実を受け止めきれずに憔悴し、ネガティブ思考になっているイルミに、なんて声をかけたら良いのか分からなくなってしまっていた。そこにいる数人が、呆然と立ち尽くし、消防が来るのを待ち続けるしかなかった。
その他何名かは、熱さに耐えきれず、その場を離れ安全な場所へと避難しに向かった。
そんなパニック状態が続く中、どこからか、大きな声が響き渡る。
『どーもー、ただの人間の皆さーん!今日からこの町は僕のものにしまーす。逆らうものは皆死刑ねー!』
声の主は男だが、姿がどこにも見当たらない。
そこにいる全員が声の在処を探した。
『誰よ!どこにいるの!姿を見せなさいよ!!』
痺れを切らしたヒマレは男と同じ程のボリュームで叫び返した。
『ここでーすよー、今メラメラと燃えちゃってる建物の上に立ってますよー。僕が、この建物を燃やした犯人でーす!』
その声が聞こえた人々は一斉に建物の上へと目線を上げた。するとそこには、この辺りでは見慣れない男が立っていた。その男を見つけた瞬間に、怒り狂った態度のイルミが呼び掛ける。
『降りてこぉぉおい!!!』
我慢の限界が来ているイルミが、腹の底から声を張り上げたその瞬間に、その男はイルミの目の前まで素早く移動した。目で追えぬその速さに、更に緊張感が増した。
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