偽装社長

玲王

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2話東雲心春

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ニュースにもなった、不慮の事故から2年が経つ頃。

「美夜ちゃん、食事はとらないと。」

親戚などいない私の保護者代わりとして、心春姉の叔父が毎日見舞いに来てくれている。 

合わせる顔なんてない。

私だけが生き残って、叔父さんの家族を亡くしてしまったから。  

心春姉の叔父は心春姉のお母さんの弟さん。
飲食店を経営してて、一人暮らし。

「叔父さん、ごめんなさい。」

涙がポロポロと出てしまう。
大好きだった、両親に、心春姉も亡くしてしまったから。

2年経っても、私にはトラウマの事件でもあるし、立ち直れない傷を負った。

「東雲さんー、今日で退院ですよ。」

2年前までは、昏睡状態だったのに、もう退院なのか。

あの事故の後、私と心春姉は運ばれたが、心春姉は脳に傷を負って大量出血してしまい帰らぬ人となった。

私は、腕に足、腰など。

酷いほどの骨折と頭に怪我をおって、緊急手術はしたものの、1年ぐらい昏睡状態でいた。

「美夜家に帰るよ。」

「はい、これからお世話になります。」

私が昏睡状態だった間、叔父さんはいろんな手続きをして、私を養子として引き取ったらしい。

清華美夜から東雲心春に。
心春姉の叔父が、今日から私のお父さん。

「叔父さん、これから私はどうすれば。」

「叔父さんなんてやめてくれよ。」

「今日から、俺は美夜ちゃんのお父さんになるんだから。」

へへっと頭をかいて、場を和ませようとする叔父さん。

心春姉とは似ていない性格だけど、仕事はできるらしい。

「じゃあ·····お父さん、よろしくお願いします。」

違和感しかない関係だけれど、きっと慣れるはず。

お父さんは、退院祝いで手料理を振舞ってくれるらしく、自宅で経営しているお店へと向かう。

「辛いものは食べれる?」

「大好きです。」

「じゃあ、辛い料理でおもてなしするか!」

子供のように、はしゃぐお父さん。
なんだか、面白い方だ。

「そういえば、なんだけど。」

はしゃいだと思ったら、いきなり真剣な表情になる。

「心春の会社のことなんだけど。」

「今は休社して、活動していないんだ。」

そっか、心春姉が亡くなって、会社が動いてないんだ。

あんなに、真剣に作り上げた会社が今となっては休社だなんて。

「俺からの提案なんだけど、嫌ならやらなくていい。」

片手にずっと持っていた、ファイルからある紙を取り出し、私に手渡した。

なんの、資料だ?

ホチキスで軽く止められた、紙をペラペラとめくり、じっくりと読む。

「心春の為にも、東雲心春として、社長を引き継いでくれないか?」

「東雲心春としてですか?」

「しゃ、社長を引き継ぐ?!?!」

唐突すぎて、動揺を隠せない私。

高校卒業した記憶しかないのに、目が覚めたら、東雲美夜になってて。

ついには、心春姉として社長を引き継ぐ····?

「無理にとは言わん!美夜ちゃんが良ければ。」

私が、社長になったとして上手くやっていける自信がどこにもない。

心春姉のように頭良くないし、経験だってない。

だけど·····。

このまま断ってしまったら、心春姉が今まで築いてきた会社をダメにしてしまう。

それだけは、絶対に嫌だ。

「分かりました、やります。」

「え、本当にか?!そ、それは良かった!!」

心春姉のために、叔父さん、じゃなくて、お父さんのためにも。

今日から、私は東雲美夜であり、有名ゲームソフトの社長 東雲心春になった。

きっと、これからも色んな壁にぶつかると思うけど、それも経験。

この言葉は心春姉の口癖とも言えるほど、よく私を励ますときに使っていた。

心春姉、これからの壁高すぎるよ、もう。
なんだか、笑えてきそうで、笑えない。

居ないはずの心春姉がなんだか、隣にいる気がして。

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