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30日目②
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実は、私は母様から餞別にと、ソロバンの他にも少しだけお小遣いをもらっている。それに、ちょびっとは私だって渡航の為に貯めていたへそくりがあるのだ。
親公認での渡航となった今、レオナードからのお金は受け取らずに、このお金だけでやりくりするのが一番良いと思っている。
なにせ彼との契約金は目玉が飛び出るくらいの金額。渡航のチケットだけでも有難すぎるというのに。
それにギリギリの所持金で挑む方が自分を試す為にも良い。やっぱり頼れるものがあればそれに甘えてしまうものだから。
ということを言えない私は、こんな狡い言葉でレオナードからの契約金を拒んだけれど、意外にも彼はあっさりと主張を引っ込めてくれた。
そして、布袋を懐に戻した彼は、今度は折りたたまれた紙を取り出した。───それは、とてもボロボロで、少しでも乱暴に扱ったら、すぐに敗れてしまいそうな契約書だった。結局、書き直さなかったのか。
ちょっと苦笑を浮かべて契約書に目を向ければ、レオナードはそれを一気に切り裂いた。
──────びりびりっ、びりびりびりびりっ。
いやちょっと、破りすぎじゃね?そんなことを思ったけれど、それを口に出す前に彼は細かく刻まれた契約書を一気に天に向かって放り投げた。
陽は既に西に沈み、夜の帳が落ちたこの公園に、舞う契約書の欠片はまるで花吹雪のようだった。クサイ小芝居だなと思いつつも、思わず見入ってしまう。
そして、紙吹雪の全てが地面に落ちた瞬間、レオナードは真顔でこんなことを言いだした。
「で、最後にお願いがあるんだが…………」
「あ゛」
ここでサヨナラが絵的に一番綺麗だというのに。
「一応聞くけど………何?」
何だか嫌な予感がして、すり足で彼と距離つつそう問えば、レオナードは真顔でこう言った。
「キスをしてして良いか?」
「……………………………」
無言になってしまった私をどうか責めないで欲しい。
だって、最後の最後にこんなお願いをされるなんて、想像すらしてなかった。っていうか、私と彼の間でそんな会話が起こり得るなんて、考えてもみなかった。だって、それが契約だったし。あ…………契約書、もうないか。
なら、まぁ良いや。最後だし。それにどうせキスと言っても、アイリーンさんと同じように額にするのだろう。ジャスティ再来だと思えば、それはそれで悪くない。
「良いわよ。お好きなところにどうぞ。でも、つま先だけは勘弁してね」
にこりと笑って首肯してみた。でも、一応予防線だけは引かせてもらう。
「ああ、わかった。では、ミリア嬢、目を閉じてくれ」
言われるがまま目を閉じれば、レオナードが私の頬に手を添える。そして彼は私にキスをした。
ただ、触れたのは額でも頬でもなく、────唇だった。
「…………え?や?ちょ、ちょっと待って」
「どうかしたか?」
脳内大パニックを起こす私とは対照的に、レオナードは至極冷静であった。
そんな彼を見て、私は思わず、いやいやいやいやと心の中でツッコミを入れつつも、こう叫んでしまった。
「なんで唇にキスするのよ!?」
夜の帳が落ちた公園に、のよぉー、のよぉー、のよぉーっと、私の叫び声が空しくこだまする。
ちなみに私は、全肺活量を使い果たして、ぜぇぜぇはぁはぁと、荒い息を繰り返す。その間レオナードはずっと無言のままだった。
そして彼が口を開いたのは、しばらくして私の息が整ってからだった。
「つま先がだめだと言ったら、唇しかないじゃないか」
さらりと言ってのけた彼に向かって、思わず手を伸ばして胸元を締め上げる。
「はぁ!?っんなわけないでしょ」
「ああ、確かにそうだな」
胸倉をつかまれても、レオナードはあっさりと私の言葉に頷いた。次いで、こんなことをのたまってくれた。
「ただ、ここ…………以外思い浮かばなかった」
『ここ』と言った瞬間、レオナードは手を伸ばして私の顎を優しく掴んで、親指の腹で唇を刷くように触れた。途端に心臓が暴れ出す。もう血流と言う名のラインがフル稼働。バックバックと忙しいことこの上ない。
駄目だ、離れないと心臓が…………爆発する!!
そう思って、一歩足を引いた途端、レオナードに強く抱きしめられてしまった。次いで、彼は長い睫毛を伏せるようにして、こんな言葉を私の耳に落とした。
「ミリア嬢、私はね君のことが─────────」
親公認での渡航となった今、レオナードからのお金は受け取らずに、このお金だけでやりくりするのが一番良いと思っている。
なにせ彼との契約金は目玉が飛び出るくらいの金額。渡航のチケットだけでも有難すぎるというのに。
それにギリギリの所持金で挑む方が自分を試す為にも良い。やっぱり頼れるものがあればそれに甘えてしまうものだから。
ということを言えない私は、こんな狡い言葉でレオナードからの契約金を拒んだけれど、意外にも彼はあっさりと主張を引っ込めてくれた。
そして、布袋を懐に戻した彼は、今度は折りたたまれた紙を取り出した。───それは、とてもボロボロで、少しでも乱暴に扱ったら、すぐに敗れてしまいそうな契約書だった。結局、書き直さなかったのか。
ちょっと苦笑を浮かべて契約書に目を向ければ、レオナードはそれを一気に切り裂いた。
──────びりびりっ、びりびりびりびりっ。
いやちょっと、破りすぎじゃね?そんなことを思ったけれど、それを口に出す前に彼は細かく刻まれた契約書を一気に天に向かって放り投げた。
陽は既に西に沈み、夜の帳が落ちたこの公園に、舞う契約書の欠片はまるで花吹雪のようだった。クサイ小芝居だなと思いつつも、思わず見入ってしまう。
そして、紙吹雪の全てが地面に落ちた瞬間、レオナードは真顔でこんなことを言いだした。
「で、最後にお願いがあるんだが…………」
「あ゛」
ここでサヨナラが絵的に一番綺麗だというのに。
「一応聞くけど………何?」
何だか嫌な予感がして、すり足で彼と距離つつそう問えば、レオナードは真顔でこう言った。
「キスをしてして良いか?」
「……………………………」
無言になってしまった私をどうか責めないで欲しい。
だって、最後の最後にこんなお願いをされるなんて、想像すらしてなかった。っていうか、私と彼の間でそんな会話が起こり得るなんて、考えてもみなかった。だって、それが契約だったし。あ…………契約書、もうないか。
なら、まぁ良いや。最後だし。それにどうせキスと言っても、アイリーンさんと同じように額にするのだろう。ジャスティ再来だと思えば、それはそれで悪くない。
「良いわよ。お好きなところにどうぞ。でも、つま先だけは勘弁してね」
にこりと笑って首肯してみた。でも、一応予防線だけは引かせてもらう。
「ああ、わかった。では、ミリア嬢、目を閉じてくれ」
言われるがまま目を閉じれば、レオナードが私の頬に手を添える。そして彼は私にキスをした。
ただ、触れたのは額でも頬でもなく、────唇だった。
「…………え?や?ちょ、ちょっと待って」
「どうかしたか?」
脳内大パニックを起こす私とは対照的に、レオナードは至極冷静であった。
そんな彼を見て、私は思わず、いやいやいやいやと心の中でツッコミを入れつつも、こう叫んでしまった。
「なんで唇にキスするのよ!?」
夜の帳が落ちた公園に、のよぉー、のよぉー、のよぉーっと、私の叫び声が空しくこだまする。
ちなみに私は、全肺活量を使い果たして、ぜぇぜぇはぁはぁと、荒い息を繰り返す。その間レオナードはずっと無言のままだった。
そして彼が口を開いたのは、しばらくして私の息が整ってからだった。
「つま先がだめだと言ったら、唇しかないじゃないか」
さらりと言ってのけた彼に向かって、思わず手を伸ばして胸元を締め上げる。
「はぁ!?っんなわけないでしょ」
「ああ、確かにそうだな」
胸倉をつかまれても、レオナードはあっさりと私の言葉に頷いた。次いで、こんなことをのたまってくれた。
「ただ、ここ…………以外思い浮かばなかった」
『ここ』と言った瞬間、レオナードは手を伸ばして私の顎を優しく掴んで、親指の腹で唇を刷くように触れた。途端に心臓が暴れ出す。もう血流と言う名のラインがフル稼働。バックバックと忙しいことこの上ない。
駄目だ、離れないと心臓が…………爆発する!!
そう思って、一歩足を引いた途端、レオナードに強く抱きしめられてしまった。次いで、彼は長い睫毛を伏せるようにして、こんな言葉を私の耳に落とした。
「ミリア嬢、私はね君のことが─────────」
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初めまして、茂栖もすです。このお話は10:10に更新しています。時々20:20にも更新するので、良かったら覗いてみてください٩( ''ω'' )و
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